八話 あかりの着物
村に存在する唯一の呉服屋。綺麗に巻かれた色とりどりの布、無地から細工の施された物まで種類豊富な織物、少しばかりだが店の一角に洋服も並んでいる。
二人は店の中で並ぶ品々を物色していると、奥から綺麗に着飾った中年の女将らしき人物が姿を現した。
「あらどうも、いらっしゃいませ。二人仲良くお求めですか?」
ニコニコと笑みを向ける女将に、つむぎとあかりは俯いて、少し照れたように頬を染めている。
つむぎは女将へと視線を移すと、目的の品をおもむろに口に出した。
「こいつのパンツを見繕ってほしいんだ」
「つ、つむぎ様!?」
恥じらいも無く急にそう告げるつむぎに、あかりは顔を真っ赤にしてはつむぎへと視線を移した。
「あらあら」
口元に手を添えて、二人を見つめては微笑む女将。会ったばかりの二人の睦ましさを感じたのか、ふふふと小さく笑みを零している。
「女性用の下着が欲しいのね。パンツだけじゃ不足でしょう、こっちへいらっしゃい」
女将に促されるように、店の奥へとあかりは足を進め、つむぎは一人店内に取り残される形となった。
店の奥にある座敷へと女将が上がり、そこに設置されたタンスの引き出しを二つほど開けると、その場にあかりを手招いた。
「下着は街でしか手に入らないから貴重なの。いつもはこうして店には出さずに、下着を求めてやってくる女性にだけ売っているのよ。呉服ほど種類は無いけど、好きなのを選んでちょうだい」
引き出しの中には綺麗に整理整頓された女性用下着が並び、デザインこそはほとんど同じものの、選べるほどには色のバリエーションは豊富にある。その全てが上下セットになっており、好みを色を選ぶだけの仕様になっていたのも、女将の親切さゆえと思える。
あかりは白と薄水色を手に取り、それぞれ二組ずつ選んだようだ。
「それにしてもあなた見かけない顔ね。着物もかなりの上物だわ」
「そうなんですか?」
女将はあかりの着ている着物を覗き込むように見つめると、さすがに目利きが効くのか、その価値を瞬時に見抜いていた。
「えぇ、同じくらいの物だと……うちでは取り扱ってないわね。それこそ街まで足を運ばないと手に入らないくらいの品で、あなたの着ている物はその中でも格が高いの。振袖は綺麗な絵羽模様も入っているし、帯も上物ね」
「え? 帯にも格とかあるのですか?」
「もちろんあるわよ、あなたのは一番格上の袋帯ね。それも金糸と銀糸が使われて、厚めの織り絵になっているからかなりの物よ」
「知りませんでした……」
女将はあかりに向き合うと、大人の雰囲気を纏わせた優しい微笑みを向けた。
「久しぶりにいい物を見せてもらったわ。私もおかげで新しいイメージが沸いたし、下着はサービスにしてあげる」
「そ、そんな! 代金はきちんとお支払い致します!」
「ふふふ、気にしなくていいわよ。一度に四組も買うなんて、よそから来たんでしょ? せっかくうちに来てくれたんだし、同じ女として出来ることはさせてちょうだい」
「女将さん……」
同じ女として共感してくれる女将の優しさに、その気持ちを感じ取ったあかりは自然と嬉し涙を浮かべていた。
そんなあかりに女将は微笑むと、何かを思いついたかのようにポンと手を叩いた。
「そうだわ! あなた、村からは離れるんでしょう? その道のりは長いのかしら?」
「え? あ、はい……かなり長い旅路の予定です」
「あら、そう……うふふ」
きょとんとするあかりはそう答えると、女将はなにやら企むように悪い微笑みを零すのだった。
仕切られた着付け室、その中であかりは両手を左右に広げ、しゃがみ込む女将が帯の着付けを施していた。
「あ、あの……ほんとにこれを着るんですかぁ」
顔を赤くしてはモジモジと小さく呟くあかりに、女将は微笑みながら言葉を返す。
「私が最近考えた新しい着物の形なの。上品なあなたの振袖に手を加えたのは悪いけど、この姿のあなたを見れば、きっと彼も喜ぶはずよ」
「そ、そうですか……」
”彼も喜ぶはず”、女将のその言葉にあかりは一つだけ小さく呟くと、顔を真っ赤にさせては成されるがままになっていた。
一人残されたつむぎは、適当に店内の品々を眺めていた。男物の品も置いてあるようで、洋服コーナーにて黒のシャツを広げては見つめている。
すると、奥から女将が一人現れたことにつむぎは気付き、おもむろに声をかけた。
「あ、俺はこれを欲しいんだけど」
「ん~? いいわ譲ってあげる」
「え、いいの?」
「そんなのはどうでもいいの! それよりこれを見なさい!」
理由の分からない女将のサービス精神にきょとんとするつむぎは、女将がなにやら嬉しそうに張り切って、奥へと手を指し示すその先に視線を注目させた。
奥から現れたのは、華麗な絵羽模様の入った薄ピンク色の振袖を纏い、金糸と銀糸で大きな菱形や小さな花形に彩られた黄色の帯を締め、腰まである艶やかな柔らかい黒髪が清楚感を引き立て、若干顔を赤くするあかりの姿だった。
しかし、その着物はさっきまでと同じに見受けられるのだが、一つだけ大きく変わった点があった。
それを目にするつむぎは、目を丸くして硬直している。
それは――、以前は足首ほどまであった丈の長さが、今ではミニスカート並みに短くなっていたのだった。極端に短くなった丈からは、白く張りのある太ももが半分ほど顔を出し、その綺麗な美脚が露わとなっていた。
女将は両手を腰に添えると、鼻息を荒く一つ漏らしては、自信満々に口を開き出した。
「どう? 素晴らしい変わり映えでしょ! 新しい彼女の姿に、なにか言ってあげて」
つむぎは腕を組み、手を顎に添えてはじっとあかりを見つめてうなり出した。
「んん~……いいんじゃないか? 動きやすそうだし、別に変には思わないな。それにお前、綺麗な脚してるしな」
その言葉に女将はガッツポーズを構え、あかりは一番恥ずかしい部分である脚について言われたことで、顔をカーッと真っ赤に染め上げていた。
「気を付けて行ってらっしゃ~い」
店の外では、手を振り見送る女将を背にする二人。
あかりはまだ慣れていないのか、短くなった丈を気にしては前幅を両手で強く握り歩いている。
自然とあかりの脚に目が行ってしまうのか、すれ違う村の人達の視線が明らかにあかりの脚へと向いていた。
その視線で余計に恥ずかしくなるあかりは、前幅を握る手に力が込められ、真っ赤な顔には薄っすらと涙まで浮かべ始めた。
「つむぎ様……。やっぱり、変でしょうか」
「ん?」
俯くあかりに、つむぎは頭の後ろに手を組むと、前に視線を向けたまま自然体で口を開く。
「周りの目なんて気にするな。俺は似合ってると思うんだ、それでいいだろ」
ごく自然にそう言い放つつむぎの言葉に、俯くあかりは照れたように少し微笑むと、前幅を握る力が弱まっていった。
「そう、ですね」




