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繋ぎ手と照らし手  作者: ビッグツリー
序章
5/9

五話 繋がる二人

 交互に風呂を済ませたつむぎとあかりは、さっぱりとした様子で茶室にて向かい合っていた。


「纏めると、つむぎ様は”破滅の一族”の末裔、”隠れた神”を始末する使命を受けている、三年以内に達成出来なければ神の手によってこの星が落ちる可能性がある、おばあさんの過去の助言によってここを訪れた、ということですね?」

「ふわぁ~あぁ、その通り」


 姿勢正しく正座をして話を纏めるあかり、対してつむぎは横になり片肘立ててはそこに頭を乗せてあくびをしている。つむぎは薄っすらとあくびによる涙を浮かべながらおもむろに口を開いた。


「使命は別として、”破滅の一族”である俺が来たことに驚かないのか?」


 あかりはきょとんと目を丸くすると、小さく首を左右に振った。


「驚く必要がありませんわ。出会った瞬間なら違ったかもしれませんが、私はあなたという人を見てから一族のことを知りましたから」

「そうか……ん? 袖の所、なんかほつれてないか?」

「え? あ……。新しく出してきた物なので、虫にやられていたのかもしれないですね」


 あかりが身に纏っている着物、その袖の部分からほつれた糸が飛び出していることにつむぎは気が付いたのだった。つむぎは起き上がると、あかりのすぐ目の前へと座り、ほつれた袖からスラリと伸びる白い手を掴んでは持ち上げた。


「えっ――」


 急に、しかも異性に手を触れられたことで少し驚いては顔を若干赤めるあかり。今まで屋敷から出たことも無く、同年代と思わしき異性から手を握られるなんてことは初めての経験であった。

 つむぎはほつれている箇所を真剣に見つめると、おもむろに空いてる方の手を当てては一言呟いた。


「”繋ぐ”。『結合』」


 その瞬間、ほつれていた糸はまるで引き寄せられるかのように隣の糸と絡み合い、見栄えの悪かったそこは綺麗に修繕されていた。それを間近で見たあかりは目を丸くしている。


「え! す、すごい! こんなに丁寧な織り込み、腕の立つ職人でも滅多に見られませんわ! なんて綺麗なんでしょう……」


 笑顔を浮かべ、先ほどまでほつれていた箇所を眺めるあかりだったが、その様子を見ていたつむぎはおもむろにあかりの顔を覗き込んだ。目と鼻の先、両者の顔はとても近い位置で見つめ合う形となっていた。あかりは顔を赤くし、動けずに固まっている。


「え、あの――」


 すぐ目の前にあるつむぎの顔、その表情は真剣で、吸い込まれそうな瞳をしていた。すると、つむぎはあかりを見つめたまま口元だけを動かした。


「やっと笑ったな」

「えっ」


 あかりはきょとんと目を丸くし、頭の上にはハテナマークを浮かべている。


「泣いている顔、怒ってる顔、必死な顔、いくつかのお前の顔を見てきたが、俺は笑ってる顔が一番好きだな」


――ボン!


 そう聞こえるくらいにあかりの顔は煙を出すほど真っ赤になり、声も出せずに放心している。


 つむぎは少し距離を取ると、自分の手を見つめては更に口を開いた。


「俺はこの力のこと、あっても無くてもそう変わらない役立たずのものだと思ってたんだ。だけど、今初めて役に立ったと思ってる……お前の笑顔へと、”繋げる”ことが出来たんだからな」


