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て、転生ですか!?

「ん〜、ん? あれ?」


 目が覚めた。


 いやいや、目が覚めた? ありえない! 確か男の子を助けようとして、大型トラックにかれて......そうだ! 俺は死んだはずだ!


 なのにどうして?


 助かったとしても、なかなか悲惨ひさんな体になっていそうだが、全く痛みを感じないしむしろ健康なくらいだ。それに、


「ここはどこだ?」


 見る限り真っ暗な空間が広がっている。しかし、全く見えないという訳ではない。現に、今自分の体がしっかりと確認できている。


 なんなんだこの不思議な空間は。


 それに、あんな大きなトラックに轢かれたのに、無事なんてありえない。でも現実問題、今俺はこうして生きているではないか。奇跡的に助かったということか?


 待てよ!


 この状況、生前によく読んでいたファンタジー系のネット小説でよくある光景に似ている。


「ははっ! ま、まさかなっ......そんなことがあり得るはずがない!」


 でも、確かにあの小説でもクルマに轢かれて異世界に転生してたな.....死んだ後に神様から異世界を救ってほしいと言われてそれで......


 という事は、本当にこれは......


「きちゃう? 本当にきちゃう? 俺に? 転生してチートでハーレムな日々が来ちゃうの!?」


「いいや、あんたにはこないよ」


 突然、後ろからハスキーな女の声が聞こえた。


「え? なんで? というか、誰だ!」


 転生しない? と言われたのは引っかかったが、転生系ネット小説ではお決まりのテンプレ展開に俺の心は踊っていた。


 キタキタキタキター!


 神様から「転生して異世界を救ってくれたまえ、勇者殿」的な事を言われるハズだ! ワクワクしながらも恐る恐る振り返るとそこには......






 化粧の濃い、スナックのママ風のおばさんが立っていた。





 ん?






 白いスカートスーツを着て、腕を組みながらタバコをふかしている。髪は黒いセミロングで前髪から頭のてっぺんにかけてクルクルとパーマをかけている。


「なんでだよ!」


 無意識に言葉が出ていた。


「なにがだい? 全く失礼だねえ。わたしゃ神様だよ」


「か、神様.......ですか? あなたが? この落ちぶれたスナックのママさんみたいなあなたが?」


「この落ちぶれた〜から先はいらないよ! 全くまだ二言ふたことしか会話してないってのに、どんだけ私を傷つければ気がすむのさ。案外神様もガラスのハートなんだからね。気をつけな」


 なんてデリケートな神様なんだ!


「は、はい。と、ところで神様はなんでそんな格好なんですか? もっとこう神様っぽいと言うか、白いフワッとした服を着てるヒゲをやした優しそうなおじいちゃんか、年寄り口調のロリ少女を想像してたんですが......」


「ババアで悪かったね! 白いスーツなら着てるじゃないのさ。それに私の顔が怖いってのかい? ええ?」


「いえいえ、そういう訳ではなくてですね。イメージと言うかなんというか......」


「神様にもいろいろいるのさ。それにね、若い男の人生相談をする相手と言えば、私みたいな人生経験豊富な熟女が一番なのさね」


「はあ。そ、そういうもんですかね......」


 しねーよ! 人生相談なんて!

 というか、俺って転生するんじゃないの?

 それに、このおばさんに日々の悩みを打ち明けるために死んだわけじゃないということは確かだ!


「そういうもんさ。人生ってのはね。急に転機がおとずれるもんなんだよ」


「......はあ」


 転機、訪れ過ぎだよ!

 いやもう転機がどうのこうのじゃなくて俺死んでるから!

 トラックにバーンされてるからね!


「それはそうと人生相談は一旦置いておいて、俺か転生しないっていうのはどういうことなんですか? それに、なんで死んだハズの俺がここにいるのかもわかりません」


「あー、そうだったわね。いきなりこんなところで目が覚めてさぞ混乱したことだろうね。ハッキリ言うと、あんたはまだ死ぬはずじゃなかったんだよ」


「死ぬはずじゃなかった? どういうことですか?」


「まあ、その通りの意味さね。あんたが助けようとしたあの男の子は、あんたが助けに行かなくても勝手に助かったのさ」


 へぇ......勝手に助かったんだ。

 良かった良かった。

 って、


「そんなぁ! じゃあ俺は飛んだ無駄死むだじにじゃないですかっ!」


「そうさ。あんたは決められた寿命をまっとうして死ぬはずだったのに、勘違いもはなはだしい正義感のせいで無駄死にしてしまったということになるね」


 え〜?


