二十話 不動
「君たちが……ダレンの仲間か――」
父様は皆の姿を見るなり、驚いたように目を見開き、次の瞬間には深く頭を下げた。
「――ここまでダレンを支えてくれたこと、感謝する」
唐突な感謝と低姿勢に、仲間たちは呆気に取られたように固まってしまう。
その様子を横で見ていた師匠は、まるでいたずらを見つけた子どものように、口元を緩めていた。
仲間たちは助けを求めるように俺へ視線を送ってくる。
「父様、とりあえず顔を上げてください。皆を紹介します」
そう告げて、俺は一人ずつ名前と旅での役割を紹介していった。
それぞれが俺に倣い、丁寧に頭を下げる。
クラリスの番になると、父様はわずかに目を丸くして驚いた。
「騎士団だったのか……すまない、気づかなくて」
「いえ、あの時の私はまだ未熟ものでしたから。それに、『五剣』のアレス様と会えたことも光栄です」
「所詮は肩書だ。それに……クラリス。確か、五剣候補にも名を連ねていたはずだろう?」
「今の私には必要のないものです。今は――他に大切な居場所がありますから」
クラリスはそう言って、最後に俺へ視線を送った。
その視線に、俺も小さくうなずき返した。
「フィデル、ルシア……君たちもよくついてきてくれた」
「いやー、ダレンはほっとけないところがありましたから。それに……俺自身も学ぶことがたくさんあったんで」
「私はむしろ連れ出してもらったようなものです。色んなものを一緒に見られるのは、とても嬉しいことです」
「そうか……」
父様は感慨深く呟き、優しい目で三人を見つめた。
その時、扉が静かに開き、神父が顔を覗かせた。
「失礼します。もう夜も遅いですが……皆さん、今夜はどうなさいますか?」
俺たちは顔を見合わせた。
「ダレン。家に戻ろう。部屋は十分にある」
「はい。そうしましょう」
そうして俺たちは、久方ぶりにあの家へ戻った。
懐かしい家の食卓を囲み、それぞれが今日までの出来事を語り合う。
まるで失われた月日を取り返すかのように、話は尽きなかった。
夜のはずなのに、部屋の中は不思議と温かく明るかった。
まるで――母たちが微笑みながら、そのそばで見守っているかのように。
ーーーー
「ーー驚いた。成長したな、ダレン」
朝を迎えると、俺とクラリスはいつもの日課のように鍛錬をしていた。
そこへ父様が姿を現した。視線には気づいていたが、途中から物陰からこちらを見ていたらしい。
「もう俺より強いかもしれんな」
「父様に勝てる姿があまり浮かばないですがね」
「そんなことはない。それにクラリスも相当だ。もう五剣に並ぶ……いや、それ以上かもしれんな」
父様の言葉に、クラリスは少し照れたようにうなづいた。
「私にとっての剣の形が分かったような気がします。ただ、五剣に未練はありませんけどね」
「そうか。少しもったいない気もするが……それより剣の形か。正直な感想を言ってもいいか?」
改まったような口調に、俺はうなづき返した。
「ーー拮抗した剣戟だったが、どうにかダレンが技術で補おうとしているように見えた。
若干だが、クラリスの方が、剣が真っ直ぐに見えたんだ」
曖昧なようでいて核心を突いた言葉に、俺は思わず目を丸くした。
あれだけの短い時間の修練を見ただけで、師範が言っていたことと同じ本質に辿り着く父様にも驚いた。
俺は腰に添えられた、もう一対の黒い剣に触れた。
「さすがですね。それは剣の聖地でも、師範に言われたことです」
「改善は難しいのか? 剣聖は何か言っていなかったのか?」
父様の問いに応え、俺は黒い剣を抜き、その刀身を見つめる。
「東の島国へ行けと……そう言われています」
「そこに行けば分かるかも、って師範は言ってたよね?」
クラリスも、俺の言葉に続いた。
「東の島国か……」
「何か知っているんですか?」
父様は顎に手を当て、少し考え込む。
「詳しくは知らないが……あそこは神の島ともいわれている。神と会って話ができる、などという噂もあるが、真偽は分からん」
結局、核心をつく情報は得られず、俺とクラリスは同時にため息をついた。
その様子に、父様は苦笑を浮かべた。
「だが、それなら行けるうちに行っておいた方がいい。時間は有限だぞ?」
「それもそうですね……」
もともと向かうつもりではあった。ただ、まずは故郷であるこの場所へもう一度帰ってくることを一つの目標にしていた。
頭の中で今後の計画を組み立てていると――
「ーーそれなら、今から向かうぞ」
剣を肩に担ぎながら、師匠が姿を見せた。突然の宣言に、俺たちは首をかしげる。
「事は早いに越したことはないからな。街でも情報を集めておいた」
「今からって……どうやって行くんだ?」
「帝国の東の港町だ。そこから船が出ている。少し値は張るが……問題ないだろ?」
あまりにも展開が早すぎて、俺たちは思わず目を丸くした。
さらに後ろから、支度を整えたフィデルとルシアが顔を出した。
「もう出るって聞いたんだが……」
「ちょっと早かったですか?」
「おい、ダレン。クラリスもだ。早く支度しろ」
促すように師匠が言う。急な出来事に、俺は思わず体を固めてしまった。
「また帰ってくるんだろう? 行ってこい」
そんな俺に向けて父様は、背中を押すように静かに言った。
その言葉を受け、俺は強くうなづき、固まった身体を動かし始める。
「はい。また戻ってきます」
「ああ。行ってらっしゃい」
「ーー行ってきます」
再びここを離れることに、もう恐れはなかった。
十分に強くなり、胸を張って帰ってこられる自信がある。
支度を整え、大きく手を振る。
そして俺は、この地を再び離れ、新たな成長と未練を絶つために旅立った。




