表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
五章 回帰

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/108

二十四話 来訪

俺たちはそのまま船を走らせ、島をすぐ近くに捉えていた。


だが、海岸の傍にはすでに多くの人影があり、こちらをじっと見つめていた。

その視線には歓迎の色はなく、明確な警戒心がにじんでいる。


「どういう状況だ? セイド」

「人の来訪が滅多にない国だからな。警戒されるには充分すぎるだろう」


その言葉には納得できた。

だが問題はそれだけではない。

明らかに武装した、騎士団と思しき者たちまでが控えている。


「……本当に大丈夫なんだろうな」


胸の奥に、言いようのない不安が芽生える。

俺はそのまま、近づく島影を見つめていた。


ーーーー


「――何用でこの国へ来た?」


岸へ到着するや否や、騎士団らしき男の一人が声を荒げて問いかけてきた。

剣に手をかけたままの姿勢は、いつでも排除する覚悟を感じさせる。


俺は一歩前に出て、声を張り上げた。


「神の根源と触れられる遺物が、この国にあると聞いて来た」


その瞬間、空気が一段と張り詰めた。

男たちの視線が鋭くなり、露骨な敵意がこちらに向けられる。


「……何か変なこと言ったか?」

「ああ? そんなはずはねぇんだが……」


師匠が小声で呟くが、目的は事実そのものだ。

師範から聞いた話を、そのまま伝えただけにすぎない。


「――あれは、ヒズルの国宝だ!」


男は声を荒げて叫んだ。


「よそ者を近づけることなど、断じて許されぬ!」

「そう言われても――」

「今すぐ去れ! 大陸へ帰れ!」


一方的に言い放たれ、俺たちは言葉を失った。

セイドも想定外だったのか、眉をひそめ状況を測りかねている様子だ。


このまま膠着するかと思われた、その時――


「――どうされたのですか?」


人々をかき分け、小さな一団がこちらへと歩み寄ってきた。

その中心にいたのは、黒髪を長く携え、長い睫毛を揺らす若い女性だった。


「な、サクラ様!? なぜこちらに……」

「少し寄ってみましたら、騒がしかったものです。それで、これは?」


男は慌てて状況を説明し始める。

それを聞いたサクラと呼ばれた女性は、顎に手を添え、静かに思案した。


やがて、視線が俺へと向けられる。


「そちらの方。我が国の国宝のことを、どこでお聞きになったのですか?」

「俺の師範――剣聖からだ。そこへ行けと」

「剣聖……まさか、ソーデン殿、ですか?」


その名を聞いた瞬間、彼女の表情がはっきりと変わった。

驚愕と確信が入り混じったような眼差しだった。


名前まで出てくるということは、やはり師範のことを知っているのだろう。


その時、俺は師範から言われていた“もう一つ”を思い出した。


「そうだ……これを見せろとも言われていた」


俺はそう言いながら、もう一対の剣――『黒曜』を引き抜き、その姿を掲げた。


闇を孕んだ刃が、陽光を吸い込むように鈍く輝く。


それを見た瞬間、サクラは息を呑み、やがて深く目を伏せた。


そして――


「――ようこそ、ヒズルへ。皆さま方」


彼女は丁寧に頭を下げ、そう告げた。


その一言を境に、周囲の空気が一変する。

つい先ほどまでの敵意は消え、俺たちは正式にヒズルの国へ迎え入れられたのだった。


ーーーー


そうして俺たちは、サクラ様と呼ばれた女性の案内のもと、同じ馬車に揺られていた。

俺たち全員と、彼女、そして護衛らしき者たちが同乗できるほどの大型の馬車だ。


護衛の数や、その立ち居振る舞いに滲む風格からしても、彼女が明らかに高い身分であることは容易に察せられた。


「どうされましたか?」


俺の視線に気づいたのか、サクラがこちらを見て柔らかく尋ねてきた。


「あー……今からどこへ行く、んですか?」

「サクラで構いませんよ。それに、砕けた口調で大丈夫です」


少し微笑みながらそう言ってから、彼女は続けた。


「これから向かうのは、“ヤマト神殿”と呼ばれる場所です」

「ヤマト神殿?」

「ええ。そこに、あなた方の求める遺物が眠っています」


突然この国に迎え入れられ、こうして即座に連れて行かれる状況に、正直混乱は隠せなかった。

