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閑々諸行  作者: 夏実歓
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水中と水上


水の中で目を開けると、深く息をついた。差し込む光線の曲直はただ陰影というのには華やかで極彩色だ。我が身を淵に沈めし龍のごときは、かくも美しく楽しき寝床にあれば何処へ飛び出でんものか? たなびく緑の絨毯に湧き上がる砂と水。落水の音が外界を遮り、羊膜の優しさは何処へもおかれる事のない安心である。

この身を愛撫するなだらかな手に男は誰の懐中に抱かれているのかといぶかしむ。ややあって、この程の事の不思議さに目を見張ったが、それがなんになろう。私は書庫の番人としておったのだが? などと言ったところがこの水の底ではなんの役に立つだろう。男はしばしまどろむと片目をうす開けて気泡があがっていくのを見ていた。

泡の中には小さな鳥が入っていて泡のうねるにあわせて騒がしく立ち回っているが、水面にたどり着いてはそこから放たれて甲高い声を上げている。なにか噂でもしているのだろう。こうして世の中の秘密は少しずつ暴かれていくと遠い昔に祖母に聞いたことがある。郷里は大層美しいところで、まさに今うとうととしているこの水底は、我が懐かしき故郷の続きに思えてならない。山紫水明、水清く山青く、清浄と草草の香り。人は里に住み山は近くされど、恐るべき獣は山辺を楽しむ。首府の落水はことここにいたって大いに民を潤した。もちろん、かの都の不思議さ美しさは他に類のないものではあるが、それを差し引いてもあの里は素晴らしい。もう何年も帰っていない。そう思うと、一つ身震いでもして、外を見てこようかと言う気にもなってこようと言うモノだ。


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