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第6章ー26

 もし、この前の世界大戦の時、日本が欧州派兵を行わなかったら、英仏は日本に対して冷たい態度を執っていただろう。

 戦後のいわゆるヴェルサイユ=ワシントン条約体制において、日英同盟の水面下での存続ということはなくなり、世界大恐慌に対する対策として日本が英のスターリングブロックへの加入を認められるということも無いという事態が起きていた可能性は十分にある。


 たかが4個師団等の派兵がないだけではないか、無くとも英仏の態度は変わらない、という見方をする人もいるが、あの1914年の苦しい時に、即座に英仏に対して、日本が欧州派兵の声を挙げて実行した、という事実は英仏の国民に対して感情面で大きな影響があった。

 そして、ガリポリで、ヴェルダンで、チロル=カポレットで、最終攻勢で、日本の軍旗は英仏伊の軍旗と共に翻っていたのだ。

 遥々と同盟国の信義を護るために来て、世界大戦の苦楽を共にしてくれた日本人は真の友人だ、という感情が英仏等の国民の間では高まり、その想いは英仏の国民間で今でも遺っている。

 サムライ、日本が仏救援のために駆けつけるという新聞報道がなされた瞬間、これで独ソに勝てる、と思う者が激増し、逆に反戦平和デモの参加者が激減したという噂が仏市民の間で流れた程だ。


「本当にすみません。私にもう少し力があれば」

 土方歳一大佐の言葉に頭を殴られたような想いがしたアラン・ダヴー大尉は、もう少しどころか、かなりの力がないと無理なのに、土方大佐にそう言って思わず頭を下げた。

「今の君の力では、もう少しどころではないから、頭を下げる必要はない。だが、ノルウェー救援作戦に対する仏軍の態度は、日英米にとって腹立たしい想いがするものだ、ということは、君の心の中に止めてほしい」

「肝に銘じます」

 土方大佐の言葉に、ダヴー大尉は思わず頭を下げながら言った。


「これ以上は、言っても仕方ない話だから、話を変えるが。ノルウェー救援作戦のために、英陸軍1個旅団が投入されるという事だが、どこに投入されるのか、仏軍総司令部では把握しているのか」

「私が把握している限りでは、ナルヴィク方面だそうです」

 土方大佐の問いかけに、打てば響くようにダヴー大尉は答えた。

「ほう」

 土方大佐は想いを巡らせた。


「ナルヴィク方面では、ノルウェー軍1個師団が動員中の筈だ。1個師団と言っても、他の国では旅団と呼称される規模らしい、とも私は聞いているが」

「私も、そう把握しています」

 土方大佐からの問いかけとも、独り言ともとれる言葉に対して、ダヴー大尉は半ば返答した。


「ナルヴィク方面にいる独軍部隊は軽装備で、完全動員の1個連隊にも満たない約2000名程の筈だ。英陸軍1個旅団が投入されれば、まず問題なく勝てるだろう」

 第一次世界大戦からの豊富な戦歴を持つ土方大佐にしてみれば、この程度は容易な予測だった。

 土方大佐の言葉を受けて、ダヴー大尉は心強く思った。


「とはいえ、最大の問題は時間だ。我々には、どれだけ時間があるかだ」

「時間ですか」

 土方大佐の続けての言葉に、ダヴー大尉は疑問を覚えた。


「そうだ。ノルウェーでの戦闘は、あくまでも支作戦だ。欧州での決戦は独仏戦になるだろう。もし、これに我々が負けては、仏本土奪還作戦を我々は発動せねばならなくなり、戦争は2年は長引くことになる」

「確かにそうですね」

 土方大佐の言葉に、ダヴー大尉は相槌を打ったが、同時に懸念を覚えた。

 もし、仏本土が独軍に制圧されたら、仏政府全体が独に降伏するのではないか。

 ポーランドのように亡命政府を樹立してまでも、仏政府は戦えるのだろうか。

 先の心配をしすぎなのかもしれないが、とダヴー大尉は不安を覚えた。

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