 そう言って、優しく微笑んでは見つめ返すつむぎの姿に、あかりは真っ赤な顔を下に向けては声にならない声を上げていた。


「はぅぅぅ――」






 勢いよく開けられる茶室の窓、どうやら部屋の気温が謎の上昇をしたようで、換気の為にあかりが開け放ったのだった。


 振り返ってはつむぎへと視線を向けるあかりは、おもむろに指を一本突き出した。


「私も、一つだけ力が宿っているんです」

「へー、そうなのか?」


 あかりは指先に集中をすると、そこには白い光の玉のようなものが出現した。明るさ的には蛍光灯くらい、指先に光る玉は常時輝きを放っていた。


「これは私の『照明』の力です。このくらいしか出来ないんですけどね」


 ふっと息を吹きかけるように指先の光を消したあかりは、苦笑いを浮かべて恥ずかしそうにしていた。


「糸や縄を結ぶくらいしか出来ない俺の『結合』よりかは使えそうだけどなー。夜中のロウソク代節約とか」

「あ! なるほど! つむぎ様の力もお裁縫とかで使えそうですね!」


 お互いしょうもないことで褒め合っては笑い合っていると、あかりはその表情を段々と暗くさせては俯いた。


「私……このくらいしか出来ないのに、一族の希望って言われてたんです。私の一族はなかなか子供に恵まれなかったようで、何十年かぶりに生まれた私に一族のみんなは期待していたようなんです。過去にはいくつもの力の発現が確認された人がいたと聞きます……しかし私に発現したのはこの一つだけでした。それでも、やっと誕生した子供で、しかも女で、みんなは力が一つしか発現していなくても一族の血を絶やすことがなくなると喜んでいました。それは父様や母様も同じで、私を希望の子と言っては愛してくれていたんです……でも、もう……、私しか残っていないんですよね」


 ポツリ、ポツリと、あかりの頬を伝って流れる涙は、畳の上へと一滴ずつ染み込んでいった。


「私は……希望を背負う代わりに、みんなを失ってしまいました。わっ……分からないんです、もうみんなはいない……繋がった希望の相手がもういない、だけど、みんなは命の灯が消えるその最後まで私を想ってくれていたんです。私は希望を失ったのにっ、最後まで信じ抜いたみんなの想いが溢れて、もう分からないんですっ! 痛くて、苦しくて、みんなの想いが愛しくてっ! 切なくてっ! 残された私はっどうすればいいんですかっ!」


 大粒の涙を溢れさせ、なりふり構わず真っ直ぐに感情をむき出し、あかりは両手で顔を覆っては、小さくしゃがみ込んでしまった。



 ”星の一族”に伝わる力、それは一種の――”呪い”だった。

 ”破滅の一族”の特殊な遺伝性に対し、”星の一族”は魂を星と繋げることによって特殊な力を星から得ている。星との繋がりを具現化した紋章、それが体の一部に発現する”五芒星”であった。だが、星と繋がるということは、それすなわち星自身と同化するということでもあったのだ。


 星に住む生物が死を迎えた時、肉体は大地へと還るが、魂は星に還る。それは、魂に蓄積された多くの痛みや感情といったエネルギーを、地上にて拡散しないように星が吸収しているからである。


 ”星の一族”の者は、生物が生前に経験した痛み、哀しみ、苦しみ、妬み、喜怒哀楽など全ての感情を、星と共に生身で受け入れることになる。それは付近の生物だけが対象となるのだが、例え少数の命でもその莫大なエネルギーを受け止めるのは、生半可な意志の強さではすぐに精神を崩壊させてしてしまうものだった。


 ゆえに、”星の一族”は人里離れた山奥にひっそりと隠れていたのだった。




 あかりは両親、家臣を近くで失ったことで多くの感情エネルギーがその身に流れ込んでいた。ふと現実に目を向け、少し心が揺らいだその瞬間、押し寄せた莫大な感情エネルギーによって心が蝕われつつあった。


「もう分からないっ! 私に希望なんてないっ! ただ苦しいだけの、こんな力なんていらないっ!」


 あかりは大きく取り乱し、しゃがみ込み頭を抱えては左右に激しく振って、涙を流しながら心の叫びを上げている。


 その姿を前にするつむぎは静かに立ち上がり、あかりの目の前に立っては右手をそっと差し出した。


「あかり、俺の手を取れ」

「……えっ」


 あかりは静かに顔を上げ、大粒の涙をボロボロ零しながら、真っ赤に腫れた瞼で見つめる。


「俺が、お前の希望を繋いでやる」


 つむぎのその言葉に、まるで吸い込まれるかのようにあかりは右手を伸ばす。


 そっと静かに二人の手が触れ合い、互いに握り合う。



 つむぎは真剣な表情であかりを見つめ、目に力を込めては握った手をぎゅっと強く握りしめた。


「諦めるのは、俺とお前が繋いだこの手を手離した時だ! お前は、その力で未来を照らし出せ!」



 あかりは、無意識のうちに勢いよく立ち上がっていた――。そしてそのままつむぎの胸へと飛び込み、左手でつむぎのシャツを強く握りしめては、大声で泣き叫んだ。



 重なる二人――、その中央には、お互いの体で抱きしめられた繋がる二人の右手。




 繋ぐ力を持った者と照らす力を持った者。二人の運命の歯車が絡み合い、――静かに動き出した。

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