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第6章ー16

 皮肉なことに、米海軍のフレッチャー提督と英海軍の本国艦隊の面々は、独巡洋戦艦2隻が、独に帰投しようとしているという情報を聞いても、頭に血が上らなかった。

「独の戦艦が、独本国に帰投できることよりも、独軍のノルウェー侵攻作戦を失敗に終わらせることが、遥かに重要なことではないかね」

 英本国艦隊司令長官のチャールズ・フォーブス提督は、そう周囲に言って、日本海兵隊2個師団が、ベルゲンへと向かうのを支援するのに、全力を尽くし、フレッチャー提督も、同様の態度を示したという。


 このノルウェー侵攻作戦が一段落した後、このことを知った小沢治三郎中将は、

「全く、フレッチャー提督と英海軍のお陰で、ノルウェー救援は、成功したようなものだった」

 と述懐する羽目になった。

 実際、角田覚治、山口多聞、両提督は共に、独巡洋戦艦を追い求める余り、日本海兵隊の輸送船団の間接護衛という任務を放り出す有様だった。

 フレッチャー提督が差し向けてくれた上空援護部隊によって、日本海兵隊はベルゲンへの逆上陸作戦においての航空支援を得られたのだ。


 話を、独巡洋戦艦2隻の追撃に戻す。

 この時、独巡洋戦艦2隻の指揮を、実際に取っていたのは、ギュンター・リッチェンス提督だった。

 生存者の中に、リッチェンス提督と、この時に直接、語り合った人は誰一人いない為に、この時の独巡洋戦艦が、どのような思惑で行動していたのかは、推測に頼るしかない。

 だが、たびたびの航路変更により、目的地を欺瞞しつつ、ヴィルヘルムスハーフェンへ何とか帰投しようとリッチェンス提督は、考えていたのではないか、というのが軍事史家の通説である。


 実際、4月10日の1日の間、ハルゼー、角田、山口の三提督が、それこそ何かに憑かれたかのような懸命の索敵行動を行ったにも関わらず、リッチェンス提督率いる独巡洋戦艦2隻は、その索敵行動をできる限りかわし続けることに成功し、結局、米海軍の空襲を1回、日本海軍の空襲を2回、受けるだけで済ませることに成功する。


 とはいえ、さすがに三波に渡る日米海軍航空隊の空襲が終わった4月10日の夜の時点で、独巡洋戦艦1隻は、海の底に沈んでおり、残りの1隻も傾斜して、後進しながら独本国へと向かう有様になっていた。

 正確には、この後で判明することだが、「シャルンホルスト」が海の底に沈み、「グナイゼナウ」が、その生存者をできる限り救出した上で、まともに舵が取れず、傾斜しながら、微速(3ノットと推定されている)を後進で出しつつ、独への帰投をこの時点で図る状況だったのだ。

(前進しては、水圧で隔壁が破れ、沈む公算大という惨状に、「グナイゼナウ」は陥っていたらしい。)


 4月11日の朝が来た。

 その時、「グナイゼナウ」の前に、角田少将率いる空母「伊勢」、「日向」、「龍驤」、軽巡洋艦「川内」、朝潮型駆逐艦6隻という部隊が立ちはだかった。


 角田少将は、独巡洋戦艦を追い求める余り、空母で戦艦に砲撃戦を挑むという、世界戦史史上唯一の機会に恵まれたのである。

 皮肉なことに、「伊勢」、「日向」には、20サンチ砲6門が、それぞれ積まれていた。


「砲撃用意。独巡洋戦艦は、我が空母部隊の砲撃で沈める」

 角田少将は、独潜水艦の襲撃を警戒したこともあり、そのように下令し、駆逐艦を対潜警戒任務に専念させることにした。


「グナイゼナウ」は、既に主砲どころか、副砲、高角砲まで、まともに射撃できる状況ではなかった。

 だが、それでも、降伏を拒み、最期まで機関を停止させず、白旗も掲げなかった。

「伊勢」、「日向」に加え、「龍驤」までもが、「グナイゼナウ」への砲撃に参加した。

 そして、「グナイゼナウ」は沈没した。

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