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私は「キープ」なんですから、いなくなっても困りませんよね?

作者: 栗原ちひろ
掲載日:2026/09/18

「暇をもらう?」

「はい」

「暇をもらうってなんだ? いや、意味は知ってる。自らクビになるってことだろ?」


 俺は言い、少しばかり考え込んだ。

 が、正直よくわからない。

 

 俺はこの国の公爵家の長男で、伯爵位を持った人間だ。

 名前はジュリアン・アシュベリー。

 大鴉みたいな黒髪にエメラルドの緑眼、背はそんなに高くないが均整の取れた体つき、剣術も勉学も困ったことはなく――つまり、完璧な御曹司だと思ってくれたら、それでいい。事実なので。


 僕は貴族学校の学生会長室で、ノエルと向かい合っていた。

 ノエルは俺と同い年、十七歳の女だ。

 すとんとした長い髪はつまらない茶色、目の色も同じ。

 顔はちょっと可愛いけど、それだけ。

 身分は隣の国の商人の娘だとかなんだとか、とにかく大したことがない。

 高貴さも個性も全然ないし、何を言われてもなんとなく薄ら笑っている。


 そんな彼女が、お暇する?


「それって、退学するってことか?」

「退学というか、転校を……」

「は! 転校!! 一体誰に断って?」

「先生方と、親族に」

「俺は? 俺は、おまえの、元婚約者だぞ!? 最初に相談すべきだろう!」


 僕は呆れ果てていた。

 ノエル、このばか!

 ここはこの国一番の貴族学校だ。

 隣国の平民のおまえが入学できたのは、うちの口利きと、寄付が生み出した奇跡なんだ。

 なのにどうして転校なんかするはめになったんだ?


 おまえが自分から望むわけがない。

 ということは……成績か。

 成績が悪すぎて放校か、そうなんだな?

 ばかノエル!!


「わかった……理解した。ノエル、確かにおまえの成績は突出したものじゃなかった、いつも平均点のちょっと上くらいだろ? それくらいじゃあこの学校にいるのはキツい、わかるよ。だけどどうしてもっと早めに言わない!? 言えば、俺の金でどうとでもしてやったのに!」

「えっ。で、でも、そんなことでお金を使うのは、無駄なのでは……」

「無駄だよ! もちろんだ、おまえに使う金のすべてが無駄だ! おまえは俺に無駄金ばっかり使わせる! 昔っからそうだ、うちに越してきたときから、ずっと!」


 俺は思わず声を荒らげた。

 だってそうだろう、ノエルはずっとこうなんだ。


 彼女は遠い親戚筋の女で、十二歳でうちにきた。

 親がこっちの国に引っ越してくるまでの間、うちに面倒を押しつけられたんだ。

 俺と両親は親戚の無茶な願いに呆れつつ、それでもノエルをうちの旧館に住まわせてやった。


 ノエルはとにかく変な女だった。

 何せ、自分で働くのが好きなのだ!

 住み始めた直後に旧館をのぞいてみたら、埃と蜘蛛の巣でどろどろになって掃除をしていた。


『おまえ、何考えてんだ!?』

『ジュリアンさま。いらっしゃいませ』

『いらっしゃいませじゃない! 貴族は自分で掃除なんかしないんだ!!』

『でも、父さまと母さまは自分で掃除をなさいます』

『この、野蛮人! うわっ、虫!! 虫だ、虫が出た!!』

『虫、怖いんですか?』

『怖いに決まってるだろ!! く、来るなっ、来るなーーーっ!!』


 室内に虫とか、信じられない! と俺が悲鳴を上げると、もっと信じられないことが起こった。

 ノエルが、箒で虫を掃き出したのだ。


『ありえない……なんでそんなことができるんだ……!?』

『ジュリアンさま、虫が怖かったんでしょう? もう、これで怖くないですよ』

『………………』


 なんだ、こいつ。俺のために虫を追い出したのか。

 俺はなんともいえない気分になった。

 微笑むノエルは、ちょっとだけ可愛いな、とも思った。


 でも、やっぱり変なやつだな、とも思った。


 俺はそれから、段々とノエルのところへ出入りするようになった。

 ノエルはずっと変な女で、些細なことでにこにこ笑う。

 使用人と同じ食卓でメシを食わせてもにこにこだし、昨日の硬くなった菓子を出しても目をきらきらさせるし、俺の代わりに本を読ませてもお礼を言ってくる。


 変だ。

 変すぎる。

 でも――俺は徐々にノエルを理解した。


 ノエルは多分、俺のことが好きなんだ。


 だってそうだろう?

