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ひと目で尋常でないチュンデレだと見抜いたよ

 ーー俺ならできる。俺ならやれるはずだ。一緒に昼飯を食べようと言うだけのことだ。たとえそれが、異様な空気を放っている中二病の女の子だとしてもだ。


 それに、マサハルのように女の子に慣れているというわけではないが、苦手ではない。むしろ、今まで何度も喋ったことがあるじゃないか!


「タカヒロ君ごめん! 宿題忘れてきちゃって、良かったら見せてもらいたいんだけど?」

「お、おう......」


 ーー本当に大丈夫だろうか?

 女の子と喋った思い出はこんなのばかりだ。

 あとは、


「ごめーん! シャーペン落としちゃって。タカヒロ君の机の下に入っちゃったから取ってもらえるかな?」

「お、おう......」


 ーーこれぐらい。

 あれ? 俺、「お、おう......」しか言ってなくね?

 いいや、大丈夫だ。自信を持て、俺!


 消えかけた手が見えない様に弁当で隠し、転校生の前に立つ。


 うわ、めっちゃ可愛い。


 近くでまじまじと眺めると、そのあまりの可愛さに緊張がピークに達する。

 つり目でクールなキレイ系のくせに、悲しい時の顔はめちゃくちゃ可愛いって......反則だ!


「や、やあっ! ここ、こんにちわっ」


 しまった! 声が震えているのがバレバレだ。

 変な感じになってないかな!?


 すると、勢いよく顔を上げた魔城木ましろぎの表情が、一瞬だけパァーっと明るくなる。

 が、すぐに「ふんっ!」と機嫌の悪そうな顔になった。


 シカトですか!

 だが、ダメージを受けてる場合じゃない!


「おお、俺はタカヒロって言うんだけどっ、いっ、一緒に! ......そのっ!......ランチでも食べないかと思ってっ!」


 目をつぶりながらも、意を決して本題を切り出した。

 昼飯と言おうとしたのに、テンパって『ランチ』と言ってしまったのは、まぁよしとしよう。


 俺の『告白』とも取れる言葉を聞いていた周りのクラスメイトから、「タカヒロ、やるぅ〜!」、「おお!すげえな!」と言う声が聞こえた。

 なんとでも言ってくれ! 存在が消えるよりマシだ!


「............」


 あれ? 魔城木から反応が返ってこない。

 恐る恐る目を開ける。




「うぬはもしかしてっ! わらわの召喚獣しょうかんじゅうになりたいのかっ?」




 青い目を輝かせながらそう言った。



「???」



 ダメだ! まさかの回答に頭がついていかない!

 レベル高ぇ! 高すぎる!

 一体どこから召喚獣の話が出てきたんだ!

 しかし、このままじゃダメだ。魔城木ワールドに入ってはいけない!

 どうにかしてランチの話に方向転換させるんだ!


「えっと......そう! それ! 召喚獣! 前からなってみたかったんだよね! いやぁ、嬉しいなぁ」


 俺は一体何を言っているんだっ!

 あーもー! 思ってることと行動が矛盾するくせ治したい!


「まだうぬを召喚獣にしようと決めたわけではない。わらわは魔王ハデスを駆逐くちくする使命を授かった身。うぬのような貧弱ひんじゃくな召喚獣、こちらから願いさげじゃ」


 魔城木さんは冷徹れいてつなニヤケ顔でそう言った。


 えー!?

 ドンピシャな受け答えを願い下げられた!?

 なんでだ! でも、なんか魔城木は楽しそうだ。


「えっと、じゃあ、その、召喚獣にはしてもらえない、ってことでいいのかな?」


 色々と訳が分からないことになっている。


「そうとは言っておらぬ。うぬがわらわの召喚獣として、ふさわしいかどうかを確かめる必要があるのじゃ」


「ん? ってことは?」


「召喚獣としてのお試し期か......違った! うぬが本当にわらわにふさわしい存在か確かめる時間をやってもよいと言っておるのじゃ」


 今、お試し期間って言いそうになったけど、わざわざ長ったらしく言い直しただろ!

 しかし、何が言いたいんだ?


「イマイチよく分からないんですが?」


 俺の言葉を聞いた魔城木は、座ったままでビシッと机のはしを指差した。


「だ〜か〜ら〜! 召喚獣としてのお試し期間を作ってあげるからここで弁当を食べなさい! ってことよ! なんで分かんないワケ!? バカなの!?」


 ひえっ! めちゃくちゃ短気だ! それにキャラが崩壊ほうかいしてるぞ!

 しかし、ここで弁当を食べなさい!ってことは?


「ご、ごめん! でも一緒に昼飯食ってもいい......ってこと?」


 すると魔城木は、


「二度も言わせないで。早くしないと昼休み終わっちゃうでしょ!」


 ツンとした表情で腕を組み、ソッポを向きながらそう言った。

 大分だいぶ回りくどい言い方だったけど、要は一緒に弁当食べよう、って言ってるのか! それならそうと普通に言えばいいのに。全く、素直じゃないなよな。


 でも、あれ? な、なんだこの感情は! これが、ツンデレってやつか!? いや、中二病でツンデレだから......


