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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
五章 回帰

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二話 宴

「久しぶりだな、師匠」

「ああ……大きくなったな、ダレン」

「あれから一年も経ってないだろ」


感慨深そうに俺を見つめる師匠に、思わず口をはさんだ。

久しぶりの再会に、どこかぎこちない距離感を覚えながらも、互いにそれを笑い合う。

師匠はしばらく俺の目を見つめ、それから静かに首を横に振った。


「いや……お前の目を見りゃ分かるさ。

――見つけたんだな」


「ああ。いろんなことがあった。

でも、皆がいたから乗り越えられた。今の俺がいるのは、そのおかげだ」


俺は後ろに控える三人へと視線を向けた。

師匠もその視線を追い、三人を見据える。


「そうか……お前たちがダレンの仲間か。ありがとうな。ダレンを支えてくれて」

「結局はダレンの力ですよ。私たちはきっかけに過ぎません」

「はい、クラリスの言う通りです」

「右に同じだ」


三人の頼もしい言葉に、師匠はますます口元を緩めた。


「そうか……良かったな、ダレン」

「ああ。師匠も変わらないな。むしろ顔色が良くなったんじゃないか?」

「こっちも色々あったからな。……少し二人で話しても構わねぇか?」


師匠が確認を取る。俺はうなづき、三人にも目で合図してから、少し離れた場所にある簡易ベンチへ向かった。


腰を下ろすと、師匠は懐から懐かしいものを取り出し、俺に差し向ける。

「いるか?」

「俺はもう大丈夫だ」

「そうか……はっ。いい顔しやがる」


火をつけ、師匠は煙を吸い込み、静かに吐き出した。

白い煙が宙に溶けていく。その先を見つめながら、ゆっくりと口を開く。


「お前の話は、ここまで届いてたぜ。『ペンタグラム』を幾度も止めた英雄――それに、特級探索者になったらしいな。『紅影』、お前らしい」

「英雄なんて柄じゃない。特級だって、成り行きみたいなもんだ」

「それでもだ。成り行きで掴めるほど、軽い道じゃなかったはずだ。

……あの仲間たちが言ってた通りだよ。お前自身の力だ、ダレン」


自分で謙遜しておいて、いざ師匠に認められると胸が熱くなった。

過去の自分を知る人間だからこそ、その言葉は何よりも重かった。


「それで、師匠は何をしてたんだ?」

「ああ、それか。話すと長くなるが――」


俺と別れてからの師匠の動向を聞いた。

彼は『ペンタグラム』の追跡と、各地で協力者を探す活動を続けていたらしい。


「――それで俺も、自分の剣をもう一度見つめ直すために、ダムナへ行った」

「あの紛争地に? なんでそんな所へ」

「ダムナの西には、唯一戦火を逃れた地があってな。

『剣の聖地』と呼ばれている。剣を極めた者だけが辿り着ける、辺境の地だ」


『剣の聖地』

剣聖たちが代々受け継ぎ、ただひたすらに剣そのものを研ぎ澄ませてきた場所――

名前を聞いただけで、空気が張り詰めるような気がした。


「そこで修行を積んでな。結果的に紛争にも関わることになった。

神聖王国に移動したときには……『ペンタグラム』の襲撃に居合わせたんだ」

「師匠もずいぶん暴れてたようだな」


最初に感じた「若返った印象」が、今になって腑に落ちた。

足取りも構えも、以前よりもずっと研ぎ澄まされている。

師匠もまた、自らを磨き直してここに立っているのだと分かった。


「まぁな。……それに話は聞いてる。いよいよ最後の決戦だってな」

「ああ。ついにだ。そこで、すべてに決着をつける」

「もちろん、俺も協力するさ。だがその前に――お前も少しは剣の聖地に興味があるんじゃないか?」

「興味がないと言えばウソになるな」

「なら――」


師匠は好戦的な笑みを浮かべた。

その瞳には、懐かしい光と、かつて共に剣を振るった日の熱が宿っていた。

