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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
四章 懺悔と赦し

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五話 厄災の遺物

「お待たせしました。それでは行きましょうか」


そう言ってルシアが俺たちに合流し、三人で街を巡ることになった。

おすすめの食事処や、彼女がよく訪れるという場所を中心に回っていく。


「はぁ……おいしかった」

「やっぱり水の都と呼ばれるだけあるな」

「ヴェネトは魚が新鮮ですからね」


俺たちはルシアに案内され、湖畔の店で焼き魚を食べ終えたところだった。

この世界に来てからというもの、魚を口にする機会はほとんどなかった。

だからこそ、その味の新鮮さに驚きを隠せない。

クラリスも先ほどまでの曇った表情はすっかり消え、満足げに頬を緩めていた。


「ルシアさん、次はどこに行くの?」

「そうですね……それよりも、ルシアで構いませんよ?」

「そう?じゃあ、ルシア」


ルシアがそう言うと、クラリスは遠慮なく名前で呼んだ。

こうして街を共に歩いているだけでも、どこか打ち解けたように見える。

むしろ俺よりもクラリスの方がよく話していた。


「では、次は――」


そう言ってルシアに連れられてきたのは、湖のすぐそばにある小高い展望台だった。

いくらか階段を登ると、風が頬を撫で、眼下には湖全体を見渡す景色が広がる。

水面は陽光を反射し、まるで無数の宝石を散りばめたように輝いていた。


「パラディーゾ湖は、未だに多くの謎に包まれているんです。

 中には遺跡が沈んでいるとも言われています」

「湖の中に遺跡? それじゃあ、攻略することはできないんじゃないか?」

「まぁ、存在すら確定ではありませんからね」

「それにしても……綺麗だねぇ」


ルシアの話に耳を傾けながら、クラリスと並んで湖を眺める。

対岸が見えないほどの広さ。その静謐な壮大さに、俺たちの存在がひどく小さく感じられた。


「私はこの街が好きです。

 だから――絶対に、守らなければならないのです」


ルシアは紺碧の瞳に決意を宿し、湖の彼方を見つめていた。

その眼差しは、水面よりも深く、どこまでも澄んでいるように見えた。


「お二人は、あの件で来られたんですよね?」

「あの件?」

「『爆槍』です。――襲撃予告があった」

「……なんでそう思う?」

「この時期に来た探索者風の方々。しかも異質な気配を持っている。

 ある程度、察しはつきます」


ルシアは静かに言い、俺たちを見つめた。

その表情から、彼女の推測が確信に変わったことが分かった。


実際、俺も気になっていた。

襲撃が確定しているはずのこの街が、なぜここまでの賑わいを見せているのか。

住民たちの間には恐怖の影も見えない。

なぜなら――


「住民たちは知らされていないんです。その件を」

「……それは何でなの? ルシア」

「『爆槍』が眠っていることすら、彼らは知らないんです。

 あれはかつて大陸の西側を恐怖に陥れた遺物。

 それを保管する場所だと知られれば、どこであれ反感を買います。

 だからこそ、隠されているんです」


「そう……なのか。じゃあ、なぜルシア――君は知っているんだ?」


彼女は答えず、静かに目を閉じた。

欄干に手を置き、風に白髪をなびかせる。

俺の位置からは、その表情を見ることはできなかった。

ただ、澄み渡る青を背に揺れる髪が、どこか儚く映った。


「それは……内緒です。でも、すぐに分かると思います」

「はぐらかしてばかりだな……」

「そういう方が、少しは愛嬌があるでしょう?」


彼女はそう言って、振り返りながら微笑んだ。

何かを抱えながらも作られたその笑みは、なぜか目が離せないほど眩しかった。


「今日は、これでおしまいにしましょう。

 私は教会によくいますので、いつでも顔を出してください」

「うん。そうするね。次は一緒に服を買いに行こうよ」

「あ、いいですね。クラリスさん」


そうして俺たちは展望台を下り、ルシアと別れた。

残された俺たちは、湖を背に走り去る彼女の姿をしばらく見つめていた。


