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第2章ー10

 ワルシャワの街路には、市民の協力も得て、バリケードや塹壕が設置されていた。

 このバリケードや塹壕を駆使し、ポーランドの首都防衛軍は、市民と協力して、独軍の攻勢を迎え撃った。

 更に、もう一つの利点が、首都防衛軍にはあった。

 ワルシャワの都市機能を維持するために作られた地下水道網、この詳細な地図を、ワルシャワ首都防衛軍は持っており、この地下水道網を駆使して、抗戦することが、首都防衛軍には可能だったのである。

 また、ワルシャワの建物は、個別に簡易トーチカといってよい存在と化していた。


 独軍の中に少なからずいる第一次世界大戦、中でも西部戦線の経験者には、ワルシャワを巡る戦いは、悪夢を思い出す死闘となった。

「瞳の色が分かる中で戦え」

 を合言葉に、首都防衛軍は、独軍に抗戦した。

 独空軍は、急降下爆撃を駆使した精密爆撃で、ワルシャワ市街のポーランド軍の抗戦拠点は、容易に全て破壊できる、とゲーリング以下は豪語していたが、それは大言壮語なのが、3日も経たない内に明らかになる有様だった。


 何しろ、安全な筈の独軍の後方から、ポーランド軍が地下水道網を駆使して湧いてくるのが、珍しくないどころか、当たり前なのである。

「撃ったら、すぐ逃げろ」

 地下水道網から、飛び出して一連射を浴びせた後、すぐにポーランド兵は、地下水道網へと引き上げることが多発し、慌てて後方警備に戻った独陸軍を、独空軍が誤爆することも、しょっちゅうだった。

 地下水道網の出入り口を見つけては、そこに爆薬を大量に仕掛け、破壊していくのが、独軍工兵の日常となるのは、ワルシャワを巡る攻防戦が始まってすぐだった。


 更に、ワルシャワ市民までが、自分達に銃口を向けていることを知った独陸軍総司令部からは、ワルシャワ市の完全な破壊命令が出された。

(この命令に、ヒトラーが関与していたのか、独陸軍上層部のどこまでが関与していたのか、は21世紀になっても闇の中である。

 通説では、ヒトラーが、ブラウヒッチュ陸軍総司令官に、そのように命じた、とされているが、それを明示する会議録や文書命令が残っておらず、証言者も、また聞きでしか聞いていないため、親ナチ系の歴史学者は、ヒトラーは、そのような命令を出しておらず、独陸軍総司令部の独断による、と主張している。)


 このため、ワルシャワ市街は、徐々に完全破壊の度合いを強めていった。

 容赦のない絨毯爆撃や無差別砲撃で、ワルシャワの建物は相次いで破壊され、辛うじて残った部分も、ポーランド兵に利用されないように、と独軍工兵によって爆破された。

 このようなワルシャワ市街の破壊は、ワルシャワ市民の怒りを募らせ、独軍に向けられる銃口は、増すばかりだった。


 ワルシャワ攻防戦において、独陸軍の現場の総指揮を執った南方軍集団総司令官ルントシュテット元帥は、戦後、次のように回想している。

「ワルシャワ攻防戦中、ワルシャワ市街からは、猛烈な悪習が常に漂ってきた。火事でモノが燃える臭い、死体が腐敗することにより発生する臭い、それらが入り混じった何とも言えない悪臭だった。その悪臭の中で、我が軍の勇敢な兵士は寝泊まりして、ワルシャワ攻防戦を戦った。我々の総司令部は、ワルシャワを望見できる数キロ離れたところに置いていたが、そこが風上側にできる限りなってほしい、と常に私自身が願う有様だった」


「ワルシャワは、常に燃えていた。気が付けば、自分達の周りには、人間しかいなくなっていた。犬も猫もネズミでさえ、いなくなっていたのだ。何故にいなくなったのか。皆、熱さに耐えかねて、ワルシャワからいなくなっていたのだ」

 ワルシャワ陥落後に遺されていた、あるポーランド兵のメモ。

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