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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
四章 懺悔と赦し

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十二話 影と対峙

迫り来る大量の不死人に対し、俺たちも、そして騎士たちも剣を構え応戦した。

僅か四人で正面から乗り込んできたのも、この不死人たちという切り札があるからこそだろう。


「くっ……!」

「なんか、前よりも強くない!?」


以前よりも明らかに強化された不死人の動き。

剣の一振りごとの力と速度が増しており、数の多さに加え、その威圧感が兵たちの士気を削ぐ。

一瞬の隙に、俺は屋根の上の四人を見やる。

タナトスの口元には、あの不気味な笑みが浮かんでいた。


ノクスが言っていた“遺物”――そしてそれを強化する装置、『昇華盤』の存在が脳裏をよぎる。

あの仮面の男、恐らく首魁――“ヴォイド”。

奴が静かに右手を掲げた。


その瞬間、腕輪から放たれる異様な気配に、背筋を氷の針で貫かれたような寒気を覚える。


「避けろーーーッ!!」


俺の叫びとほぼ同時に、ヴォイドの手が振り下ろされた。

爆ぜるように風が巻き起こり、竜巻が戦場を呑み込む。

不死人も、騎士も、敵味方の区別なく吹き飛ばされる。

必死に避けた者たちだけが、何とか無事でいた。

クラリスとフィデルも、端に飛び退いていたのが見えた。


しかし、教会はもはや原形を留めていなかった。

瓦礫が崩れ落ち、壁も天井も砕け散る。

地下への入り口が、皮肉にも瓦礫の間から露わになる。

崩壊の中、粉塵にまみれた女神像だけが、まるで俺たちを見守るように静かに立っていた。

その姿が、不気味なほど神々しく映った。


「奴らが降りてきたぞ!」

「迎え撃て!!」


屋根から静観していた四人が、ついに降下する。

辺りは一瞬で乱戦に変わり、叫びと剣戟の音が夜を切り裂いた。


その刹那、俺の前に二つの影が迫る。

キールと――テネブリス。


キールの爆発を伴う剣技を警戒しながら、まずはテネブリスの一撃を受ける。

黒き刃と黒き刃がぶつかり合い、火花が闇を裂いた。

その隙を狙い、キールが踏み込む――だが、その間に蒼穹が閃光のように走り、キールを牽制した。

光が弾け、キールは距離を取る。


「やらせないよ!」

「前は逃がしたが、次はそうはいかねぇ!」


フィデルとクラリスが並び立ち、俺の背を守る。

テネブリスも剣を引き、一歩下がる。その瞳が闇の奥から俺を射抜いた。


視線の先、ヴォイドとタナトスのもとへと向かう二つの影――ロイスとロウランが立ちはだかる。

二人は振り返り、俺に短く告げた。


「ここは任せてくれ、ダレン君!」

「こちらは私たちが対応します!」


その声に頷き、俺は再び前を見据える。


「いやな目をしてるな。貴様……開き直ったか」

「そうかもしれないな。ただ、重荷の背負い方を変えただけだ」

「調子のいいことを……!」


テネブリスの表情が険しさを極め、虚ろな瞳が俺を睨む。

一方、キールの口が不気味に歪んだ。


「ダレン君、君はまた逃げるのかい?」

「……キール」

「ダレンは逃げてない! これまでも、この先も。潰れそうなほど戦ってきた。私たちは、その隣に立つだけだよ」


クラリスの声が闘気に乗って響く。

だが、キールはその言葉を聞き、全身に炎を纏わせた。

怒りの奔流が一気に燃え上がる。


「うるさいッ! 黙れ! まずは君たちから焼き尽くしてあげる!」


炎をまとったキールが二人に襲いかかる。その熱気が夜気を焦がした。

同時に、俺の前ではテネブリスが影を濃く纏い、剣を振りかぶる。

その影はまるで生き物のように這い寄り、俺を呑み込まんとする。


闘気を全身に巡らせ、紅い光を放つ。

その光が影を焼き払い、体を守る。