『チュンデレ』かっ!


 ここに『魔城木月姫ましろぎかぐや』さんが『チュンデレ』だということを高らかに宣言します。


 まあそれはいいとして、とにかく転校生と一緒に弁当を食べると言う目標を達成できそうだ!


 ーーそう、俺は気づいたのだ。

 自分の存在が消え始めたのも、勇者である『魔城木月姫』の精神状態に関係があるという事に。


 彼女は朝の自己紹介のせいで、完全にクラスから孤立してしまっていた。転校した不安もあったろうに、あの不器用な性格のせいで、自分から馴染なじめずにいたのだ。


 唯一、声をかけてくれたマサハルもどこかへいってしまったため、彼女の不安やさみしい気持ちがピークに達したのだろう。そして、それが勇者としてのモチベーションを下げる引き金となってしまったのだ。


 つまり、勇者のモチベーションが下がった事で、俺の存在が消えてしまいそうになった。だからこそ、魔城木の寂しい気持ちを解消してあげれば、元に戻るかもしれないと言うことだ。


 俺は、自分の右手を確認する。


「良かった! 元に戻ってる!」


「はあ? なにが? 早くしなさいよ! 召喚獣のくせに、あんたはこの凍える月の吸血鬼姫ヴァンパイアクイーン・ジ・コールドムーンの言うことが聞けないってわけ?」


 せっかちだな、この中二病女は!

 それにしてもヴァンパイアクイーンでコールドムーン?

 何パターン名前あるんだよ!

 はあ、いちいち言葉の意味を考えないと話ができないなんて非常にめんどくさい。


「はいはい、すぐにイス取ってくるから待ってくれよ」


 そう言って俺は隣の『病咲やまいさきくん』の席からイスを拝借し、魔城木の机の前に座った。

 昼休みも半分過ぎたところで、やっと弁当を食べ始めたのだ。


「あんたタカヒロっていったっけ? なんで私の召喚獣になろうと思ったワケ?」


 はっ! それは言ってもいいのか?

 多分こいつは、自分が勇者だと気づいていない。

 ダメだ。なんか言ってはいけない気がする。

 ここはにごしておくに限る。


「いや、なんというか、勇者をサポートしないといけな......あ!」


 言っちゃったよ! チクショウ!

 本日、二度目の『治したいくせ』発動だよっ!


「え? あんた、もしかして......」


 マズい。気づかれた?


「前世から転生して召喚獣になったの!?」


 へ?


 あ〜! 転生って言う言葉が出てきたから焦ったけど、まだ魔城木は自分が勇者だという事には気づいてないようだ......


 それにしても、どう考えたらその結論になったんだ!?

 まあ、でも、どこかで聞いたことがあるような......どこで聞いたんだっけな......?


 そうだ! ネット小説だ!

 そういえば、さっきのハネムーンの話でも中世の街並みや城がどうのこうの、異世界がどうのこうのいってたな。

 もしかして魔城木はネット小説のキャラクターになりきっているのか? それなら、


「くくく、良くぞ気づいた。我こそが前世より転生し、この地に召喚獣としての命を授かった、選ばれし勇者の契約者。以後お見知り置きを」


 恥ずかし〜! 魔城木のノリに合わせて言ってみたが、言った後で後悔の念が押し寄せてくる。もう絶対言わないんだからっ!


「うぬも転生者であったか。ならば選ばれし勇者であるわらわと、血の契約をするがいい」


 ノリノリだなおい!

 そう言うと、魔城木は左手を差し出してくる。


「え? なに? けいやく?」


 ポカンとした表情でその手を見つめる俺に、魔城木は左手をフンっフンっと動かした。


「どういうこと? 手をなんかするの? 血の契約って、わからないんだけども」


 魔城木はキッと俺をにらんだ。

 ひえっ!


「どんだけにぶちんなのよっ! 左手に指輪はめてるでしょ! それにキスしなさいってことよ!」


 えー!?

 わからねえよ! そんなの!

 確かに左手には赤い指輪がはめられているけど。

 指輪にキス? できないできない!

 俺は中二病じゃないんだぞ!


「それは......無理だ、です」


「え?」


 魔城木の表情がまたさっきの悲しい顔に変わる。

 それと同時に、クラスメイトから声が上がった。


「あれ? タカヒロが消えたぞ!」

「本当だ! どこいったの? いいところだったのに!」

「指輪にキスとはけしからんちん」


 うわぁぁぁぁ!

 存在が消えてる! マズい! これはマズいぞ!

 それに最後に声上げたのマサハルだろ!

 いつ戻ってきたんだ!


「そう......だよね。どうせ私と契約なんて......してもらえないよね」


 あれ? 魔城木が弱気になってる!

 なぜか、「友達になんて、なってくれないよね......」と聞こえた気がした。


「あーもー! わかったよ! 契約すればいいんだろ!」


「本当に!? 契約してくれるの!?」


 パーっと表情が明るくなる。

 魔城木には俺の存在が見えているようだ。


 覚悟を決めろ! 俺!


 ーー魔城木の左手を自分の手で優しく支え、血のように紅い指輪に軽くキスをした......

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