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第6章ー23

 その一方で、独空軍の日英米海軍への攻撃集中は、ノルウェーにいる独陸軍にしてみれば、悩ましい問題を引き起こしていた。

 確かに理性では、独空軍によって、日英米海軍を撃退しないと、海路から輸送船等を使い、ノルウェーへ重装備を運び込むことはできないのは、独陸軍の上層部には分かるのだ。


 何しろ、最早、独海軍の水上艦艇は全滅していると言っても過言ではない状況にある以上、独空軍の航空攻撃しか、日英米海軍の空母機動部隊に打撃を与えるのは困難だった。

 独ソの潜水艦により、日英米海軍を攻撃すればよい、と言われるかもしれないが、厳重に警戒している日英米海軍の水上艦艇に、独ソの潜水艦が正面攻撃を仕掛けるのはどうにも困難で、実際問題としてノルウェー戦の間に、独潜水艦が日英米海軍の空母機動部隊所属の水上艦艇を撃沈した例は無いという結末となる。

 逆に、独ソ併せて3隻の潜水艦が、英米海軍の水上艦艇に返り討ちになる有様となった。


 とは言え、実際に日本海兵隊のノルウェー救援作戦に対処しなければならない独陸軍からしてみれば、感情的にはこちらを支援してくれ、という想いが噴き出すのはやむを得ない話だった。

 空を舞うは、日米英の航空機のみ、独空軍は、自らの直接支援を行わない、という現実があっては。

 こちらも支援してくれ、という主張が独陸軍内で出るのは、ある意味で当然だった。

 だが、ゲーリング国家元帥以下、独空軍首脳部は、ノルウェー侵攻に当たっている独陸軍の直接支援については、事実上は拒絶せざるを得なかった。


 そもそも、独三軍の観点からすれば、ポーランドが崩壊した以上、次の最大の目標は、フランスだった。

 つまり、ノルウェー侵攻作戦は、あくまでも支作戦なのである。

 支作戦に力をつぎ込み過ぎて、最大の目標に対する力を削ぐことは、独陸軍、空軍共に、本来、望ましい話ではなかった。

 独空軍首脳部は、この点を指摘して、独陸軍首脳部を説得し、独陸軍首脳部も納得せざるを得なかった。


 とは言え、ノルウェーで実際に戦っている独陸軍の兵士たちにしてみれば、そんなことは無関係な話で、自分達を見捨てる話ともいえた。

 少しでも兵員や物資をノルウェーに送ってくれ、と上層部に言っても、それこそアリ輸送でしか物資が届かないのである。

 空輸で送って欲しい、と言っても、空軍はほぼ拒絶する有様で、現場の独陸軍兵士にしてみれば、冷たい態度にも程があるようにしか思えなかった。


(ちなみに、これは全くの誤解だった。

 ノルウェー侵攻作戦に投入されたJu52は、約500機だったが、鈍重な運動性能から、日英米海軍航空隊との空戦を行っては、当初から出撃の度に過半数以上が撃墜される惨状を呈した。

 最終的にはノルウェー侵攻作戦が終わった時点で、その中の9割以上が撃墜されてしまっていた。

 ノルウェーは、Ju52の墓場と言う現状だったのだ。

 また、この後、独軍空挺部隊が、空挺降下を試みることは基本的には大戦終結までなかったのである。)


 そして、日英米海軍航空隊が行う地上攻撃の猛威である。

 ベルゲン近郊の空港を確保した日英米軍は、早速、空軍航空隊も進出させる有様で(その中には、「あきつ丸」等によって運ばれた日本製の軍用機まであった。)、独陸軍の将兵にしてみれば、悪夢としか言いようがない現実だった。


 石原莞爾中将を臨時軍団長とする日本海兵隊は、航空支援を受けつつ、ベルゲンから半ば意気揚々とオスロ奪還に向かうこととなり、動員が徐々に完結したノルウェー軍もそれに積極的に協力した。

 こういった戦況を、前線から受け取った独軍はノルウェー制圧を断念し、徐々にノルウェーからの撤退、兵員救出へと傾くことになる。

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