↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
繋ぎ手と照らし手  作者: ビッグツリー
第一章 手掛かりを求めて~羽の神之塔編~
PR
8/9

八話 あかりの着物

 村に存在する唯一の呉服屋。綺麗に巻かれた色とりどりの布、無地から細工の施された物まで種類豊富な織物、少しばかりだが店の一角に洋服も並んでいる。


 二人は店の中で並ぶ品々を物色していると、奥から綺麗に着飾った中年の女将らしき人物が姿を現した。


「あらどうも、いらっしゃいませ。二人仲良くお求めですか?」


 ニコニコと笑みを向ける女将に、つむぎとあかりは俯いて、少し照れたように頬を染めている。


 つむぎは女将へと視線を移すと、目的の品をおもむろに口に出した。


「こいつのパンツを見繕ってほしいんだ」

「つ、つむぎ様!?」


 恥じらいも無く急にそう告げるつむぎに、あかりは顔を真っ赤にしてはつむぎへと視線を移した。


「あらあら」


 口元に手を添えて、二人を見つめては微笑む女将。会ったばかりの二人の睦ましさを感じたのか、ふふふと小さく笑みを零している。


「女性用の下着が欲しいのね。パンツだけじゃ不足でしょう、こっちへいらっしゃい」


 女将に促されるように、店の奥へとあかりは足を進め、つむぎは一人店内に取り残される形となった。



 店の奥にある座敷へと女将が上がり、そこに設置されたタンスの引き出しを二つほど開けると、その場にあかりを手招いた。


「下着は街でしか手に入らないから貴重なの。いつもはこうして店には出さずに、下着を求めてやってくる女性にだけ売っているのよ。呉服ほど種類は無いけど、好きなのを選んでちょうだい」


 引き出しの中には綺麗に整理整頓された女性用下着が並び、デザインこそはほとんど同じものの、選べるほどには色のバリエーションは豊富にある。その全てが上下セットになっており、好みを色を選ぶだけの仕様になっていたのも、女将の親切さゆえと思える。


 あかりは白と薄水色を手に取り、それぞれ二組ずつ選んだようだ。


「それにしてもあなた見かけない顔ね。着物もかなりの上物だわ」

「そうなんですか?」


 女将はあかりの着ている着物を覗き込むように見つめると、さすがに目利きが効くのか、その価値を瞬時に見抜いていた。


「えぇ、同じくらいの物だと……うちでは取り扱ってないわね。それこそ街まで足を運ばないと手に入らないくらいの品で、あなたの着ている物はその中でも格が高いの。振袖は綺麗な絵羽模様も入っているし、帯も上物ね」

「え? 帯にも格とかあるのですか?」

「もちろんあるわよ、あなたのは一番格上の袋帯ね。それも金糸と銀糸が使われて、厚めの織り絵になっているからかなりの物よ」

「知りませんでした……」


 女将はあかりに向き合うと、大人の雰囲気を纏わせた優しい微笑みを向けた。


「久しぶりにいい物を見せてもらったわ。私もおかげで新しいイメージが沸いたし、下着はサービスにしてあげる」

「そ、そんな! 代金はきちんとお支払い致します!」

「ふふふ、気にしなくていいわよ。一度に四組も買うなんて、よそから来たんでしょ? せっかくうちに来てくれたんだし、同じ女として出来ることはさせてちょうだい」

「女将さん……」


 同じ女として共感してくれる女将の優しさに、その気持ちを感じ取ったあかりは自然と嬉し涙を浮かべていた。

 そんなあかりに女将は微笑むと、何かを思いついたかのようにポンと手を叩いた。


「そうだわ! あなた、村からは離れるんでしょう? その道のりは長いのかしら?」

「え? あ、はい……かなり長い旅路の予定です」

「あら、そう……うふふ」


 きょとんとするあかりはそう答えると、女将はなにやら企むように悪い微笑みを零すのだった。





 仕切られた着付け室、その中であかりは両手を左右に広げ、しゃがみ込む女将が帯の着付けを施していた。


「あ、あの……ほんとにこれを着るんですかぁ」


 顔を赤くしてはモジモジと小さく呟くあかりに、女将は微笑みながら言葉を返す。


「私が最近考えた新しい着物の形なの。上品なあなたの振袖に手を加えたのは悪いけど、この姿のあなたを見れば、きっと彼も喜ぶはずよ」

「そ、そうですか……」


 ”彼も喜ぶはず”、女将のその言葉にあかりは一つだけ小さく呟くと、顔を真っ赤にさせては成されるがままになっていた。






 一人残されたつむぎは、適当に店内の品々を眺めていた。男物の品も置いてあるようで、洋服コーナーにて黒のシャツを広げては見つめている。

 すると、奥から女将が一人現れたことにつむぎは気付き、おもむろに声をかけた。


「あ、俺はこれを欲しいんだけど」

「ん~? いいわ譲ってあげる」

「え、いいの?」

「そんなのはどうでもいいの! それよりこれを見なさい!」


 理由の分からない女将のサービス精神にきょとんとするつむぎは、女将がなにやら嬉しそうに張り切って、奥へと手を指し示すその先に視線を注目させた。



 奥から現れたのは、華麗な絵羽模様の入った薄ピンク色の振袖を纏い、金糸と銀糸で大きな菱形や小さな花形に彩られた黄色の帯を締め、腰まである艶やかな柔らかい黒髪が清楚感を引き立て、若干顔を赤くするあかりの姿だった。

 しかし、その着物はさっきまでと同じに見受けられるのだが、一つだけ大きく変わった点があった。


 それを目にするつむぎは、目を丸くして硬直している。



 それは――、以前は足首ほどまであった丈の長さが、今ではミニスカート並みに短くなっていたのだった。極端に短くなった丈からは、白く張りのある太ももが半分ほど顔を出し、その綺麗な美脚が露わとなっていた。



 女将は両手を腰に添えると、鼻息を荒く一つ漏らしては、自信満々に口を開き出した。


「どう? 素晴らしい変わり映えでしょ! 新しい彼女の姿に、なにか言ってあげて」


 つむぎは腕を組み、手を顎に添えてはじっとあかりを見つめてうなり出した。


「んん~……いいんじゃないか? 動きやすそうだし、別に変には思わないな。それにお前、綺麗な脚してるしな」


 その言葉に女将はガッツポーズを構え、あかりは一番恥ずかしい部分である脚について言われたことで、顔をカーッと真っ赤に染め上げていた。






「気を付けて行ってらっしゃ~い」


 店の外では、手を振り見送る女将を背にする二人。

 あかりはまだ慣れていないのか、短くなった丈を気にしては前幅を両手で強く握り歩いている。



 自然とあかりの脚に目が行ってしまうのか、すれ違う村の人達の視線が明らかにあかりの脚へと向いていた。

 その視線で余計に恥ずかしくなるあかりは、前幅を握る手に力が込められ、真っ赤な顔には薄っすらと涙まで浮かべ始めた。


「つむぎ様……。やっぱり、変でしょうか」

「ん?」


 俯くあかりに、つむぎは頭の後ろに手を組むと、前に視線を向けたまま自然体で口を開く。


「周りの目なんて気にするな。俺は似合ってると思うんだ、それでいいだろ」


 ごく自然にそう言い放つつむぎの言葉に、俯くあかりは照れたように少し微笑むと、前幅を握る力が弱まっていった。



「そう、ですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。