無数の斬撃が交わり、影が、光が、爆ぜる。


「結局、逃げてばかりじゃないのか?」

「そう見えるか? なら――」


俺は剣を大きく振りかぶり、力を込めて叩きつけた。

その一撃で、テネブリスの剣を弾き飛ばし、わずかな隙を作る。

地面に剣を突き立て、息を吐く。


「――剣の名は、黎星。」


名を告げた瞬間、紅い闘気が地を這い、根のような光の蔓が地面を裂いて伸びる。

それは剣を模すように形を変え、無数の“黎の根”がテネブリスへと襲いかかった。


「くっ!? なんだこれは!」


テネブリスは完全に防戦一方。

影の渦を形成する暇すらなく、俺の攻撃に追い詰められていく。


「なめるなああああッ!」


叫びと共に、影の刃を纏わせた剣で根を薙ぎ払う。

だがその瞬間、俺は既に走り出していた。


「――その隙を、待ってたぞ」

「なっ!?」


紅い閃光が走る。

刹那、テネブリスの脇腹を貫く手応え。

黒衣が裂け、鮮血が闇に散る。


「……認めよう。貴様は強い。だが――完全ではない。お前の闇を……影を、引き出してやる……」


テネブリスは血を吐きながら、地に剣を突き立てた。

嫌な予感が脊髄を走る。駆け寄ろうとした瞬間には、もう遅かった。


地面から、闇が溢れ出す。

それは液体のように広がり、足元を這い、全てを呑み込もうとする。


「――影の帳・夢魘。」


その声と共に、闇は一気に広がった。

足に纏いつく影は離れず、俺の体を絡め取る。

息が詰まり、感覚が遠のいていく。


「なんだ、これは……!」

「ダレン!? あっ――!」

「よそ見しちゃダメだよー!」


クラリスの声が聞こえる。

だがキールの炎が彼女を遮り、助けに来ることは叶わない。


「ダレン・クローヴァン。目を逸らしてきた現実と悪夢に、飲まれて死ね。」


テネブリスの声が、冷たく響く。

闇の帳が完全に閉じようとする。

光は消え、音も消える。


ーーもう、抗えないのか。


それでも足掻いた。剣を振るい、闇を裂こうとする。だが、何も届かない。

その時――。


闇の裂け目から、一筋の白い光が差し込む。

月光のように、清らかで、まっすぐな光。

そこから、白髪をなびかせた少女が飛び込んでくる。


「ルシア!?」

「ダレンさん!」


伸ばされた手が、俺の指先を掠める。

あと少しで届く――。


互いに手を取り合おうとした、その瞬間。


ーー全てを、闇が呑み込んだ。


ーーーー


「ここ……は……」


闇がゆっくりと晴れ、靄が散るように視界が形を取り戻していく。

湿った空気が肌に触れ、鼻腔には懐かしいようでいて、吐き気を催す匂いが漂った。


「ル、ルシアは!?」


反射的に名を呼び、周囲を見回す。

だが返事はない。風すらも止まったような静寂が、耳を締めつけた。

あの闇に呑まれた後、どうなったのか……その手がかりすら掴めない。


視線を前に向けた瞬間、息が詰まった。


「ここは……俺の、家……?」


そこには、見間違えるはずのない建物があった。

木の表面に刻まれた細かな傷、年季を感じさせる門——どれも、記憶の中に焼きついたままの実家の姿だった。

空の色まで、あの頃と同じ灰色をしている。風景の一つひとつが、記憶の中の痛みをそのままなぞってくる。


「うっ……」


胃の底から何かがせり上がる。吐き気を堪え、壁に手をついた。

この家は、俺にとって帰ることのできる場所ではない。

息をすることさえ許されなかった、鳥かごのような地獄だ。


胸の奥で、何かが軋む。

ここに立つだけで、背中に冷や汗が伝い、喉の奥がひりつく。

それでも——逃げられない。


あの影の帳に呑み込まれる寸前で、テネブリスが言っていた言葉が脳裏をよぎる。


『逃げた現実と、向き合う覚悟はあるか』


ここはきっと、俺の心そのものだ。

過去に縛られた悪夢であり、そして……俺がこれまで逃げ続けてきた現実。

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