第6章ー22
ベルゲン沖合に展開する日米英の空母機動部隊は、ノルウェー侵攻作戦に投入された独軍にしてみれば、最大の攻撃目標だった。
制空権、航空優勢の確保無くして、正規軍同士の地上戦での勝利は困難である。
これは、第一次世界大戦後半の頃から、各国の陸軍にとって常識化するようになり、この頃には半ば自明のこととなっていた。
そして、ノルウェー救援作戦に当たる日本海兵隊の航空支援に当たっているのは、日米英の空母機動部隊であり、これに大損害を与えれば、独軍が航空優勢を確保し、ノルウェーを占領できる望みはある。
独軍は、それに一縷の望みを託していた。
独空軍首脳部は、
「陸上基地の航空隊が、言わば不沈空母から攻撃できるのに対し、海上基地の航空隊では、空母を沈めればおしまいである。だから、陸上基地の航空隊の方が有利だ」
と第二次世界大戦勃発前に判断していたが、それこそケースバイケースだった。
1000機以上の搭載機を誇る大空母機動部隊に、航空攻撃を掛けるとなると、それこそ下手をすると対艦攻撃可能な独空軍の総力を挙げる必要があった。
本当に独空軍にしてみれば、相手が悪すぎると言えた。
吉川潔少佐は、朝潮型駆逐艦「夕立」の艦橋で、自らも空を睨んでいた。
「敵機が見えたら、すぐに報告せよ」
と見張り員に命じているが、自らも空を睨まないと、どうにも落ち着かないのだ。
「夕立」から見れば、ギリギリ水平線に見えるか見えないかの線で、味方の英米の駆逐艦も共に単艦で航行している。
「夕立」は、この日、敵機早期警戒のための哨戒線を形成する駆逐艦の1隻だった。
先日、独空軍の海面ギリギリを衝いての奇襲攻撃により、「蒼龍」が損傷してしまった。
幸いなことに沈没は免れ、英本国で修理を行うことになったが、早速、日英米の間で、空襲対策が問題となったのだ。
そして、思いつかれたのが、空母機動部隊の南側に、駆逐艦単独による哨戒線を作り、そこで独本土等から襲来する敵機を早期に探知する方法だった。
だが、問題があった。
駆逐艦単独で哨戒任務に当たる以上、僚艦による援護は期待できず、危険性が高い。
そこで、駆逐艦は、1日ごとに哨戒任務を交代し、1日やったら次の5日は艦隊直衛に当たるということになった。
確かに貴重な空母を護る必要があり、有効性もあるというのは、吉川少佐にも分かるが、単艦で航行するという危険から、背中に冷たい汗が流れる想いがしてならない任務だった。
更に独ソの潜水艦も、隙を狙っている。
空を見上げすぎて、足元をすくわれる危険もあるのだ。
「敵機の集団を発見。南南東から海面ギリギリを接近しています」
見張り員の大声が、吉川少佐の想いを途切れさせた。
「通信員、すぐに艦隊主力に警報を流せ、それから機関員、煙幕を出すんだ」
吉川少佐は、号令を発した。
艦隊主力に警報を発し、独空軍の攻撃を阻止せねばならない。
そして、煙幕を出すのは、艦隊主力に目で知らせるためだけではなく。
「一部の敵機が、右舷から本艦を狙っています」
見張り員の続報が、吉川少佐の次の決断を決めた。
「面舵一杯。盆踊りをするぞ」
気休めだが、少しでも敵機の照準を甘くさせ、回避運動を成功させるためだ。
この時は、最終的に「夕立」は無傷で済み、艦隊主力にも、被害が出ずに済んだ。
こんな感じで、し烈な空対艦戦闘を、独空軍と日英米海軍は繰り広げることになった。
ノルウェー戦が終了するまでに、日本海軍は駆逐艦「朝潮」を失い、英米海軍も併せて駆逐艦3隻を失う羽目になった。
だが、巡洋艦以上については、損傷艦はあったが、沈没艦を日英米海軍は出さずに済んだ。
この戦闘結果が、ノルウェー戦の帰趨を最終的に決めることになる。
史実では、「夕立」は白露型駆逐艦ですが、この世界では白露型が存在しておらず、「夕立」は朝潮型駆逐艦の一つになっています。
ご意見、ご感想をお待ちしています。