 貴族の客人なら、ふつうは使用人と一緒にメシなんか食わせたら、屈辱だと言って家を出て行く。

 ノエルがそうしないのは、俺とひとつ屋根の下にいたいからだ。


 硬くなった菓子だって、ふつうは食わない。

 俺がやったから、ノエルは喜んだんだ。


 本だってそう。

 あんなめんどくさい本を読んであらすじを伝えるなんて、俺のことが好きじゃなきゃできるわけがない。


 そんなに好きなら、まあ、構ってやらないこともない。

 俺は完璧な御曹司だからな。

 取り巻きへの対処も必要だ。


 俺は父に進言し、十五歳になったノエルを自分と同じ学校に編入させてやった。

 それまでは図書室で自習だったけど、こいつは俺が好きなんだ。

 学校でも、俺の傍にいたいと思うはずだった。


『学校!? 嬉しいです、ジュリアンさま』

『だろうな。ただし、編入には金がたっぷりかかった』

『そうなんですか? ならば……』

『これはおまえの借金だ。借用書にサインをしろ』

『は、はい』

『おまえみたいな変な女に、さらっとこれだけの金を貸す人間なんか滅多にいない。恩に着ろよ』

『そうですね。ありがとうございます、本当に』

『ちなみに、だが』

『はい?』

『俺のことが好きなら、一応婚約者ってことにしてやってもいいぞ』

『え……?』


 ノエルが驚きに目を瞠った。

 俺は鼻をこすって視線を逸らす。

 ……誤解しないでほしい。

 別に、俺が本気でノエルが好きだとか、そういうわけじゃない。

 これはただの親切心だ。

 何せ俺の通うのは貴族学校。

 校内でも家のランクが大切になる。たまーに成績優秀な平民が入ってくることもあるけど……親の庇護もないばか女は、どうしたって虐められがちだ。

 だから俺が、婚約者ってことにして庇護してやろうと思っただけだ。

 他にまともな婚約者候補が出てきたら、すぐに関係は解消する気だった。


『婚約者……』


 つぶやくノエルの瞳に、夕方の光が反射している。

 このときだけは、地味な茶色の目が、蜂蜜色みたいに見えた。


 ――ちょっとだけ、きれいだった。


『ありがとうございます、ジュリアンさま』


 ノエルはやがて目を伏せ、優しく囁いた。

 その声は俺の胸に、ちょっとだけ染みた。

 恋じゃない。別に、全然本気なんかじゃない。


 ただ、ノエルの恋心が伝染したんだ。

 パンに蜂蜜が沁みるみたいに、ノエルの甘さが、俺にも沁みた。

 ただ、それだけの話。


 それから二年ほど、俺たちはうまくやっていた。

 俺の婚約者のノエルには、あっという間に人間が群がった。

 どうせノエルを通して俺とお近づきになりたい奴らだろう。適当に追い払えばいいのに、ノエルにはそれがうまく出来ない。いちいち相手にして、愛想笑いばかりしている。

 だから仕方なく、俺が追い払う役になった。


『おい、ノエル! 誰と喋ってるんだ、こっちに来い!』

『はい、ジュリアンさま』


『おい、ノエル! 次の授業の宿題、ないぞ?』

『すみません、私が持ったままでした。こちらをどうぞ』


『ノエルは放課後は忙しい。そうだよな?』

『はい、魔法樹のお世話もありますし』


 たまには食いついてくるやつもいた。


『でも、今日はみんなで勉強会をしようっていう話だったの。試験も近いし、ノエルさんは魔法学には詳しいから、是非一緒に、って』

『勉強会? そんなもん言い訳で、どうせ遊ぶ会なんだろ? ノエルは俺の婚約者だ。他のやつと遊ぶなんてふしだらだよ。そうだろ、ノエル?』

『はい、もちろんです、ジュリアンさま』


 ノエルはあいかわらずにこにこし、周囲は変な顔をする。

 俺の悪友の男友達は、下世話な仕草と共に聞いてきた。


