談話
マーオは誘われるまま助けた馬車に乗って移動を共にしていた。
「マルク君も用事があって王都まで急いでたんですね。一緒ですね」
精霊のことを知っていたマルクと名乗った少年にニコニコとマーオは笑いかける。
最初は警戒をしていたものの、物腰柔らかなマルクの話に引き込まれ王都へ行く理由を掻い摘んでだが話していた。一通り話終え今は精霊もマーオの肩に乗り寛いでいた。
「そうですね。マーオさんは婚約者の人に会ったらどうするんですか?」
「まだ分からないんです、この目で見たわけじゃないから……。もしかしたら一発殴っちゃうかもしれません!!」
恥ずかしそうに、それでもきっぱりと言い切るとマーオは拳を握った。
「ふふ。そんなに熱くなれるなんてその人の事が本当に好きなんですね」
「うわぁ~そんなふうに言われると何か恥ずかしいですね。えへへ……あ! ごめんなさい、私だけ話して。それよりマルク君も急いでるみたいですけど王都に何か用事ですか?」
「ええ。家族が少しトラブルを起こしたみたいなので一時帰国することになったんです」
ため息をついて言うマルクにマーオは理由は違えど同じように悩んでいるのだと軽い共感を覚えていた。
「それにしても精霊は初めて見たのですが、伝承の通り不思議な雰囲気をお持ちなのですね」
「そうですか? 精霊の伝承があるなんて初めて聞きました。どういう風に伝わっているのか聞いてもいいですか?」
肩に止まりマーオが村から持ってきていた木の実を美味しそうに食べている精霊を見つめながら興味深そうに言うマルク。
小さなころから身近にいて『精霊の選定』を受けてからは呼べば来てくれるほど仲が深まった。
それほど身近な存在である精霊が不思議な雰囲気と言われてもマーオは今一よく分かっていなかった。
「はい。我が家に代々伝わるものなんですが、本にはこの国を創ることになった時代、今よりも強い魔物たちを当時の王が使役し……」
「あ、もういいです。それ以上言うと危ないのでそこまでで止めてください」
マーオは話の途中だったがマルクの言葉を遮って止めさせる。
肩に乗りにこにこと笑顔を振りまいていた精霊だったが『使役』という言葉に強い拒絶を示したからだ。身にまとう魔力と、溢れる殺気抑えることなくをマルクに瞬時にぶつけようとしていた。
マーオが止めなければ攻撃に入っていた事を窺わされマルクは胆を冷やした。
「……何か精霊殿が怒るようなことを言ってしまっただろうか」
「長い歴史の中で間違って伝わるのは仕方ないと思いますけど、精霊は『使役』なんてできませんよ。精霊は自分が力を貸してもいいと思った時だけ力を貸してくれるんです。だから私達はその恩恵を貸してもらうためにお願いしている立場なんです。『使役』なんて冗談でも口にしたらダメなんですよ」
苦笑いを浮かべながら告げるマーオの言葉に、マルクは神妙な顔で頷く。
「知らなかったとはいえ失礼なことを言ってしまい申し訳ありません、精霊殿。無礼をお許しいただけませんでしょうか」
マーオに止められたため、肩の上でマルクを睨むだけに留めていた精霊に深々と頭を下げ謝罪を口にする。その姿に仕方ないと言わんばかりに精霊は肩を竦めるとマーオの鞄の中に戻っていった。
「あの……精霊殿はまだ怒ってるんでしょうか」
「大丈夫ですよ。魔力も引いてますし」
「だが……」
「鞄の中に戻ったのは、もうすぐ王都の入り口につくからだと思うので。許してなければマルク君は今頃重症になってますから気にしなくてもいいですよ」
鞄をチラチラ見て気にするマルクにマーオは気負うことなくそういった。それが冗談でなく事実であることが窺えマルクはまた胆が冷えるのを感じた。