城門前
そして時間は過ぎ、日が落ちてから四人は城門から少し離れた場所に来ていた。
「本当に大丈夫なんでしょうか……」
話し合いの時も三人の女性の話に一切口を挿めずにいたキオンが不安げに口を開いた。
目の前に広がる城壁に尻込みするキオンに呆れたようにイースが口を開いた。
「此処まで来て一体何言ってんのさ。あんたも彼奴の口から話を聞きたくてここまで来たんだろ。ならもっと堂々としてな」
「ですが……」
「キオンは男なのに悩みすぎ。だから教会でも馬鹿にされて、いつまでも下っ端扱い」
「ちょっ?! それは差別発言ですよルゲンさん!! 男だって悩むことはあるんですからね?!」
「……ん? 確かに……。ごめん。言い方間違えた」
「いえ。分かっていただければ……」
「キオン。人としての器が小さい。だからいろいろな人に馬鹿にされて舐められる。仕方ないね」
「何かさっきよりも発言が酷くなってないですか?! 僕、今確実に馬鹿にされましたよね?!」
城に乗り込むタイミングを見計らいつつも、軽口をたたき合える三人の姿にマーオは少しの羨ましさを感じた。
小さな村だったためあまり年が近い幼馴染がいないのだ。一番年が近いのがアレクで、その次に年が近いのはマーオよりも年下で六つ離れている。
その頃にはマーオはアレクに相応しくなろうと努力をしていたうえに、六つ年下の子が生まれた年は出産が重なったこともあり、あまり接点がなかった。だから三人の仲がいい姿に少しの寂しさを覚えてしまうのは否めなかった。
「マーオ。あんた、さっきからずっと静かだけど大丈夫かい?」
「え?」
「ん? 酒場を出てからずっと静かだったから……。てっきり勇者に会う事のが不安で考え込んでたと思ったんだが違うのかい?」
王都までくる間はずっとアレクのことを考えていたが、今は思い出していたとはいえ違うことに気をとられ胸の苦しさを感じないとマーオは気が付いた。
それが何故なのか少し不思議に思うマーオだったが、今なお心配そうに自分のことを見ている三人に首を横に振り大丈夫だと告げた。マーオが分かるのは、今こうして強がりでなくはっきりと否定できるのはこの三人が一緒にいてくれるからだと。
「心配してくれてありがとうございます。でも今考えてたのは皆さんがとても仲が良くて羨ましいなって考えてただけなんです。お城に入る前なのに集中してなくてごめんなさい……」
今から城に乗り込むという気を引き締めなければいけないはずの場面で気を抜いていたことを頭を下げて謝るマーオ。
集中しろと怒られるかと思ったマーオだったが、三人はそのマーオの様子に苦笑してしまった。
「気を張りすぎてないなら謝る必要はないよ。あんたが集中してないなんて気にするなら、私達はもっと気を引き締めろって怒られなきゃいけなくなるからね」
気を引き締めることも大切だが、あまり肩の力を入れすぎては出せるはずの力も出せなくなるからねと笑うイースに、強張っていたマーオの肩からも自然に余分な力が抜けていった。
「……そろそろ門番の交代の時間」
話をしながらも門を気にしていたルゲンが言葉を口にする。話し方は変わらないが今までの柔らかい雰囲気が抜け、微かに緊張を孕んだものになった。
その声を聞き、酒場で前もって話し合っていた四人は確認のためにお互いの顔を見合わせる。
「姿を消す魔法を……」
『りょうか~い』
マーオが決められた通りに精霊にお願いをしようとすると、今まで鞄の中で静かにしていた精霊が待っていたと言わんばかりに飛び出し四人の周りをくるくると回りだした。今は全員が見えるようにしているため、前触れもなく現れた精霊の姿にマーオ以外の三人が驚きで目を見張っている。
『おわり~。これで誰にも見つからずにアレクのもとまで行けるわよ!!』
役目は一先ず終わったというように、マーオの肩に座ると胸を張って精霊は告げる。
そしてその言葉を合図に、丁度交代の引継ぎをしている騎士たちの横をマーオたちはなるべく音を立てないように進んでいった。




