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喜びの知らせは……




 魔王が倒された。

 その知らせがマーオのもとに届いたのは婚約者が村から旅立って一年が過ぎたころだった。

 近くの大きな街でしか発表されないその知らせを持ち帰ったのは、村と街を行き来する村出身の商人ベルだった。

 ベルの「勇者が無事に王都に戻ったらしい」という言葉に、村の広場に集まっていた村人たちは瞬間的に沸いた。

 村の規模は小さいため村全体がどこかで血がつながっている家族だからその知らせは歓喜よりも強い安堵を皆にもたらした。

 婚約者であるマーオもこの一年何の便りもない婚約者の身が無事だったことを素直に喜んだ。

 ベルが街へ出かけるたび仕入れてくる勇者の話をいつも輪の中心の前列で聞いているのも誰よりもしっかり聞きたいがためで、今日もベルが来たことを知ると誰よりも早く駆けつけ前列で話を聞いていた。

 だからこそいつもは笑顔で話すベルの表情が強張っていることにいち早く気が付いた。

 なぜそんな表情なのか分からず、婚約者の身に何かあったのか心配し詰め寄ろうともした。

 だがそれよりも村人が集まるのが早くそのタイミングを逃してしまい不安にかられたが、聞かされたのは無事の知らせ。その知らせを聞いた瞬間、喜びがマーオの体を駆け巡った。

 そして今まで緊張で張りつめていた糸が切れるようにその場に崩れ落ちた。婚約者の無事の機関に安堵して力が抜けてしまったのだ。

 ホッと詰めていたものを吐きだし、知らせを持ってきたベルに礼を言おうと視線を向ける。

「あのベルさん。その……、何かあったんですか?」

 嬉しい知らせの筈なのに何故か難しい顔をしてどこか複雑そうな顔をしているベルにマーオは何かあるのかと尋ねた。

 ベルは商人という職業柄いつも笑顔を浮かべている印象を持つ男だ。よっぽどのことがなければ人前で負の感情を表情に乗せることはない。

 だから他にまだ何か懸念があるのかと心配になった。

「……マーオ、どうか心を落ち着けて聞いてください」

「はい」

 さっきまで村人全員に聞かせるために張り上げていた声とは変わり抑えた声。マーオは胸の前で組んでいた手に力を込めた。

「勇者の婚姻が決まったそうです」

「……え?」

 ベルの言葉の意味を飲み込めず見つめ返すマーオ。

 先にその言葉を意味に気が付いたのは、さっきまで勇者の無事の帰還に湧いていた村人だった。

「それはどういうことだね、ベル」

 村人たちがざわつく中、聞き間違いではないのかと近くで聞いていた長老が尋ねた。

「詳しいことはきちんと会って話したわけではないので分かりませんが、城から出た御触れでは魔王を倒した勇者とこの国の第一王女の婚姻が正式に発表されました」

「それは……。いや、だが勇者は、アレクはマーオの許嫁だというのに婚約などどうなっているんだ」

「アレクに確かめられれば何の問題もないですが手紙一つ送ってこないのを見る限り本人の意思、もしくは王国の思惑が絡んでいる可能性が考えられます」

「まったくあれほど言い含めておったというのに……」

 ベルの言葉を聞き難しい顔をして話す長老の言葉もマーオには届かなかった。いや、聞いてはいるが耳に入ってこないのだ。

「……そ、んな。だって結婚しようって、帰ってくるって言ったのに……?」

 嘘ではないのかと呟くマールの様子に騒めいていた村人たちは口を噤んだ。

 マーオには周りの反応など全く見えていなかった。ただもたらされた事実が全く考えていなかったことで混乱していた。

 思い出すのは幼馴染であり婚約者の存在。勇者と呼ばれ旅立ったアレクのことだった。




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