話し合い
今後に向けての話し合いは村を支えている者たちが集められ行われた。
体格のデカい男たちが多いと考慮して集められたのは村唯一の酒場。村の中でも男女問わず腕利きの者たちが集められている。
そこにまだ成人していないマーオも参加させてもらっていた。そのことに反対されるかと思っていたがマーオの懸念は外れ何も言われることなく参加を許されたことに安堵していた。
「忙しいところ集まってくれたことを感謝する。さっそくで悪いのだが今回のことの話し合いに移らせてもらう」
集められたものを見まわし長老は淡々と言葉を紡ぐ。ここにいる者たちは何故ここに自分たちが集められたのか知っている。そう考慮してのことだ。
「今回この村から旅に出たアレクが無事魔王を倒し、そしてそのまま王都で婚約を発表したと聞き及んでると思うがそのアレクの処遇をどうするか考えてほしい」
「アレクもこの村の契約は知っているんだ。連れ戻されることも分かっているだろう」
長老の言葉に誰かが口を開くと賛同する声が上がる。
「だが連れ戻すのは出来ても、もし本当に姫さんとの婚姻を自分の意思で決めたってんなら連れ戻しても役目を放棄すんじゃねえか?」
「だがそれ以外に精霊が納得する方法がない。仮にアレ以外に後継者がいたとしても『精霊の選定』は行われてしまっている。ならば手段はアレが子をなすか、血の終焉を迎えるかどちらかしかない。その場合面倒だが国が出てくる可能性が高いからの。それをどうするか決めてほしいのだ」
国が出てくるという言葉に一同は一瞬だけ静かになるが口々にどうするかと話し出す。だがその話し合いの中には気負いも恐怖も感じられない。
「ま、待ってください!! 血の終焉ってどういうことですか?!」
騒めく村人たちの中、マーオは初めて聞いた言葉に思わず声を張り上げていた。
「その言葉から連想されるように森へ命を返すのがしきたりじゃ」
「そんなこと初めて聞きました!! それはアレクに死ねってことですか?!」
「それが『精霊の選定』を受ける者が背負う義務じゃ」
声をあげるマーオに酒場の中で驚く者は誰一人いなかった。マーオはそのことに気が付くと唇を噛みしめ下を向いた。それは成人してる者にとっては当たり前なのだと実感させられることだった。
婚約者だということで参加を許されたが、まだ年若いマーオには酷な話だったかと誰もが思い話はマーオを除いて進められていく。
そのことにマーオは焦った。悲しみから怒りに代わったとはいえアレクが死ぬことなど考えていなかったのだ。
「ではマーオにアレクのもとに確かめに行ってもらうのはどうでしょうか?」
何かいい案がないかと考え込んでいたマーオの耳に、今まで沈黙を守っていたルシアの声が聞こえ咄嗟に意識を浮上させる。
「マーオが行ったところでどうなるというんじゃ。アレクに会うどころか会う前に無礼打ちでもされて終わりだろう」
「いいえ、そんなことはありませんわ。だってマーオはアレクと一緒に『精霊の選定』を受けたんですよ? 必ずアレクに会うことはできますわ」
「確かにそれはそうだが、もし会えたとしてもどうする、何の問題の解決にもなっていないではないか。アレクが血迷って刃を向けてきたら? 国が村を滅ぼそうとして来たら? 今までは忘れられた村ということもあり何の手出しもされてこなかったが何があるか分からんのじゃぞ。この村が滅びればそれもまた精霊との契約に違反となりこの国、いやそれどころかこの世界自体が滅ぶ可能性があるそれを踏まえて言うておるのか」
「もちろんですわ」
自信満々に答えるルシアの明るい声に、上手い対応策が出てこなかった村人たちも一度話を切り上げ話に聞き耳を立てている。
「やけに自信満々じゃが一体どうするつもりなんじゃ」
あまりにも自信満々に言うルシアに長老は訝しみ先を促す。
「もしも二つの懸念が当たるようならこの世界自体支配してしまえばいいんですわ」
笑顔で言葉の爆弾を落とすルシアに食堂にいた村人たちは驚きで固まってしまった。