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繋ぎ手と照らし手  作者: ビッグツリー
序章
3/9

三話 星の一族

 とある山の頂上付近、そこには綺麗に整理された木々に囲まれた大きな屋敷があった。一階長屋のその造りは和風な雰囲気を纏わせ、小石の敷かれた庭には綺麗な花や背の低い木々で埋められている。その庭の一角にて、池の鯉に餌をやる着物姿の少女の姿があった。年の頃は十七、十八ほどだろうか、腰まである透き通るような栗色の髪はそよ風に揺られ、輝く白い肌、薄く紫かかった瞳、整った顔立ち、大和撫子のような清楚感を纏わせている。水面に上がっては元気に餌を食べる鯉の姿に、少女は片手で耳に髪をかけ、まるで天使のような微笑みで見つめている。


 すると、そんな少女に早いテンポの足音で近寄る男の姿があった。敷かれた小石が弾かれるように飛び散り、その足音からでも何か焦りを感じ取れた。上品な羽織袴を身に纏う中年の男は、その容姿からは似つかわしくない表情を浮かべていた。


「姫様! 姫様!」


 必死さを含む男の声に、少女はきょとんとした面持ちで振り返ると、小さく首を傾げた。


「そんなに慌ててどうしたの? 鯉が驚いてしまうわ」


 少女の目の前へと辿り着いた男は、普段からの運動不足か両膝に手を当てて大きく肩で呼吸をすると、顔を上げては必死の形相で少女へと向き直った。


「賊です! 賊が山を登って来ています!」

「――っ!」


 少女は腕の裾から少しだけ顔を出してる綺麗な手を口元に当て、声にならない声を発し目を丸くしていた。


「姫様は早く屋敷の中へ! 私共がなんとか食い止めますゆえ!」


 男はそれだけを告げると振り返っては元来た道を走り去って行った。

 少女は慌てて屋敷の中へと入るなり、広い部屋の中を見渡しては声を荒げていた。


「父様ぁ! 母様ぁ!」

 

 少女の声を聞きつけてか、両親と思わしき男女がその部屋へと足早で訪れた。


「「あかり!」」

「父様、母様!」


 自分の名を呼ぶ両親の姿に、あかりと呼ばれた少女は二人へと抱き付いた。父親は一度強く抱きしめた後、両手であかりの肩を掴んでは引き離し、真剣な眼差しを向けた。


「あかり、事が落ち着くまで隠れているんだ」

「父様と母様もっ――」

「ダメだ、父さんと母さんはお前を守らなきゃいけない」

「し、しかしっ――」

「あかりっ!」


 動揺し慌てふためくあかりに、母親は険しい表情で一度大きく名前を呼ぶと注意を引き、優し気な面持ちへと変えてはあかりをそっと抱きしめた。


「あなたは一族の血を受け継ぐ希少な存在よ。そして、私達の”希望”なの……お願い、分かってちょうだい」


 優しく包み込むように抱きしめては静かに話す母親に、あかりは冷静さを取り戻したようだった。


「分かりました……父様、母様」


 その時、屋敷の外で大きな叫び声や、金属同士がぶつかり合う音が響き出した。山を登って来た賊の一味と、家の者達が交戦を始めたようだった。

 その様子を感じ取ったあかりと両親は、再度強く抱きしめ合い震える声を漏らした。


「「愛している」」

「私もっ――愛しています」


 あかりは頬を流れる涙を袖で拭いながら駆け出し、その部屋の奥にある大きな屏風の裏へと身を潜めた。その瞬間、外へと面する部屋の襖が勢いよく開け放たれ、血の付いた刀を持つ二人の賊がその場に立っていた。

 あかりの両親は武器を持たずとも、臆することも無く凛とした表情を浮かべては二人の賊と向かい合っている。賊の二人はニタニタと不気味な笑みを浮かべ、血の付いた刀を一舐めしてはあかりの両親へと襲い掛かった。


 大きな屏風の裏、そこに隠れるあかりは屏風の留め金がある一筋の細い隙間から、瞳に涙を浮かべてはその様子を覗き込んでいた。両親の奥へと位置している賊の二人が動き出したと思った瞬間、あかりの目にはあまりにも衝撃的な光景が飛び込んできた。


 大きな悲鳴を上げて仰け反る両親、周りの襖や屏風にまで飛び散る血飛沫、まるで楽しんでいるかのような賊の表情。あかりは咄嗟に両手で口元を抑え、ボロボロと大粒の涙を流していた。


「お、おい……こいつらもしかして”星の一族”じゃないのか……こいつの腕見てみろよ」

「は? これは、ご、五芒星……」

「ヤバイって! 俺ら星の守り人を殺したってことだぞ!」

「に、逃げるしかねーだろぉ!」


 賊の二人は、倒れている父親の腕に浮かび上がっている紋章を見るなり、慌てふためいてはその場から逃げ出して行った。”五芒星”と呼ばれる紋章、それは星の守り人である”星の一族”のみに発現するものであり象徴でもあったのだった。


 賊の二人がその場から立ち去った後、あかりは倒れている両親の元へとフラフラとおぼつかない足取りで駆け寄った。あかりは両親に近寄ると、すでに息を引き取っていることを察し、両手で顔を覆ってはその場にしゃがみ込むように泣き崩れた。





「あ……」


 すると、ふいに聞こえた気の抜けたような声。外から聞こえた声の主に、あかりは両手を下げては真っ赤に腫れた瞼を向けると、そこには一人のみすぼらしい男が立っていた。

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