村の歴史と二人の出会い
マーオが育ったのはカルテラ国にあるジャームという村だった。
王都から外れ、魔の森と呼ばれる地場の乱れが激しい場所にある小さな村だ。
ジャーム村の成り立ちは、カルテラ国の建国までさかのぼる。
まず国の歴史は魔物との戦いで幕を開いたと言われるくらい苛烈を極めた時代、嘗てカルテラ国と名乗ることになった王都の砦の役割をしていた一つの集落が後にジャーム村と言われるようになるむらだった。
だがそれも月日が経ち、王都が安全な場所へと移り変わる度にその役割から外れていった。そして魔物の力が弱体しながら時が経ち、千年過ぎた頃には国の創成期は絵物語のように所々話の中だけに残り、名前さえも忘れ去られた辺境の村へと変わっていた。
ジャーム村は国の外れ王都から一番遠い小さな村だったため話題に上ることもなく、村に嫁や婿を貰い受けることはあっても出ていくものがいない状態が続いている。そのため近年では隣街に住むものでも知らないという者がいるほど辺境の地になってしまっていた。
だが王都から離れ、歴史から名を忘れ去られようと地場が崩れ魔物が襲ってくることは変わらない。そのため村人たちの身体能力は時代と共に鍛えられていき、色々な物と一緒に親から子へ、子から孫へ受け継がれていった。
戦うための技の継承だけでなく、強いものを次代に残すため血の継承も続けてきた。
村で生きるためには男だけでなく女や子供、老人にも一定以上の強さを求められ村人たちは何らかの力を身に着けていった。
そして力の伝承と共にこの地を守るための剣と一つの契約が代々受け継がれてきた。
世界には人と魔物だけでなく様々なものが存在する。人と魔物の間の子と言われる亜人。獣から進化とされる獣人。自然の魔力から生まれたとも、神の御使いだとも言われ魔力の高いものにだけ見えると言われる精霊。
極めて珍しいことに村人たちには数多く精霊を視覚で捉えられるものがいた。国に多くても数十人いればいいほうだと言われるほど精霊を視覚化することは珍しい。それをこの村では半数以上が視覚化している。
それだけでもあり得ないことであるはずなのに村を守る長にだけだが『精霊の契約』まで行われている。『精霊の契約』は余程精霊に気に入られてなければ行われず、本来一代限りであるはずのもの。
そう考えれば千年もの間途切れることなく続いたことは奇跡と言って差し支えないだろう。
『精霊の契約』があったからこそ強い者同士で血を残してきた歴史ができたともいう。
そんな歴史ある忘れられた村にマーオは生まれた。鍛冶師兼猟師を生業としている家に。三人兄弟の初めての女の子として。
二人が初めて出会ったのはマーオの家に村長宅から祝いの言葉を寿ぎに来た時だった。
三つになった長男のアレクは親に手を引かれマーオの家へ来た。それが二人の初めての出会い。
それからは家が近いこともあり、何度となくアレクがマーオの家を訪れた。初めて見る自分よりも年下の存在が物珍しく何をするでなく見に行っていたのだ。そのうちに何度も通うアレクに懐いたマーオが年を追うごとにアレクの後ろをついて回るようになった。
他の兄弟は年が離れていたこともあり既に働き始めていた。そのためマーオが誰よりも長い時間ともにいたアレクに懐くのは必然ともいえるだろう。
そんな中二人は育った。力を鍛えるのも何をするにも一緒に。時を重ね年頃になった時、マーオは誰よりも身近なアレクに特別な思いを感じ始めていることを自覚した。
そしてこの村の慣習もきちんと教え込まされていたマーオはどうすればアレクの隣にたてるかも知っていた。だからこそ誰よりも強くなることを決意して、誰よりも魔力を高めることに力を注いだ。文字通り血反吐を吐こうと必死になって。
その努力が実ったためなのかアレクが年頃になり行われた選定でマーオは『精霊の選定』を見届けることを精霊にも許された。
本来であれば後継者一人で受けるはずの選定。だが過去にも何人か同じように『精霊の選定』を見届けることを精霊自ら許された者たちがいたため、喜ばれはしても誰も否を唱えることはなかった。そしてそこでマーオはアレクと共に『精霊の祝福』を受けることになった。
それは精霊にも受け入れられたということ。そのことが大きく作用され見事婚約者に選ばれた。あおしてそんな二人を村人たちは祝福した。誰よりも頑張っていたマーオの努力を知り仲の良さをしっていたから。
マーオにはアレクが。アレクにはマーオがとても似合いだと。
アレクも素直に好意を寄せるマーオに好意を確かに持っているものだと誰もが感じていた。これで次代の心配もなくなると。
二人の婚約は成立し、充当に行けばマーオが16の年になる来年婚儀をあげると告げられた。
しかしそれから一月もしないで魔王の復活が発表され、勇者と王都の神官に選定されてしまったアレクは旅立つことになってしまった。