自己紹介
女に睨み付けられあわや喧嘩勃発かと危惧したマーオだったがその心配は杞憂に終わった。
睨み付けた女こと、イースは何を考えたのかマーオに軽い自己紹介をすると話をしようと持ちかけたのだ。マーオも気になることがあったためそれを快諾した。
そしてマーオが連れられて移動したのは、比較的大きな町であれば必ずある『ギルド』と呼ばれる魔物などを倒すことを生業とした冒険者と呼ばれるものの組合場。奇しくもマーオが村で寄るように言われていた場所であった。
マーオは話が長くなるかもしれないと思いこれ幸いと先に用事を済ませることを願い出て一度イースたちと離れた。そして用事を済ませるとすぐイースたちが待つギルドが運営している隣の建物の酒場に顔を出した。
店の奥でもう飲み始めていた女性二人を確認したマーオは、力自慢を体現したような荒くれ者たちに恐れることなくその席へと近づいて行くた。
「お待たせしてすみません~。教えていただいた通りにしたらとても高く買い取ってもらうことが出来ました」
そう言ったマーオのその顔は満足げで、今にもスキップをして小躍りでもはじめそうなほど浮かれていた。
今は落ち着いて酒を飲んでいる二人はそんな分かりやすく喜んでいるマーオに苦笑を浮かべ、目立つからと席を進める。
「じゃあさっきも軽く自己紹介をしたが改めて自己紹介させてもらうが、私はイース。ここから西のアルテンゾ国に属していたキサト村の出だよ。勇者とは彼奴が魔王の城に行く途中で寄った村で知り合って、魔物退治を一緒に行動したのが縁で仲間になったんだ。武器は見て分かるように剣を主体にしている」
そう言うとイースは自らが座る椅子に立て掛けていた剣を軽く持ち上げて見せる。
「私はルゲン。生まれはここから東のガルタ国の王都。武器は魔法。勇者とは魔法を覚える旅の途中であった」
室内に入っても変わらずフードを被ったままルゲンは頭を下げた。
「私は」
「僕は……」
「え? きゃっ!!」
二人からの自己紹介が終わり次は自分だと口を開くとそれと同じ時、か細い男の声が重なった。他に誰かいたかと不思議に思ったマーオは声の聞こえた方に視線を向けると自分の横に男が座っている事に気が付きあまりの気配のなさに驚いて悲鳴をあげてしまう。
驚きすぎて椅子を倒してしまったマーオとすまなそうに何度も頭を下げる男。
その姿が面白かったのかイールは机に突っ伏して笑っている。笑いすぎて机を何度も叩き隣に座るルゲンに嫌そうな顔で見られていても気にした様子はない。
「……いいんです。存在感なくていつも気づいてもらえないんです、僕。慣れてますから気にしないでください」
「ご、ごめんなさい!! 最初あった時お二人しかいなかったから」
「僕ルゲンさんの後ろにいたんですけどね、やっぱり気づいてもらえてなかったですよね……」
「え? あ、その、ごめんなさい」
言えば言うほど落ち込んでいく男にマーオは深々と頭を下げてこれ以上失礼なことを言わないように謝った。
「流石、私が目を付けただけはある。いい反応だね!! そいつはキオン。ここカルテラ国の王都出身の僧侶だよ」
マーオの反応に自分の世界に入って暗い雰囲気を纏わせ落ち込んでしまった男、キオンの紹介をイースが簡単にすませてしまった。