それに――サクラという名前、ヤマト神殿という呼び名。


どれも、あまりにも耳馴染みがよすぎる。


明らかに、日本を思わせる要素が多い。

俺は無意識のうちに表情を険しくしていたらしく、サクラがそれに気づいて再び声をかけた。


「そんなに緊張なさらないでください。ソーデン殿が認めた方々です。私が責任を持って歓迎いたします」

「ああ、ありがとう。それより……師範は、この国ではどういう扱いなんだ?」


俺は、『黒曜』を見せた途端に周囲の態度が一変したことも含めて尋ねた。


サクラは一瞬目を伏せ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「ソーデン殿が以前この国を訪れた際、ヒズルでは“地鳴り”と呼ばれる災害が起きていました」

「災害?」

「はい。遺跡から魔物が溢れ出す現象です。歴史的にもごくまれですが……当時、我が国は対応できず、混乱していました」


そこで現れたのが、師範――ソーデン。


「ソーデン殿は溢れ出た魔物と対峙し、多くの民を救ってくださいました。その功績を称え、贈られたのが、その剣――『黒曜』です」


なるほど、と腑に落ちる。


「ですが、『またいつか来る』と言って、すぐに国を去られてしまいました」

「あの人らしいっちゃ、らしいが……」

「ええ。その際、“黒曜を持つ者が訪れたならば、最大限の歓待を”と伝えております」


その剣を、ダレン殿に託されたということは――そういう意味なのでしょう、とサクラはどこか懐かしむように語った。


きっとこの国の人々にとって、師範は今もなお、大きな存在なのだろう。

隣ではクラリスも、腕を組みながら唸るように話を聞いていた。


「サクラ様、じきに」


馬車の外から、護衛の一人が声を掛けた。

どうやら目的地に近づいたらしい。


やがて馬車は静かに止まり、到着が告げられた。


俺たちは順に馬車を降りる。

そして――目の前の光景に、思わず息を呑んだ。


「これは……」


誰ともなく、皆が同じ言葉をこぼす。


その壮観さに、ただ見蕩れることしかできなかった。


その様子に、サクラが小さく微笑む。


「こちらがヤマト神殿です。我が国の国宝、“シンノ鏡”が祀られている場所です」


その説明が耳に入ってくるが、ほとんど頭に入らない。


派手さはなく、静謐で整えられた造り。

これが“神の御業”だと言われても、疑う者はいないだろう。


前世で例えるなら――鳳凰堂に近い。

そう思った瞬間、妙に納得がいった。


「巫女姫様、どうぞ」

「……巫女姫?」


神殿の警護にあたっていた者の呼びかけに、クラリスが小さく声を上げた。


高い身分なのは察していたが、“姫”という言葉には驚きを隠せなかったらしい。


「お伝えしていませんでしたね。私はこの国で“巫女姫”を賜っています」

「聖女、みたいなものか?」

「大陸で言えば、その認識で構いません」


そう答え、サクラは歩き出す。


「では、行きましょうか」


その後ろに続き、俺たちも神殿の門をくぐった。


内部は一見すると暗く沈んでいるように見えたが、外から差し込むわずかな光が、緻密に計算された配置で美しく散っている。


「……ここまでとは」

「驚きですね。それに……」


ルシアが言葉を切り、顔を強張らせた。


「ルシア?」

「神の御力を……奥から、非常に強く感じます……」


僅かに冷や汗を浮かべ、緊張を隠せない様子だ。

祝福を持たない俺たちには分からない“何か”を、ルシアは確かに感じ取っていた。


それから幾重にも設けられた厳重な門を抜け、地下へと続く階段を降りていく。

松明の灯りに照らされ、その先に――重厚な扉が現れた。


サクラは静かに歩み寄り、そっと手のひらをかざす。

何かを念じると、あれほど重そうだった扉が、驚くほど容易く開いた。


その瞬間――

ルシアの言っていた意味を、俺たちはようやく理解した。


この世のものとは思えない“何か”が、確かにこの空間には満ちていた。


「――どうぞ、お入りください」


サクラに促され、俺たちは言葉を失ったまま、一歩を踏み出す。


こうして俺たちは――

神の一端へと、足を踏み入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