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第6章ー29

 4月30日の朝、ノルウェーに侵攻した独軍は、日本海兵隊を始めとする日米英連合軍に完全に追い詰められた状況に陥っていた。

 独三軍の首脳は挙ってノルウェーからの完全撤退を、ヒトラーに対して主張している状況にあり、ヒトラーはこのような状況に鑑み、終にノルウェーからの独軍の撤退を許可した。

 とはいえ、それは極めて困難な独軍の撤退作戦の始まりであった。


 4月30日時点で、ノルウェーに侵攻した独軍は、2つの集団に分かれていた。

 1つがノルウェー南部、アーレンダールやクリスティアンサンにいる集団である。

 こちらは5000人余りの集団だった。

 もう一つがノルウェー北部、ナルヴィクにいる集団である。

 こちらは2000人余りの集団だった。


 この二つは余りにも離れていたので合流することは、そもそも不可能だった。

 このため、別々に撤退することになった。


 ノルウェー南部の集団は、ファルケンホルスト大将が直接、指揮を執っていた。

 空路によってノルウェーから独本土(実際にはデンマーク)へと撤退することは、輸送機不足から絶望的であり、海路によっての撤退しか方法が無いと判断された。

 とはいえ、独水上艦艇は、先のノルウェー沖海戦でほぼ消滅している。

 こういった事情から、夜陰に乗じての舟艇機動による撤退作戦が行われることになった。


 デンマーク、ノルウェーの漁民等から船を買い取り(実際には徴発した)、独軍はノルウェーからの撤退を策した。

 幸いなことに、4月30日の月齢は23日であり、深夜から明け方にかけては、月のない夜だった。

 そして、後方をノルウェー軍に任せた日本海兵隊の追撃は、ますます急であり、独軍は速やかなる独本土への帰還を試みるしかなかった。


 一方、ノルウェー北部の集団は、ディートル将軍が指揮を執った。

 こちらは、中立国のスウェーデンへの脱出を図るしかない状況だった。

 何しろノルウェー侵攻作戦のへき頭において、重装備を全て失ってしまい、わずか2000名余りの集団だったのである。


(沈没した駆逐艦の乗員も加わっていたので、3000名を越していたという説もあるが、駆逐艦の乗員は小銃すら持たずに、着の身着のままで独陸軍の兵士と合流していたのであり、本職の陸軍の軍人で無いことも相まって、駆逐艦の乗員は、戦力にはほとんど成らなかったという説が極めて強い。

 実際、死傷して戦えなくなった独陸軍の兵士から、駆逐艦の乗員は銃を受け取って戦わざるを得なかったという回想が幾つもあることから考えても、彼らは戦力から程遠かったというのが正しいようである。)


 それに対して、英軍1個旅団が、4月16日に山砲等の装備を整えた状態で、ナルヴィク港から増援として上陸してきている。

 また、ナルヴィク方面のノルウェー軍も順調に動員を進捗して、独軍と戦える態勢を整えている。

 そして、独本土からの距離を考えれば、ノルウェー北部の集団に対して、独本土から物資等を届けるのは困難どころから不可能と言っても過言ではなかった。

 こういったことから、4月30日時点で、単純な兵員比でも、ノルウェーと英軍の連合軍に対して、独軍は3分の1以下、補給が途絶していること等を総合的に考えれば、5分の1以下の戦力と見られても仕方のない惨状だった。


 ファルケンホルスト大将も、ディートル将軍も、自らの部下達を帰国させることは極めて困難な状況に陥っているのは承知していた。

 それでも、少しでも祖国独へ部下達を帰還させるために最善を尽くそうとしていた。


 一方、石原莞爾中将をはじめとする日本海兵隊の面々等の考えは逆だった。

 ここノルウェーで少しでも独軍の戦力を削ろうとし、最後の駆け引きが行われることになった。

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