第1話
「やっぱり、魔法使いだったんだ」
「お、おう? それが知りたかったの? 言ってくれれば言ったのに」
連夜は腫れ物にでも扱うように柔らかに言う。
「はあ!? 言ってくれれば言った? 私何回も言ったよね!? 何か隠してる事は無いかって」
怒り爆発の恋は信じられない、と言った感じで怒鳴る。
「え~? だって俺が魔法使いだって事隠してなんかねえし。現に氷室 (ひむろ) だって知ってるし」
連夜の言葉に恋は一瞬、呆けた表情になる。
「え? ええ!? わ、私、言われてない?!」
「??」
「氷室には言ったのに? 私には言ってない?」
独り言のようにぶつぶつ (連夜にはしっかり聞こえている声で) 言う。
「ええっと……?」
「何で!?」
「い、いきなり噛みついてきたぁ!?」
「私には何で言ってくれなかった訳!?」
「訊かれれば、答えますけど、自分から奇異な目線で見られるような事はしねえよ」
わなわな、と恋が震える。
「私、より、氷室の、方が、速く、気付いた?」
「あ、あの~氷室を不良から助ける時に使って知られただけで、つか、恋は何で俺が魔法使いだって気付いたんだ?」
わなわな、とまだ震えながら恋は言う。
「何で? 私が連夜が遅刻する時に見せたダッシュでようやく魔法使いだって分かったのに……!」
そういえば、今日遅刻しそうになったから魔法を使って身体能力を底上げしたな、と連夜は思った。
あれ? 連夜って言ってなかった?
「わ、私、私、みんなより先に連夜の秘密を知れたと思った、のに……」
ぶるぶる、と恋が悔しそうに唇をかみ締め、数秒後にダッシュで屋上を後にした。
「あいつ、俺が魔法使いだって事が秘密をだったら何をするつもりだったんだ? あんなに悔しそうにして……」
得体のしれない恐怖で連夜は一度震え上がった。 ◆ 「いよぉ!」
連夜よりも頭一つ分大きな背、割と整った顔の少年――氷室雹 が片手を上げて連夜に笑いかける。
連夜も雹に笑いかけ――
「相変わらず、シケた面してやがんなぁ!」
――ようとしたが止めた。
「うっせえなボケ」
ムスッとした顔で雹に言う。
雹はニヤリとした笑い方で、
「今日は良いネタが入ったんだよな」
「良いネタ?」
「おう! 情報屋としてタダで教えるのもおしいくらいのネタだ」
「……わかったよ。昼飯奢る」
「聞き分けがよくて助かる」
ニヒルに笑って、ケータイをポケットから取り出して開ける。
既にメモの画面が映し出されており、こう書かれてあった。
『第2中間考査
問1、マナ。問2、0.0000001mg……』
「……嘘だろ?」
呆然と呟く。
「マジ。つか、俺がこの手の話で嘘ついた事あったか?」
「い、いや……」
首をふるふると横に振る。
補習を本気で懸念していた連夜の夏休みの補習はなくなったも同然だった。