襲われていた馬車
王都まで馬を軽く走らせて半日という距離。マーオは一台の馬車が襲われているのを見つけた。
近くの森から餌を求めて出てきたのか、集団でする狩りを得意とするワールドウルフの群れ。
そしてその群れから果敢にも何とか馬車を守ろうとする騎士。
だがどう見ても、マーオの眼には騎士たちがワールドウルフに押されているようにしか見えなかった。まともに応戦できている騎士の数が五人ほどに対してワールドウルフは十を超している。
マーオは馬車を守るように応戦している騎士の負担が減るようにワールドウルフの群れの中に腰に下げた剣を抜き、臆することなく突っ込んでいった。
「助太刀します!!」
騎士たちが自分に間違って襲ってこないように大声で声をかけると、ワールドウルフに襲われないように絶妙な手綱さばきで群れの中をかき回していく。
突然の乱入者に驚いたワールドウルフはマーオに牙を剥くが、その隙を見逃さず体制を立て直した騎士が剣で切り付けていき、切り付けられたワールドウルフはその場に倒れていった。
マーオも騎士に負けぬほど剣を振るい応戦した。
それから程なく、数で勝っていたワールドウルフも数が減るごとに不利であることに気づき撤退を始める。
「もう、大丈夫かな……」
マーオは逃げていくワールドウルフの背を眺め安堵のため息を一つついた。
「助っ人感謝する。旅の方」
当たりの警戒を一通り終え何も危険がないことを確認したマーオは、ワールドウルフが撤退を始めてからすぐ向けられていた視線の方へと顔を向けた。
「い~え。丁度私が向かう方角でしたからお気になさらず。それよりも大丈夫ですか?」
「ああ。貴殿が助太刀してくれたお蔭で全員命はある」
「それはよかったです」
一番背が高い騎士がマーオの目の前まで来ると、マーオは馬上のままでは失礼かと思い馬から降りた。
「それにしても見事な馬だな、ワールドウルフにも恐れず突き進み、よく指示をきいている」
「ありがとうございます」
愛馬を褒められ、マーオは自分のことのように嬉しそうにお礼を言った。
「だが見たところ連れがいないようだが一人旅か?」
「はい。この先の王都に用事があるので」
「何の用事か聞いても……?」
「……知り合いに会いに」
アレクのことを何と答えていいか分からずマーオは考える素振りをみせる。
「それで一人で旅に出るなんてお姉さんは凄いですね」
騎士とマーオが話している中に馬車の中から顔を出した少年が声をかける。誰かが乗っていると思ってはいても、商人が乗るような辻馬車でなく貴族が乗るような馬車。顔を見ることはないだろうと思い込んでいたマーオは驚きに咄嗟に反応出来なかった。
「よければ王都までご一緒しませんか? そちらの精霊殿にもお礼をきちんと言いたいですし」
マーオがワールドウルフを相手にしている間、精霊は鞄の中から一切出ず気配だけで辺りの様子を窺っている。それを何のこともなく言い当て笑顔を向ける自分とそんなに年が変わらない少年。マーオは不思議な気持ちでその少年を見つめた。