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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
五章 回帰

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二十八話 幾千の形

俺を包んでいた光は、散るように消えていき、現実へと引き戻された。

眠りから覚めるように、俺はゆっくりと目を開いた。


「ダレン……?」


心配そうに、クラリスが俺を覗き込みながら声をかける。

俺は倒れていた体をゆっくりと起こした。


視線の先には、俺を見つめる皆の姿があった。

懐かしくもあり、「帰ってきた」と自然に思える光景に、俺はふっと笑みをこぼした。


「ただいま、皆」


「ダレン……。事は片付いたか?」


師匠が、確認するように問いかけてくる。

俺が何を抱えていたのか、その全てを知らずとも、ずっと気にかけてくれていた一人だ。

俺の顔色をうかがうように、静かに尋ねてきた。


「大丈夫だ、師匠。もう何も悔いはない」


俺は胸を張って、そう答えた。


「それより……ダレンさん。祝福の力を、感じるのですが……」


ルシアがそう問いかけた瞬間、俺もその意味をはっきりと理解した。

今まで感じたことのない力が、確かに体の奥に宿っている。


「これが……祝福か」

「神様から、いただいたのですか?」

「ああ。授けてくれたようだ」


ルシアは、心から安堵したように微笑んだ。


「ルシアさんに続いて、ダレンさんまで……すごいですね。お二人は」

「そりゃ、自慢の仲間たちなんでな」


フィデルがにかっと笑い、つられるように皆が笑った。

その妙に暖かな空気に、先ほどまでいた神様の光の中を思い出し、胸がじんわりと満たされる。


――俺の居場所は、やっぱりここなんだ。

そう、改めて実感できた。


ーーーー


「それじゃ、ありがとな。サクラ。助かった」


それから俺たちは、すぐに出発するため再び港へと向かっていた。

サクラは、見送りとして最後まで港までついてきてくれた。


「いえ。当然の歓待をしたまでです。それに、神様から認められる方を二人も見ることができて、こちらとしても良いものを拝見できました」


満足げに語るサクラと俺は握手を交わし、行きと同じ船へと乗り込む。

皆も続いて船に乗り込んでいった。


「全員乗ったかー? よし、それじゃ――」


セイドが人数を確認し、最後に自分も乗り込もうとした、その時だった。


「――セイドさん、ですか……?」


横合いから、そっと声をかける男がいた。

男は目を見開いたまま、信じられないものを見るようにセイドを凝視している。


一瞬、不思議そうな顔をしたセイドだったが、次の瞬間、細めていた目を限界まで見開いた。


「まさか……フィロス、なのか……?」

「やっぱりセイドさんですよね! 良かった……生きてて……」


話を聞けば、彼はかつてセイドが船夫をしていた頃の船員だった。

クラーケンに襲われ、全員が死んだと思われていた中で――

その一人が、今ここに立っていた。


「なんでお前……ここにいるんだ……?」

「あれから気絶して……奇跡的に、この国に打ち上げられたんです」

「そうか……良かった。本当に……。――他のみんなは?」


期待を込めて問いかけるセイド。

しかし、それとは対照的に、男は目を伏せ、静かに首を横に振った。


「……そうか。やっぱり、そう都合よくはいかねぇよな……

でも、お前が生きていただけでも、俺は救われた。それだけで、十分だ」


「セイドさん……」


感動的な再会の光景に、俺たちは自然と口を閉ざし、その場を見守っていた。

頬をなでるように吹き抜ける潮風と、港に打ち付ける波の音だけが、静かに響いていた。


ーーーー


「よかったのか? かつての仲間を連れて行かなくて?」


俺たちはすでに国を離れ、海の上を進んでいた。

俺は舵を取るセイドに向かって、そう尋ねた。

あれから一言も発さず、ただ海だけを見つめ続けるセイドに。


「いいんだ。あいつにはあいつの人生がある。

それを快く送り出してやるのが、人情ってもんよ」


そう言ってセイドは、俺へと振り向き、今日一番の笑みを見せた。

その笑みは、静かに流れる波のように、どこか寂しさを帯びながらも、

同時に、海のように広く大きなものだった。


「まさか、あいつがもう子持ちとはな。俺も、いつまでも浮かれてらんねぇな」

「セイドにも、そういう心持ちがあったのか?」

「そりゃそうよ。それより、あんたはどうなんだ?」

「俺か?」


頷くセイドに、俺は言葉に詰まり、少し頭を悩ませた。

そして、舵を握り海を見つめるセイドと同じように、俺も視線を海へ向けた。


本当に、終わりが見えてきた長い旅。

あとは、ペンタグラムを倒すのみ。

先の見えない未来に、俺はまだ明確な答えを持てずにいた。


「まだ、わからないな……けど――」


「――楽しみだ」


俺は海に向かい、どこまでも広がる青を見つめながら、ただそう思った。


ーーーー


『クラーケンには、気を付けてくださいね』


別れ際に、サクラからかけられた言葉。

一度は倒したとはいえ、油断できる相手ではない。


再び、視界を遮るように霧が立ち込め、俺たちを包み込んだ。

だが、そんな状況でも、俺たちは雲一つない表情で立っていた。


「ダレン、任せていいんだよね?」

「ああ、頼んだぞ」


クラリスと師匠から向けられる視線に、俺は真っ直ぐ頷いて応えた。


俺は、師範に教わったすべてを反芻するように、剣を構え、そっと目を閉じた。

闘気が凝縮され、体の奥で熱を帯びていく。


そこへ、俺自身の意志を込める。


何よりも強く。

何よりも硬く。

決して崩れぬように。


俺の意志は、次第に結ばれ、確かな形となっていった。


――これが、本当の『闘志』。


俺は思うがままに、剣を振りかぶった。

放たれた剣閃は霧を裂き、すべてを晴らす。

視界いっぱいに青い海が広がり、空も明るく、俺たちを照らした。


「おいおい……まじか……」


フィデルが、驚きを隠せないまま呟く。

だが俺は気にも留めず、現れるであろう存在に身構えた。


「来たぞっ!」


師匠の声と同時に、無数の触手が鞭のように襲いかかる。

俺はそれを、黒曜を抜き放ち、正面から迎え撃った。

能力を解放し、抵抗させる間も与えず、力でねじ伏せる。


前回同様、海面を割って浮かび上がるクラーケン。


だが、このクラーケンも俺の脅威に気付いたのだろう。

出し惜しみなどせず、口から激しい水流を放った。


それは、津波のごとく俺に襲いかかる。

――だが、俺の前では、時が止まったかのように、それはただの雫でしかなかった。


「これが――俺の剣だ」


一閃。


俺の抜き放った一刀は、闘志を纏い、水流ごと、クラーケンの巨体を斬り裂いた。

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