『勉強会はふしだら、かあ。なるほどな。おまえらってひょっとして、もう深い仲なわけ? 婚約者同士だと、やりたい放題?』


 はあ? ばかばかしい。

 俺がこんな、笑うとちょっと可愛いだけの女にがっつくかよ。

 長い髪がさらさらっとしてるのは好きだし、俺が気に入ったっていう香りを必ずつけてくるとことかは、かわいげがあると思っちゃいるけど。

 俺は相手を心底ばかにしながら、せいぜい調子をあわせてやった。


『まあ、そういうこともあるかもな。こんな顔して着痩せするぜ、ノエルは』

『ははっ、ひで~~! そんなんみんなの目の前で言ってやるなよ!』

『こらっ、もう! 男子たち、下品だよ。ごめんね、ノエル。私たち、もう行くね』


 悪友はゲラゲラ笑い、他のメンツは薄笑って、俺たちの前から立ち去った。

 変な奴らだ、と振り向くとノエルは真っ赤な顔をしていて、熟れたての林檎みたいだった。


『行くぞノエル。まだ魔法樹の世話が残ってる』

『……はい。………………あの』


 ノエルがちょっと真面目な声を出す。

 俺はさっきの話を引きずりたくなかったから、彼女に学生会室の鍵を放り投げた。


『あ、用事思い出したわ。魔法樹の世話、任せた。終わったらとっとと帰って来いよ。読まなきゃならない魔法書が溜まってる』

『………………』

『おい、返事は』

『…………はい』


 ノエルは小さな声で答え、俺の言うことに従った。


 ノエルは、そういう女だ。

 呼べばいつでも来たし、俺のためになんでもやった。

 俺に本命が出来たときは、婚約破棄も素直に受け入れた。

 そりゃそうだろう、ちゃんと住まわせてるし、食わせてるし。

 虫を追い払うのも、続けてやってるんだし。

 彼女に不満はないはずだった。


 なのに、俺になんの相談もなく転校?

 本当に信じられない。

 おかしい。

 なんなんだよ、なあ?


 俺は改めて、学生会長室でノエルと向き合う。

 深呼吸して、心を広くして言う。


「本当にしょうのないやつだな……帰ったら父上と話す。退学の件はどうにかしてやるから、先に家に帰っていろ。今日も読む魔法書がたくさん――」

「ですが、もう、迎えが来ているのです」

「迎え? どこの」

「王立魔法学校です」


 ノエルは静かに言い切った。

 俺はぽかんとする。

 こいつ、ついにおかしくなったのか。


「王立魔法学校? ばかなのか?」

「いえ、王立魔法学校は、魔法学の成績がトップの者しか入れない学校で、将来的には魔法省への着任が約束される場所なので、ばかは入れなくて」

「そのくらい知ってる!! どうしておまえがそんなところに?」


 怒鳴る俺を前に、ノエルは少し考えこんだ。

 そして、穏やかに笑って言う。


「この家では、魔法書が読み放題でしたから」

「うちのおかげか」

「はい。それと、学生会長室の魔法樹も、世話をしていましたし」

「この学校のおかげか」

「はい。あと、ジュリアンさまの宿題を全部代わりにやっていましたし」

「なら、それは俺のおかげだな」

「はい、そうだと思います。全部、ジュリアンさまのおかげかと」


 深くうなずくノエルの目に嘘はない。

 きらきら、ぴかぴか、いつでもなんとなく楽しそうで、いつでもなんとなく優しく俺を見上げている。なぜって、この女は俺が好きだからだ。

 何をしたって、ゆるぎなく、俺のことが大好きなんだ。


「なのに、どうして、俺のもとを離れる」

「それは……」


 ノエルは少し口ごもったのち、俺を見上げて言った。


「ジュリアンさまには、新しいお世話係ができたようなので」

「お世話係ってなんだ」


 呆然と聞くと、ノエルは穏やかに続ける。


「婚約者って、こちらの国では、お世話係という意味ですよね?」

「はあああああ!?」


 何を言ってるんだ、このばかは!!