吐いた白い息が灰のように空に溶けていく。

だが、その中にあったのは、不安ではなく、確かな期待だった。


ーーーー


「――はっはっは! あの“攻城”といい勝負したってか! ダレン、すごいな!」

「俺もあれを見たときは驚いたぜ!」

「もっと聞かせてくれよ、フィデル!」

「ああ! いいぜ、アルケ!」


話を終えたあと、俺たちはここを発つ前に、酒場で食事を交わしていた。

すでにかなりの酒を飲んでいるアルケとフィデルは、なぜか意気投合しており、旅の出来事を肴に笑い合っていた。

俺を話のネタにされるのは少し癪だが――師匠と仲間たちが笑い合う姿に、自然と口元がほころぶ。


手にしていた杯を口に運ぶと、すでに中身は空だった。

普段はほとんど飲まないせいか、体の芯がじんわりと熱を帯びていくのを感じる。


「はい、水です」


隣に座っていたルシアが、気づいて水を差し出してくれた。


「ああ。ありがとう」

「いえ。楽しそうですね」

「そうだな。こういう光景が見られるのも、悪くない」

「これもダレンさんが築いてきたものですよ」


ルシアは果実水を片手に、穏やかに微笑んだ。

俺も水を一口飲み、落ち着くように椅子の背に体を預ける。


そのとき――


「――ダレンも、もっと飲もうよ!」


横から、突然クラリスが首に腕を回してきた。

酒瓶を片手に、顔は真っ赤。瞳はうるんで焦点が合っていない。


「おい、そろそろ落ち着けよ、クラリス」

「やーだ。ダレンはすごいんだよ! だってねぇ……ヒック」

「はいはい、クラリス。あっちで少し休みましょうね」

「ああもう、ルシアったら~……」


ルシアは苦笑しながらクラリスの手から酒を取り上げ、肩を支えて奥の席へと連れていった。

普段は真面目なクラリスが、こんなにも酔ってはしゃぐ姿は珍しい。

俺たちは任務中ほとんど酒を口にしなかった。

だからこそ、こんな一面を見られたことが、妙に嬉しかった。


仲間たちの笑い声と、師匠の穏やかな笑顔。

その光景を眺めながら、俺は思わず小さく笑う。


「……父様にも、見せたいな」


賑やかな酒場のざわめきの中で、俺はそっと呟いた。



翌朝。


「あー……頭いてぇ……」

「飲みすぎだ、フィデル。少しは自制したらどうだ?」

「久しぶりだったんだぜ? 仕方ねぇだろ……」


夜は明け、酒場の喧騒が嘘のように静まった朝。

それぞれが解散したのち、いよいよ出発のときが来た。

結局、あのあともフィデルは師匠と連れ立って夜の街へ消えたらしい。


朝日を浴びて現れたフィデルの顔色は、明らかに悪かった。

まだ酒が抜けきっていない。


「ほら、水だ」

「おう。ありがとな。……お、クラリスたちも来たぜ」


フィデルに水を渡しつつ、彼の視線の先を追う。

そこには、同じく顔色の悪いクラリスと、それを心配そうに支えるルシアの姿があった。


「おはよう、二人とも。クラリスは大丈夫か?」

「な、なんとかね……。あんなに飲んだの、初めてかも……」

「ダレンさんは大丈夫そうですね? 私は水でしたけど」


ルシアが首を傾げて笑う。

確かに俺もかなり飲んだが、水を飲んで寝たおかげで問題はなかった。

どうやら体質の差が出たらしい。


「俺は平気だ。……後は師匠だが――」


「待たせたな。お前ら」


背後から声がした。

振り向くと、そこには昨日と変わらぬ落ち着いた表情の師匠が立っていた。

フィデルと同じように夜通し飲んでいたとは思えない。

まるで何事もなかったかのような足取りだった。


「あんた、化け物かよ……」とフィデルがぼやくのを背に、俺は小さく笑った。

再びこの師匠と肩を並べて歩める――その実感が胸に満ちていく。


「それじゃあ行くぞ。――ダムナ紛争地へ」


師匠の号令を合図に、俺たちは西の地へと歩み出した。

剣の聖地を目指す旅が、今、再び始まった。


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