第6章ー25
そんな経験をしながら、(義)兄達がベルゲンからオスロに向かっているとは、露知らずにアラン・ダヴー大尉は、4月15日に連絡士官の業務の一環として、遣欧総軍司令部を訪問していた。
本来の参謀長の石原莞爾中将が、ノルウェー救援のために編制された臨時海兵軍団長として、ノルウェーに赴いており、それに海兵隊出身の幕僚の約半分が付いていったため、遣欧総軍司令部は人手不足になっていた。
そのため、土方歳一大佐(先日、中佐から昇進)が、事実上の参謀長の職務を遂行しており、ダヴー大尉と面談してくれた。
「申し訳ありませんが、ノルウェー救援のために仏軍は割けません。英軍がナルヴィク救援のために1個旅団を送るので、それで何とかなるのでは、という意見が仏軍内部では強く、ガムラン将軍もそれに積極的に同意している模様です。どうしても、ノルウェー救援に仏軍を協力させてほしい、と言われるのなら、海軍艦艇でしたら、何とかなると思います」
「やはり、そうですか」
ダヴー大尉の自らの意見も含めた連絡に、土方大佐は渋い顔をしながら言った。
ノルウェー救援に、日米英は積極的に動いているが、仏は腰が重い。
もう少し仏軍もノルウェー救援に協力しろ、という(不満の)声が、英米からも出だしたことから、先日、遣欧総軍司令部は仏軍に対して何らかの協力をしてほしい、と申し入れをしたのだった。
それに対する返答を、ダヴー大尉が遣欧総軍司令部に伝えに来たという訳だった。
「そう渋い顔をされなくても良いのでは。実際、ノルウェーの戦況は、圧倒的に我々の優位にあると考えられますが」
ダヴー大尉は、4月15日現在、自分の把握しているノルウェーの戦況を思い起こしながら言った。
ノルウェー沖海戦の結果、独海軍の水上艦艇はほぼ消滅しきっており、トラファルガー海戦を遥かに上回る戦果を挙げた英海軍、いや、世界海軍史上最大の勝利だと英国では報じられているらしい。
(実際には、日米海軍のお陰ではないか、と日仏混血のダヴー大尉は、皮肉りたい気分だった。)
ノルウェーに侵攻した独陸軍等の将兵は重装備を失っており、質量共にノルウェー救援に当たっている日本海兵隊2個師団より劣勢な状況だった。
それに動員が進みつつあるノルウェー軍が加わるのだ。
ベルゲンからオスロへの進撃を、そろそろ日本海兵隊は開始している筈で、ノルウェーにおける陸上戦闘で、独が勝つことはまずあり得ない話で、5月中には終わるだろう。
そして、空の戦闘でも、日英米機動部隊の数の暴力の前に、独空軍は北大西洋からノルウェー上空の航空優勢を完全に喪失している。
勿論、日英米機動部隊に対する独空軍の攻撃は行われており、多大な戦果と引き換えに、「蒼龍」、「エンタープライズ」が損傷したという情報が飛び込んでいるが、空母19隻を持つ日英米機動部隊にしてみれば、充分に許容可能な損害で、英本国で3月もあれば両艦共に修理が完了するとのことだった。
こんな状況なのに、仏軍がノルウェー救援に行く必要があるのか、というのが、ダヴー大尉の本音の想いだった。
土方大佐は、ダヴー大尉の想いを察したらしく、口を開いた。
「確かに仏軍が、本土防衛のために一兵でも必要だというのは分かる。だが、政治を考えてほしい」
「政治ですか」
ダヴー大尉は首を傾げた。
「この前の世界大戦の時、日本が海兵隊4個師団等を欧州に送らなかったら、英仏はどう考えていたかな」
土方大佐は、ダヴー大尉に問いかけた。
「それは」
ダヴー大尉は、賢明な方だったので、土方大佐の問いかけで、言外の意味を察してしまった。
そうか、これはあの時の日本が欧州派兵を決断した時と似たような問題なのだ。
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