 勘違いだったって?


 わざわざエプロンにサンダル姿と言う、クラスメイトには絶対に見せられない恥ずかしい格好かっこうで飛び出して行ったのに......


「どうだい? まだまだあんたは若い。これからやりたいこともたくさんあるだろうに。未練みれんたらたらだろう?」


 未練......その通りだ。

 目が覚めた時は、いいことをやって死んだのだからこの世に悔いはないと思っていたけど。

 これじゃ化けて出てもおかしくない!


「そこでだ。あんたに生き返るチャンスをやろうと思ってここに呼び出したのさ」


「生き返るチャンスですか? でも、だってさっきは転生しないって......」


「転生はしないよ。なんで勇者の素質もないあんたを異世界に送らないといけないのさ。普通に生き返らせるだけだよ。感謝しな」


 普通に生き返ることができるのは嬉しいことだ。

 しかし、俺には勇者の素質がないらしい。

 あれ?割とショック!


「あきらかにショックを受けた顔をするんじゃないよ! 男ならもっとキリッとした顔で受け止めな!」


「はあ。そう言われましても......」


「そうもこうもないよ! 女々しいね! だから彼女の一人もできないんだよあんたは!」


 グサッ!

 わかってるよ。なんで彼女ができないのかぐらい!

 今その話いる?

 もうやだ〜このおせっかい神様。


「まあ、それはいいとして。あんたを現世に生き返らせるにあたって、一つ条件があるのさ」


「条件、ですか?」


 神様は、そう、と言ってタバコの灰をトントンと落とした。


「今から近い未来に、異世界に転生することになってる勇者がいてね。あんたには、その勇者がうまく異世界に転生できるようにサポートしてほしいのさ」


「さ、サポート、ですか?」


 く〜、うらやましい!

 なんで俺は転生しないんだよ!

 俺も勇者になりたかったのにぃ〜!


「そうさ。その勇者は、若干性格に問題があってね......このまま何もしないと、うまく転生できないのさ。だからあんたに勇者が転生するまでのモチベーションを保てるようにして欲しいんだよ」


「性格に問題ってどういう意味ですか? どんなことをすればいいんですか?」


 神様は、はあ、とため息をついた。


「全く、それぐらい自分で考えな。じゃないと生き返らせる試練を与えた意味がないだろう」


「試練なんですか! そんなこと言ってなかったじゃないですか!」


「あれ? そうだっけ? まあいいじゃないか細かいことは。あ!そうそう。この試練を乗り越えないと、例え今生き返ったとしてもまた死んでしまうハメになるからね。気をつけなよ」


「なんだよそれ! どう気をつけるんだよ! 誰に何をするかもわからないのに、気を付けようがないじゃないですか!」


「おやおや反抗期かい。若いね〜。うらやましいったらありゃしないよ。よっイケメン!」


 ダメだ。伊達にスナックのママさんみたいな神様じゃない。

 うまく客の怒りを受け流すすべを心得ている。


「そ、そうですか〜。いやーまいったな」


 乗せられた!

 完全に神様の手のひらの上でコロコロされている!


「まあ、そう言うことだからよろしく頼むよ。わたしゃあんたに期待してるんだからね。そうだ。これを渡しとくよ」


 そう言うとママさん(神様)は俺に木でできた30センチぐらいの棒を渡してきた。


「これは?」


「それは魔法の杖さ。現世で勇者のサポートをする時に必ず役に立つよ。大事にするんだよ」


 おお! やっとファンタジー的な要素が出てきた!


「どうやって使うんですか!」


「それじゃ、頑張るんだよ」



 え?



 ママさん(神様)の声にエコーがかかり始めた。

 そしてうっすらと姿が消えていく。


「待ってください! まだ使い方とか聞いてないんですけど!」


「あんたには期待してるからね。小さい男の子を助けた勇気のある少年だ。うまく勇者をみちびいてくれると信じてるよ」


「いや、だから、杖の使い方を教えてください! なんでシカトするんですか!」


 ママさん(神様)の姿がもうほとんど見えない。


「ああ、あと一つ。言い忘れてたことがあったよ」


「なんですか? 杖の使い方ですよね? 早く教えてください! 神様もう消えちゃうじゃないですか!」


「あんたがトラックに轢かれる時の格好。エプロンにサンダルを履いた男子高校生。傑作けっさくだったよ。腹がよじれる程笑わせてもらいました」


 そう言うとママさん(神様)は完全に消えていった。



「それ今言うことじゃないでしょー!」



 俺の意識もプツンと切れたーーーー

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