 俺は唖然とした。開いた口が塞がらない。

 呆然としてるうちに、ノエルはささっと身の回りの荷物をまとめた。


「とにかく、私の役目はおしまいです。ジュリアンさまは、次のお世話係さんと仲良くなさってください。王家の五女でいらっしゃいましたっけ、立派な方でよかったです」

「いや、待て」

「今までありがとうございました。それでは」


 ノエルは一礼し、部屋を出て行く。

 俺はあまりの怒りに棒立ちになり、次に彼女を追いかけた。


「ノエル!! 戻ってこい!! おまえは、俺なしじゃ生きていけないっ…………、うわっ!! なんだ!?」


 三歩進んだところで、俺は前につんのめった。

 なんだ、と振り返ると、そこには巨大な魔法樹がある。

 部屋の中央の円形水盤の中央から、天井に向かって生える魔法植物。

 蔓の固まりのようなそれがほどけて、俺の足にからんでいた。

 こいつは正しく世話をしていれば、学園中に魔法の力を満たしてくれる。

 世話が行き届かず、魔力が足りなくなると――人間を蔦で巻いて、直接魔力を吸収する。

 そう、今みたいに。


「う、うわああああ!! きしょっ、きもちわるい、おい、ノエル! ノエル、どうにかしてくれ、ノエル!!」


 俺は叫んだ。

 あの時の虫みたいに、この蔦もノエルにどうにかしてほしかった。

 いつでも笑って、泥だらけになっても可愛くて。


 なあ、助けてくれ、ノエル、ノエル、ノエル、ノエル――!!


 ところが今日だけは、呼べど叫べど、ノエルは戻ってこなかった。


◆


「――……ジュリアンさまが、困っているような気がする」


 魔法学園へ向かう馬車の中、私はなぜかピンときた。

 隣では、若い執事のアレンが派手に鼻を鳴らす。


「そりゃ困るでしょうねえ、お嬢さまがいなくなったら」

「お屋敷で三年、婚約者としては二年、お世話係を務めましたものね」


 懐かしいわ、と思っていると、アレンは横で真顔になった。


「聞いてもいいですか」

「なんでもどうぞ、アレン」

「なんだって大陸一の大商人の娘、ノエルお嬢さまが、あのばかのお世話係をやってたんです?」

「多分ジュリアンさま、うちを格下の家だと思っていたのでは?」

「はあ!? うちが隣国で大商人になってるのを、知らなかった?」

「ええ。この国は貴族が一番という価値観ですし」

「にしたって、世界情勢を学べば一発でしょう! どうしたらそこまで無知になれるんだ……」


 アレンは理解不能、という顔だ。

 私は少し考える。


「思うに、彼は臆病すぎるのだと思います。学ぶのが怖いんじゃないですか?」

「そんな御曹司がいますか!?」

「いますよ。使用人のことも怖かったみたいだし」

「貴族なのに!?」

「使用人部屋で話を聞きましたが、指示を出すのが壊滅的に下手みたいで。何度か聞き返すと、真っ赤になってどこかへ行っちゃうらしいです」

「うわあ」

「教師に質問するのも、採点されるのも怖すぎたみたいで、私に宿題やらせてましたし」

「いいとこないじゃないですか……」

「かわいいところはありました。虫も怖くて、きゃーっ! って女の子みたいな悲鳴を上げて縮こまるんです。……かわいかったなあ」


 出会ったころのジュリアンを思い出し、私はほんのりと笑う。

 一生懸命ふんぞり返っていた、ひょろひょろの子ども。

 いつも周りにわめき散らして、そのせいでいつもひとりだった。

 つんつん棘を出しているハリネズミ。

 そのくせ、こんな小さな虫が嫌いだなんて!


