表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
五章 回帰

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/108

二十一話 情報屋

「本当に、船なんて出てるのか?」


俺は、詰めるように師匠へ問いかけた。


「そのはずなんだがな……」


師匠は頭を掻きながら首をかしげた。


俺たちは馬車に乗り、故郷から帝国の東に位置する港街へと来ていた。

港には大小さまざまな船が並び、海産物を扱う店が所狭しと立ち並んでいる。

しかし、船乗りたちに声をかけても、どこからも色よい返事は返ってこなかった。


「皆、なんか島に行くのを渋っていたよね?」

「まあ……嫌がっていた、って感じだな」


理由までは聞けなかったが、どの船乗りも同じ反応だった。

その様子が気になり、俺たちは顔を見合わせる。


「情報屋にでも聞いてみるか」

「情報屋?」


師匠の言葉を、半ば聞き返すように俺は言った。


「こういう街には、たいていいるもんだ」


そう言って歩き出す師匠の背を追い、俺たちは少し暗い裏路地へと入っていく。

そこには、明らかに陽の当たる職ではなさそうな者たちが肩を寄せ合っていた。

わずかに貧民街の空気が漂っていたが、師匠は気にした様子もなく進む。


「なあ、情報屋はどこにいる?」


脇道からこちらを窺っていた一人の男に近寄り、師匠はそう問いかけた。

そして、手のひらでそっと金をちらつかせる。


「……広場の端にある露天商。そこにいる」

「そうか」


男は差し出された金を素早くつまみ取り、場所を告げた。

師匠は短く答えてその場を離れる。


「よし、そこへ向かうぞ」

「随分と手馴れてるな……」

「こういうのも、時には役立つぞ?」


苦笑する俺の横で、フィデルは感心したように息を吐いた。


広場へ向かうと、目当ての露天商は思っていたより簡単に見つかった。

薄暗い路地の一角に、ひっそりと佇む店があった。


「入るぞー」


師匠が天幕を捲り、俺たちも続いて入る。

中には骨董品や、遺物と思しき奇妙な品々が並んでいた。

カウンターには肘をつき、こちらを横目で見やる髭面の男が座っている。


「なんだ? 売りか? 買いか?」


男が低くつぶやくと、師匠は迷わず答えた。


「情報を買いに来た」

「情報? なんのだ? 様子を見るに、探索者ってところか」

「半分正解ってところだな。東の島国に行きたい」


その言葉に、男は僅かに目を見開いたが、すぐに表情を消して目を伏せた。


「それに関しては、やめとけ」

「そうはいかない」

「何と言われようが無理なもんは無理だ。いくら金を積まれてもなーー」


追い返すように言う男へ、師匠は懐から袋を取り出し、目の前に置いた。

袋がカウンターに重い音を立てて落ち、中身の量が一瞬で分かった。


男の視線がわずかに揺れる。

師匠はそれを逃さず、袋から金貨を取り出してカウンターへと広げた。

ジャラジャラと金貨が音を立て、店内に響く。


「ーーどうだ?」


にやりと笑う師匠に対し、男は悔しさを滲ませたような顔をしながら、必死に平静を保つように大きくため息をついた。


「金払いのいい客だ。仕方ないーー」


そう言って、男は島国について語り始めた。


もともと帝国と島国のあいだには、ある程度の親交があった。

しかし、航路があまりにも険しく、次第に往来は途絶えていったという。

運よくたどり着く者、運よく戻ってくる者もいるにはいるが──七割は生死すら分からず消息を絶つ。


それを恐れ、船乗りたちは語ることすら避け、島国行きなど持ちかけられたくもないのだ。


「一体、海で何があるって言うんだ?」


苛立ち混じりに俺が問うと、男は遠い目をしながら呟くように答えた。


「ーー海の魔物。クラーケンだ」

「クラーケン?」


物語や童話に出てくる怪物。

まさか実在するとは思っていなかった。

俺たちは恐怖よりも疑念の方が勝っていた。


「奴は、海に濃い霧を放って視界を奪う。混乱した船を、巨大な触手で沈めていくんだ」

「だが、生還した者もいるんだろ?」

「運よく遭遇しなかった者か、強力な護衛を連れていた奴だな。噂じゃ、剣聖を乗せた船もあったらしい。そいつは帰ってきたそうだ」


そこで「剣聖」の単語が出たことで、俺たちは思わず顔を見合わせた。


「剣聖はクラーケンを追い返したって話もあるが……そんな芸当ができる奴はそうはいねぇ。ここまで聞いて、それでも行くのか?」


「行く。だから、船を出せる船夫を紹介してくれ」

「……そんな奴はいない」


男は言いながらも、明らかに気まずそうに目を伏せた。

その一瞬の反応を逃さず、俺はさらに踏み込んだ。


「俺は剣聖の弟子、ダレン・クローヴァンだ。師匠も弟子も揃っている」

「ダレン・クローヴァン……? 剣聖の弟子? まさか、帝国の英雄か?」

「ああ。訳あって島国に行く。本物だ」


そう告げて俺は探索者証を見せた。

男は身を乗り出し、探索者証と俺の顔を何度も見比べ、驚愕を隠せずにいた。


「間違い……なさそうだな……」

「これで信じてもらえたか?」

「あ、ああ。ーーあんたらなら……ひょっとしたら、行けるかもしれねぇ」


なぜか俺たちよりも、男のほうが希望を見つけたような口ぶりだった。


「分かった。船を手配しよう。日程は?」

「早ければ明日にでも」


俺がそう答えると、男は覚悟を決めたように深くうなづき、交渉は成立した。

あの様子なら、船夫を紹介してくれる流れになったはずだ。


店を出ると、フィデルが大きく息を吐いた。


「なんとかうまくいったな」

「ダレンも交渉が上手くなったじゃねぇか」

「段々、名乗ることに抵抗がなくなってきたのが怖いさ……」


俺が肩をすくめると、クラリスとルシアが並んできた。


「やっと、向かえるね」

「私も……神の島、楽しみです」


二人の笑顔を横目に、俺は前を向く。


「そうだな」


ついに東の島国へ向けて、確かな道筋が立った。

師範が言った「俺に足りないもの」。

未練の正体。

この旅が、何をもたらすのか。


期待と不安を胸に抱えながら、俺は静かに歩みを進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