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第6章ー21

 とは言え、零式重戦車には、このノルウェー戦当時の独軍の採れる手段としては、集束手榴弾を抱えての自爆攻撃が、最良の手段と分かったとしても、実際問題として独軍歩兵が、その手段を多用できるか、となると別問題である。

 それに、そもそも手榴弾でさえ、ノルウェー侵攻作戦に投入された独軍歩兵の間では、不足気味という現実があったのである。

 こういったことから、ベルゲン港死守を図った独軍部隊は、日本海兵隊の猛攻の前に、ベルゲンからの退却を余儀なくされてしまったのだった。


 こういった状況から、石原莞爾中将を、ノルウェー救援に当たる臨時編成の軍団長に充てた日本海兵隊は、4月14日朝を期してノルウェーの首都オスロ等を目指した進撃を開始した。

 その中には、当然のことながら、土方勇少尉や岸三郎中尉らも加わっていた。


 これに対処する独軍は、日本側等が呼称するところのベルリン急行、自らの将兵が蔑称するところのアリ輸送等を駆使して、何とか1万名余りをこれまでにノルウェー南部に運び込むことに成功していた。

 だが、独軍は、重装備に事欠き(この時、ノルウェー侵攻作戦に投入された独軍将兵の回想録によると、戦車があったというものもあるが、独軍の公式記録上は、ノルウェーには最後まで独軍の戦車は1両も運び込めていなかったという。)、また、地上軍への航空支援にも苦慮するという現状があった。


 航空母艦「伊勢」の板谷茂大尉は、独空軍の戦闘機に対する侮蔑を隠す気配すらなかった。

「全く、ベルリン近郊の飛行場からロンドン空襲に赴けない戦闘機なんて、どうして独は開発するのか」

 板谷大尉は、そう公言する有様だった。

 日本海軍航空隊の搭乗員達の態度も大同小異だった。

「独空軍の単座戦闘機は、鳥どころか、蝶々トンボでもない。敢えて言えば、空を飛べずに跳ねることしかできないバッタである」

 この当時、日本海軍航空隊の搭乗員は、そのように公言してはばからなかった。


 彼らからしてみれば、単座戦闘機と言えど、最新鋭と公言するなら、航続距離1200海里(つまり、2200キロ)は飛べて当たり前だった。

 実際、(彼らからしてみれば、艦上戦闘機に過ぎないのに)零式艦上戦闘機はそれだけ飛べた。

 ところが、艦上戦闘機より有利な筈の陸上戦闘機なのに、Bf109は、その半分も飛べなかった。

 勿論、独空軍の搭乗員にしてみれば、これに対する言い分、反論はあった。


 そんなに、飛ばされては、搭乗員の疲労が溜まってしまい、戦闘の際に不利である。

 前線を前に進め、飛行場を前に進めて戦えば済む話で、何でそんな航続距離を単座戦闘機が持たねばならないのか、という言い分、反論が独空軍の搭乗員からはあった。


 この辺り、単座戦闘機に対する考え方の違いとしか言いようがない。

 だが、少なくともノルウェー侵攻作戦においては、この航続距離の違いは、独軍にとっては致命傷になったといっても過言ではなかった。

 

 ベルゲン沖合に代わる代わる展開する日米英の空母機動部隊に対し、独空軍の双発爆撃部隊は、果敢な攻撃を加え、最終的には、「蒼龍」、「エンタープライズ」、「イーグル」といった空母3隻に損傷を与えることに成功する。

 だが、その代償として。


「ノルウェー侵攻作戦に投入されたHe111は、過半数が失われた。他の双発爆撃機部隊の損耗も同程度と言っても間違いではなかった。もし、ノルウェー侵攻作戦が無ければ、この後に行われたフランス侵攻作戦において、独空軍双発爆撃機部隊は、史実以上の活躍ができたはずだ。何故なら、戦闘機の援護なしの対艦攻撃を、彼らは強いられたからである」

 戦後に、独空軍のウーデッド将軍は、そう回想録に記述した。

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