「虫を追い払うと、すぐに懐いてくれました。しまいには婚約者だなんて! お世話係になってくれって言うのも怖かったんでしょうね。かわいいなあ、婚約者。ふふ。次の婚約者さん、ちゃんとお世話係やってあげるかなあ。多分しないでしょうねえ」

「それなんですけど……」

「なんですか?」

「婚約者っていうのだけは、本気だった可能性はないですか? ジュリアンさまは、お嬢さまに惚れてたんじゃ?」


 アレンに言われ、私はころころと笑ってしまった。


「ないです、ないです。あんなに子どもなのに、恋なんかできるわけがないです。政略結婚だって、もちろん無理です」


 ジュリアンは子どもだ、あまりにも子ども!

 婚約なんて言いつつ、私の手を握ることすらできなかった。

 周囲に揶揄われると、必死に色事の話をしようとしていたけれど――決まって顔が真っ赤になっていて、周りにもあざ笑われていた。


 かわいいジュリアン、かわいそうなジュリアン。

 私はあなたを、籠の中の小鳥だと思って見ていた。

 私とは関係のないところで、ぴいぴいと鳴く小鳥。


 ひょっとしたら――あなたも、私を同じように見ていたのかもしれない。

 私たちの距離は案外同じだったのかもしれない。


 どっちにしろ、私たちの間には鳥籠があったのだ。


「あの子はただ、便利だから私を傍に置いておきたかったんだと思います」

「はあ……。それを受け入れるなんて、お嬢さまはお人好しだな」

「そうでもないですよ。彼が次のお世話係と上手く行くかを、見届ける前に出て行くんですから」

「そんなの、お嬢さまが気にすることじゃありません」

「そうですか?」

「はい。お嬢さまにはお嬢さまの人生があります」


 アレンに言い切られ、私はにこりと笑う。


「もちろんです。私の人生はこれから。――ちなみに、お父さま、お母さまは?」

「やっとこちらの国へお引っ越しが済んだところです。学校に挨拶が終わったら、学校長の館で夕食を、とおっしゃっておられます」

「よかった。ちなみに、ジュリアンの住む館は?」


 私が問うと、アレンは少し意地悪く笑った。


「お嬢さまがおっしゃるから、あのままアシュベリー家に貸しておくそうですよ。相変わらず、家賃滞納すごいですけど」


 そうなのだ。アシュベリー家はうちの遠縁だが、領地経営に失敗し、家計はすっかり傾いている。そのことを皆に知られたくないといって、うちから随分借金をしているそうなのだ。屋敷もうちが買い取って貸してあげている状態なのだが、それも内緒だ。


 私は目を伏せて微笑む。


「まあまあ。それも、いずれジュリアンさまが真実を知って、立て直したらいいですよ」

「できるかなぁ、そんなこと」

「希望を持ちましょう、希望を!」


 明るく言い、私は馬車の窓をのぞいた。

 そこにはまったガラスには、うっすらと私の姿が映っている。

 生まれたままの豊かなくせっ毛を肩に垂らし、はつらつとしている私。

 この私も、私の好きな私。


 けれど、ジュリアンが好きな私は違った。

 魔法で髪をまっすぐにして、大人しそうで、大人っぽくて。ジュリアンのあとについて回る、穏やかな私。

 ジュリアンがうっとりと見ていた、私。

 そんな私のことも、私は結構好きだった。


 いつか私が大魔道士になったなら。

 そのとき、すべてを知ったジュリアンが私にすがって「助けてくれ!」と言ったなら。

 あの、虫におびえた少年のような顔で、にもう一度私を求めたら。


「……案外そのときは、一緒になるかも」

「なに? なんですって?」

「なんでもないです」


 私は言い、窓の外を指さす。


「魔法学校が見えてきましたよ! 私の、新しい人生の始まりです」



【END】

元サヤにはなりそうで、きっとなりません。

多分。きっと。

……ならないよね……?

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― 新着の感想 ―
もし元サヤに戻ったとしても今度は立場が逆転してそう。 あ、でも、彼の性格からしたら真実に気付いても同じ態度を取り続けるか。
男の趣味悪いなノエルお嬢様w
どうみても惚れてるのに臆病なせいで今後10年は苦労しそう。その後に彼女に泣いてすがれたら復縁の目はあるかもだが。
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