超越者
宇宙は誰かによって均衡が維持されている。
それは誰にも認識できない。
例えるなら、二次元の人物が三次元を認識できないよう。
当たり前なことなのだ。
宇宙は超越的な者たちによって維持されている。
均衡は何者よりも大事なものだ。
万物は完璧に見えて、とても脆い律でしかない。
全て、互いを互いに保護するように補い、統一されているから辛うじて保っているだけで、想像を絶する存在が維持、管理をしないと宇宙は簡単に崩壊する。
宇宙は怯えていた。
圧倒的な存在に、抗えない存在に。
二人の万物を超えた超越的な存在が衝突している。
片方は森羅万象を体現したかのような、そのさらに向こうの存在へと手を掛けている絶対者。
もう片方は森羅には及ばないが、一つの万象”悪”を体現している存在。
それらが周りに配慮をなくし、戦っている。
手を掲げ能力を発動させれば、周囲の惑星は原子レベルで崩壊し、
宇宙空間が歪み、悲鳴を上げる。
移動すれば本来終わりのない宇宙が中庭のように、瞬く間に端まで着き別宇宙に突入してしまう。
奴らからすれば宇宙など地面に生えている花だ。
軽く踏めば、潰れて死んでしまう脆いもの。
不便で扱いずらいが、奴らはそれ故に愛着を覚え、親が子を育てるように均衡を保つ。
そんな彼らが一切気にしていなず、殺し合っているのだ。
理由は簡単、”均衡を保つ”ため。
悪を体現している存在はあらゆる存在を嫌っていた。
人、動物、ルール、信仰、概念、あらゆるものを嫌っていた。
これらに酷いことをされたからではない。
近い話、本能だ。
人間の三大欲求が食欲、性欲、睡眠欲だとすると。
奴の場合、三大欲求が殺意、嫌悪、破壊欲みたいな感じだ。
故に、本能的に全てを壊したいと思い、今実行している。
森羅万象を体現している存在は奴のその性質を理解し、同情もしている。
だからといって、潔く容認できるわけではない。
愛しているものを壊されたくない、故に敵を殺す。
戦いは圧倒的で、絶望的だった。
片方が片方を蹂躙するだけのもの。
森羅を体現している存在が、悪を体現している存在を一方的に攻撃する戦い。
戦況は依然変わらず、悪は優位を取ろうとあらゆる手段で画策するが全てが無意味に終わる。
気付けば体はボロボロで目の前の敵を睨み付ける。
遥か頭上、20mを軽く超える巨体が見上げる位置にいる者が、その手に能力を収束させる。
わからない、奴の能力がどういったものなのか。
そこが見えない、奴の力と存在が。
ーーー一線。
たった一撃で20mの巨体を有する悪を体現している者の体は両断され、生命の活動が不可能なくらい重傷を負う。
終わり、万物含め全てに存在する事象が悪そのものへと襲い掛かる。
その一線が終わると同時、森羅を体現している存在へと宇宙は概念は惑星が平伏するかのように、真っ暗な宇宙空間へと一切の不純も汚れもない、どこまでも奇麗な光を照らす。
まるで、神の降臨、神罰が下された後の光景そのものだ。
絶対的な存在への最大な敬意を示す行為が消滅している自身の眼前で行われる。
悪を体現している存在は思った。
ーーーああ、終わるのかと。
恐怖はない、悲しみもない、怒りもない、ただあるがままを受け入れるかのよう。
爆発するかのように悪そのものが消滅した。
宇宙へと黒い光を残し、消滅した。
だが、ただでは死なない。
悪そのものが故の天邪鬼。
宇宙中へ霧散した黒い光は時間と空間を超え一点へ集まりながら、どこかへ飛んでいく。
一つの特異点に因果という意図が集まるように。
防ごうと思えば防げた行為だが、森羅を体現している存在は思った”これも均衡”だと。
こうして、森羅と悪の戦いは終わった。
同じ存在以外、誰にも認識されなかった戦いは、異世界へ転生しようとしていたものへと悪が収束し、運命を変える形で静かに終わりを告げる。