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第2章ー7

 ポーランド陸軍も、個々では勇戦した。

 戦術的には、勝利を収めることさえあった。


「グルンヴァルド以来、5世紀以上の間、ポーランド騎兵は、同数なら独軍に負けたことはない」

 16歳ながら、年齢を偽った志願兵として、騎兵の補給部隊の一員となったヤルゼルスキ二等兵は、直属の上官にあたる軍曹が言うのを聞いていた。

「ポーランド騎兵は、重騎兵としての突撃も、軽騎兵としての遊撃戦もこなせる世界でも優秀な騎兵なのだ。独軍に一泡吹かせてから、我々は国外へ脱出するぞ」

 軍曹は、力強くヤルゼルスキ二等兵に言って聞かせた。


 レヴィンスキー中将以下のポーランド陸軍の参謀達が、狙いを定めたのは、ワルシャワに最も近い位置から進撃する独第10軍だった。

 レヴィンスキー中将が今でも持っている独軍教科書に、極めて忠実に独陸軍は、ポーランド侵攻計画を立てていた。

 レヴィンスキー中将に言わせれば、

「もう少し、柔軟に作戦を立てろ、と教わらなかったのかね。確かに模範答案に選ばれるだろうが」

 と言う作戦計画だったのである。


 独陸軍は、第10軍に、装甲部隊を集中し、速やかに国境周辺でポーランド軍を粉砕、首都ワルシャワへの路を切り開くことになっていた。

 それに対処するため、第10軍に対峙するポーランドのクラクフ軍は、騎兵と山岳部隊を駆使して、進撃を遅滞させようとしていた。


 9月1日、独ソ両陸軍は、全戦線において、ポーランドへの侵攻を開始した。

 グデーリアン等、独軍で電撃戦を信奉する将軍達は、第10軍が快進撃を行うと確信していた。

 だが、旧式のポーランド騎兵の前に、第10軍は予想外の足止めを食うことになった。


「後方部隊が、ポーランド騎兵の遊撃戦の的になっています。それに対処するため、自動車部隊を張り付けています」

「君は、バカかね。そんなもの、徒歩歩兵に任せろ」

「それでは、後方部隊が、徒歩歩兵と行動することになり、ポーランド騎兵の遊撃戦に対処できません。補給無くして、装甲部隊は前進できません」

「装甲部隊の快足を殺すのか。包囲殲滅ができない」

「それなら、装甲部隊の補給を完全自動車化してください」

「そんな自動車は無い」

 第10軍司令部と、独陸軍参謀本部は、要約すれば、上記のような議論をする羽目になった。


 1939年当時、独陸軍の自動車化は、まだまだ遅れていた。

 一部の精鋭部隊に、自動車は集中しており、最前線の補給は、馬車が第一線で使われる有様だった。

 装甲部隊は、1日30キロ以上、1週間で200キロの急進撃が可能と、独軍の事前計画では考えられていたが、それは後方の安全が確保されているというのが、大前提だった。


 後方の安全を確保するために、騎兵の遊撃戦に対処するには、自動車化部隊の機動力が必要となると、徒歩歩兵と戦車による進撃が多発するという事になるのである。

 かといって、後方警備に装甲部隊を回すのは、論外だった。

 槍の穂先を自ら折るようなものである。

 徒歩歩兵は、悲鳴を上げながら、装甲部隊に随伴することになった。


 更に独軍には問題があった。

 戦車部隊の指揮に実際に慣れている上級士官(佐官クラス以上)の不足である。

 これは当たり前で、独軍は第一次世界大戦後、長きにわたり、戦車部隊を公式には保有していなかった。

 日本海兵隊のように、第一次世界大戦後、10年と空けずに、実戦で戦車部隊を、独軍は運用してきた訳ではない(というか、日本海兵隊が異常なのだが。)。


 こうしたことから、事前計画では、独陸軍は、ポーランド陸軍を包囲殲滅していけるはずが、ポーランド陸軍は、独軍の包囲に陥ることなく、多くが秩序だった退却を、ルーマニア国境方面に行うことが出来ていたのである。

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