新たな一歩
「は~っっ!! 本気で寿命が縮むかと思いましたっっ!!」
キオンは右手で胸を押さえて深いため息をついた。その姿をマーオ、イース、ルゲンは笑ってみていた。
話し合いが終わった後、マーオたちは行きと同じように精霊の力を借り、姿を周りから見えなくしてもらい城から抜け出してきた。精霊に姿を消してもらい、マーオたちに気がつかない城の住人の横を堂々と通り抜けてきたのだ。そのためキオンだけは、いつか気づかれるんじゃないかと城を抜け出すまでビクビクしていた。
「まったくあんたはもう少し度胸をつけな」
「キオン、怖がりすぎ……」
城から抜け出し見つかってはいけないと最初に決めていた四人は今は街から少し離れた場所、日が暮れた時刻に街に入れなかったものが利用する簡素な小屋にいた。
予め四人の持ち物や乗り物は運んでいたため、今はイースが所有する簡易の馬車にいる。すっぽりと荷台を覆う布があるため中を覗かれなければ見つかる心配はなく、すぐに捕まる心配はなくなったといっても過言ではない。
だが、キオンはそれでも心配を全面にだしているため、小屋につくまでもずっと怯えていたキオンにマーオ以外の女性陣は呆れ、緊張がとれた解放感も加わり、一人震えているキオンをからかっていた。
そんな三人の様子を微笑ましいものを見るように見つめていたマーオだったが、これからの事が気になった。
「この後皆さんはどうする予定なんですか?」
「まあ、このまま王都にいるわけにはいかないから一度故郷に戻るか、まだ行ったことのない国にでも行ってみようとは思っているんだけどね……。取りあえず直ぐの行動を上げるならここから早く離れることが今一番の目的だね」
イースの言葉にマーオ以外の二人は頷く。勇者に聞きたいことが聞けたことでモヤモヤとした感情は収まった三人だったが、結果的に国に喧嘩を売ってしまったようなものだとも考えている。
後悔をしていないとはいえ、被害の出ないうちにここからは離れることを決めていた。だが詳しいことまで話す時間はなく一先ず行けるところまで行くということしか決めていなかったのだ。
「……皆さんが良ければ落ち着くまで私の村にきませんか?」
これからどうするか気になり聞いただけだったが、悩む素振りを三人が見せたためお節介ではないかと思いながらもマーオは問いかけた。
「行って、いいの?」
「え? はい。いろいろとご迷惑もお掛けしてしまいましたし……」
マーオの提案に初めに食い込みぎみで声を上げたのはルゲンだった。その声音は嬉しそうでマーオは何がそんなに嬉しいのか分からず首を捻りながら了承の意を伝えた。
「だけど急にこんなに押しかけたら迷惑じゃないかい?」
「それは大丈夫ですよ。もしかしたら一緒に行くかもとは精霊を通して伝えて貰ってるので準備はできてると思います」
「……確か凄い魔法を扱う村なんですよね」
「凄いかどうかは分かりませんが、ここら辺ではあまり見かけないカルマン熊なんかはよく見かける場所なので修業するにはうってつけですよ」
「カルマン熊っていったらレベルが高いってこともあって貴族様でも滅多に口にできない高級食材じゃないか。一度食べてみたいと思ってたんだよ」
それぞれ聞きたいことを聞いていき、マーオはそれに軽く答えていく。反対の言葉が出てこないことに一先ず安心し、マーオは三人に確認のために最後の問いかけをする。
「では皆さん最初の行き先は私の村でいいですか?」
「「「勿論」」」
「なら、日が明けないうちに移動しましょう。夜のうちなら闇の精霊が私達の姿を隠してくれるそうなので」
そうマーオが提案すると、旅になれた三人は手際よく今までそこにいた形跡を隠すなどして、出発の準備を整えていく。もともとすぐに動き出せるようにしてあったため、時間をかけることなく準備は終わった。
「では行きましょう」
マーオは自分の連れてきた馬に跨り合図を送り馬を駆けさせ始めた。その後にイースが御者を務める馬車が続いていく。
その姿は暗闇に紛れ、王都の兵士たちが最後まで気が付くことはなかった。
これが魔王と言われ大陸の支配者となる少女と、腹心の部下となる仲間たちの初めての出会いの日。
後の世で歴史学者たちはこの時、この瞬間が歴史の分岐点だと説いている。
そんな運命の一日は誰に知られることなく過ぎていった。




