決闘(デュエル)って懐かしくない?
「い、いつまでキスしてんのよっ! 恥ずかしいから離れなさいよっ!」
はっ! と我に返った。
顔を上げて、素早く魔城木の手を離す。
「ち、ちがっ! そもそもお前が、契約がなんたらとか言い出したから......」
まるで、炎の玉でも飛び出しそうなぐらい顔を真っ赤に染めた魔城木は、うつむきながら俺の後ろを指差した。
うーん、わりと赤くなった表情もアリだ。って、
「え?」
振り返るとそこには、俺と魔城木の一部始終。『血の契約』を見ていた周りのクラスメイト達がニヤニヤしていた。
「タカヒロってけっこう積極的だったんだな」
「お二人さんやるぅ〜! 熱いね〜!」
「ヒューヒュー」
うわ! いろいろと誤解されてる!
「召喚獣風情が我より先に姫と契約するとわ!ゆ、ゆるさん! この闇より出でし黒い雷の騎士は断じて許さんぞぉ! これはもう決闘だ! 決闘しかない!」
本当にいろいろとだ......というかふざけるなマサハル!
ブラックサンダーはお菓子だ! このエセ中二病めっ!
しかし、どうにかこの状況を切り抜けないと......
「ち、違う! これは、その......理由があるというか何というか......そうだ! 魔城木も違うって言ってくれよ!」
そう魔城木に助けを求めて振り返ると、
ポンっ
と音を立てて、魔城木の顔から炎の玉が飛び出した。
......気がした。
しかし、あながち間違ってはいないと思う。
恥ずかしさがピークに達した魔城木は、俺が話をふった直後に走って教室から出て行ったのだ。
どんだけ恥ずかしがり屋さんなんだ! と言うか弁解せずに走って逃げ出すなんて、不器用にも程がある!
「あらあら! 追いかけなくていいの?」
「で、どうなの? 本当にもう付き合ってるってことでいいの?」
「ヒューヒュー」
勘違いしたクラスメイト達が、俺を壁際まで追い詰める。
ダメだ! どう考えても言い逃れできるはずがない!
どうする!? このままでは、俺が魔城木の事を好きだと誤解されたままになってしまう。
いっそのこと、好きだって言ってしまおうか。いいや、ダメだダメだ。可愛いとは思うけど、まだ好きだとは思えない。
くそ! どうすればいいんだー!
キーンコーンカーンコーン
おお! ナイス!
タイミング良く鳴った昼休みの終わりを告げる鐘に、かろうじて救われた。
「ほ、ほら! もう昼休みも終わったことだし、早く次の授業の準備を......」
「ええ? いいところだったのに」
「放課後に問い詰めましょう!」
「ってかもう付き合ってんじゃね? あの二人」
様々な憶測が飛び交う中、一時的とはいえこの状況を切り抜けられたことに安心する。
「ふぅ〜、あぶねぇ......ってうわっ! なんだよマサハル!」
安心して放心状態になっていた俺の前に、仁王立ちのマサハルがいることに気づいた。
「タカヒロ! いや、魔城木月姫の召喚獣よ! きさまの主を掛けて、放課後に決闘だ! もう一度言おう。決闘だ!」
「......はい?」
全く意味がわからなかった。
と言うか、どちらかというとマサハルは、決闘と言う言葉を言いたいだけなのではないかと思った。
「だから、決闘するんだって! 放課後に屋上で待っている。いいか、絶対に魔城木は渡さないからな!」
「ちょっと待て! なんでそうなるんだよ! 俺は別に魔城木なんて......」
その直後、
「え? あれ? 俺の恋敵はどこに行ったんだ! 出てこい! タカヒロ!」
マサハルの叫び声が教室に響いた。
って、俺消えてる!? なぜだ! どうしてだ!
魔城木は教室を飛び出して行ったはず!?俺は、急いで教室内を見回した。
......居た。廊下の窓に魔城木が映っていた。
教室のドアにもたれかかりながらクールに腕を組んで、目をつむったままツンとすましているつもりらしい。
なんでだ! と言うかちょっと痛いぞ!
それにしても、何が原因なんだ? 俺が消えたという事は、魔城木に負の感情が芽生えたってことだろ?
なんで負の感情が......?
そうか! 決闘だ!
俺とマサハルの話を聞いていたに違いない! あいつも一緒にやりたいんじゃないのか? と言うか、こんな中二病っぽい響きの戦いに、興味をそそられない訳がないか!
だとすれば、俺がやらないといけないことは一つだ!
一直線に、教室の外でドアにもたれかかっている魔城木の方に向かう。
「魔城木っ! あ、あのさ......」
ふいに声をかけられて、ツンとすましていた魔城木の体がビクッと動いた。しかし、表情は変えずにずっと目をつむっている。
「きょ、今日の放課後に、その、マサハルと決闘するんだけど、お前も一緒にやらないか?」
喜ぶと思った。
しかし、魔城木の反応は、
「え?」
だった。少し驚きと言うか、落胆したような表情をする。
そして、
「なにそれ? バッカじゃないの? なんで自分を奪い合う決闘に参加しないといけないワケ? そういうことじゃなくて、私はあんたが......!?」
あんたが、まで言いかけた魔城木は急に焦って、両手で口を塞いだ。
「俺が? えっと、なんかしたっけ? ごめん! マジでわからないんだ!」
すると魔城木は腕を組み、フンっとソッポを向いた。
「なんでもないわよ! あーあ、使えない召喚獣のせいで魔力が下がったわ。血を補給しないと」
そう言って、どこからか赤い液体の入った小さなペットボトルを取り出して飲み始めた。
「血って......トマトジュースやないかいっ! 確かに赤いけどっ!」
ヤバい! 声にでてる!
魔城木のベタベタなボケに、ツッコミの本性がでてしまった。
「私の吸血鬼としての体はまだ完全じゃないから、100パーセントのトマトジュースは飲めないの。せいぜい90パーセントが限界ね。ああ、いつか私の体が限界突破したら生絞りトマトジュースを嗜みたいわぁ」
要は、今は果汁90パーセントのトマトジュースしか飲めないけど、いつかは100パーセントを飲めるようになりたいってことかっ!
たったこれだけのことで、どれだけ難しくするんだよ!
「おーい! お前ら! 早くしないと先生来るぞ!」
教室の中から俺らを呼ぶ声が聞こえた。
ん? 俺ら? という事は、
「ヨッシャ! 俺の存在が見えてるのか!」
ガッツポーズを決めた。
「何言ってんのよ! 早くしないと授業が始まるでしょ! これは勇者であり、吸血鬼姫でもある私の命令よ。教科書ないから、あんたの教科書をすぐに差し出しなさいっ!」
某猫型ロボットが出てくるアニメのガキ大将かっ!
それほど理不尽な命令だった。
ポカポカした陽気と共に、ガンガンジャブを打ってくる睡魔と闘いながらも、どうにか午後の授業を全て終えた。
そして俺は、屋上へと向かうのだった......