「……いい子だったね、ルシア」

「よく分からんところもあったがな」

「今日はこんな感じで宿に戻ろ? 思っていたのとは違ったけど、楽しかった」


最後の言葉に俺は首を傾げたが、クラリスは同性の友達ができたのがよほど嬉しいのか、上機嫌だった。

これまでの旅で、彼女と同年代の女の子に出会うことはほとんどなかった。

だからこそ、俺もどこか安心した。


「そうだな。一旦戻ろうか」


宿に戻った後、俺とクラリスは近くの探索者協会で軽く修練を行い、再び宿へと戻った。

入口のテーブルには、フィデルとロウランが向かい合って座っていた。


「やっと帰ってきたか」

「それはこっちの台詞だ。一人で随分長く出てたな」

「まぁな。それより――」

「お二人とも、お座りください。明日の日程について話します」


フィデルが口をつぐみ、ロウランが静かに言葉を引き取る。

三人が背筋を伸ばし、真剣な面持ちでロウランの話に耳を傾けた。


「明日は――」


ーーーー


「なんでルシアがここにいるんだ……」

「なんでって、ここは教会ですよ?」


昨日、ロウランから『爆槍』が眠る場所――すなわち、敵が襲撃してくるであろう場所へ赴くと聞かされ、

朝を迎えた俺たちは三人でロウランに同行した。


その先で目にしたのは、教会の入り口を箒で掃除しているルシアの姿だった。


「おや? すでにお二人は知り合いでしたか」

「なんだ、ダレンの知り合いか?」

「やっほ、ルシア。おはよう」

「はい。おはようございます、クラリスさん」


フィデルとロウランは、俺たちがルシアと面識があることに驚きを示した。

この街に来てから、まだ日も浅いというのに――こうも立て続けに出会うのは、確かに奇妙だった。


「ルシア殿。例のものの視察をお願いしてもよろしいですか?」

「ええ。ではご案内しますね」


どうやらロウランも彼女と旧知の仲らしい。

そのまま俺たちはルシアの後を追い、教会の中へと足を踏み入れた。


最奥の部屋へと向かう途中、武装した騎士たちの姿が目に入る。

清らかなはずの教会には似つかわしくない光景だった。


ルシアは黙ったまま部屋の中央に立つと、床を軽く叩いた。

鈍い音が響き、しばらくして床板がゆっくりと開いていく。

暗闇の底へと続く階段が現れ、ルシアは何のためらいもなく下りていった。


俺たちは彼女に続く。

足音だけが反響する闇の中、息が詰まるような空気が肌にまとわりついた。


「このルシアって子は何者なんだ?」

沈黙を破ったフィデルの問いに、ロウランが答える。


「ルシア殿はシスター見習いですが、『祝福』の適性が非常に高いのです。そのため平民出身でありながら、特別な地位を与えられています」


「そんな大層なものではありませんよ、ロウランさん」

「聖女候補として名が挙がるほどです。誇るべきことですよ」

「いえ、私の力ではなく、『祝福』を授けてくださった女神様のお力です」


ロウランの称賛に、ルシアは謙遜の微笑みを浮かべた。

この国では『祝福』は神の寵愛の証。

ゆえに高位の者ほど強い『祝福』を持つとされている。

だが、彼女のようにそれを誇らず、あくまで神への感謝とする者は珍しかった。


再び沈黙が落ち、俺たちは闇の階段を下り続けた。

やがて視界が開け、地下に広がる大空間へと出る。

そこには十人近い騎士が警戒態勢を敷いており、厳重な守りが施されていた。


正面には巨大な鉄扉。

ロウランがうなずくと、近くの騎士が鍵を差し込み、重い音を立てて開錠する。


その瞬間――圧倒的な力が俺の全身を襲った。


肌が焼けるような衝撃。

それはまるで、裁きの雷剣に匹敵するほどの奔流だった。


反射的に一歩退いたが、周囲の者も顔をこわばらせながら扉の奥へと進んでいく。

クラリスが振り向いて俺を心配そうに見る。

俺はうなずき返し、その後を追った。


やがて辿り着いたのは、それほど広くはない石造りの部屋だった。

だが、その中心に――異様な力を放つ一本の槍が突き立っていた。


「これが……災厄の特級遺物『爆槍』」

ロウランの声はかすかに震えていた。


「そして、今回の敵が狙うものです」


静寂の中、その言葉だけが重く響いた。


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