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最後の問いかけ


 これ以上の混乱に落ちる前にマルクが事態を治める為に口を開く。だがそれよりも早く、食事の席についていた貴族の一人が立ち上がり檄を飛ばした。

「何を馬鹿なことを言っておるんじゃ!! お主のようなどこの者かもわからぬ者が勇者殿の婚約者なわけあるか! この方は世界を救った救世主であり、ここにおられる第一王女殿下の婚約者様であられるぞ! 」

 その言葉にはマーオから話を聞いていた者たちは顔を顰め、アレクは気まずそうに顔を横に向ける。そして勝ち誇った表情をマーオたちにだけ見えるように一瞬浮かべた少女、第一王女キオラはすぐに泣きそうな表情を浮かべると勇者の腕にそっと手を掛けた。そして勇者の顔を下から覗き込むように見つめると瞳に薄らと涙を溜め弱弱しい声で勇者に問いかけた。

「勇者様。それは、本当なのでしょうか……? あの娘が婚約者なんて冗談と思ってもいいのですよね?」

「どうか泣かないでくださいキオラ様……」

「勇者様、私のことは何時ものようにキオラと呼び捨てにしてくださいませ」

「はい、キオラ……」

 不安そうに問いかけるキオラの涙を右手で拭うように撫でるアレク。その姿にマーオは己の胸がチクリとした痛みが襲ったような気がした。

「……アレク、その人たちが言うことは本当? 本当にお姫様と結婚する気でいるの……?」

「ごめんマーオ。君は僕が守らなくても生きていけるけど、キオラは僕が守ってあげないとそうしないといけないって思ったんだ」

「勇者様……!!」

 アレクはキオラの肩を抱き自分の腕に囲うように引き寄せると、何かを決意したように口を開いた。その姿を見てキオラは嬉しそうにアレクに抱きつき、マーオは拳を握ることで悲しみを押し殺した。

「……そう。ではアレク・ジャーム。ジャーム村の代表としてマーオがお聞きする。次期村長であるはずの貴方の考えを、嘘偽りなく精霊の約束のもとお聞かせ願いたい。これからどうされるつもりなのか『精霊の契約』のことをどうお考えなのか」

 マーオがアレクのことを硬い声音でフルネームで呼んだことに一瞬悲しそうな顔をしたが、マーオの感情を抑え込んだ言葉に何かを思い出したように息をのんだ。

「そ、れは……」

「勇者様は私と結婚をしこの国の未来を共に担って下さると約束してくださったのです。一村の村長よりも尊く偉大なことを為さる方。何処の者かは分からないけれど、勇者様に何もして差し上げられないというのなら潔く身を引くのもまた愛情なのではなくて?」

 アレクの腕から力が抜けることを感じたことに焦りを覚えたのかキオラが話の矛先をマーオに向ける。だがマーオはその問いかけの形をした圧力を気にすることなく、今度はこの部屋の中で一番の権力を持つ国王に視線を向けた。

「お初に御目にかかります国王陛下。さっそくで申し訳ありませんがお尋ねしたいことがございます。精霊の名のもと嘘偽りなくお答えください」

「……」

「国王は、この国は精霊との『約定』を破られるおつもりなのか。精霊を蔑ろになされるのか……」

 有無を言わさないマーオの発言に成り行きを見守るためなのか国王は全く言葉を発することはなく、マーオたちのことを厳しい目で見つめていた。




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