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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
四章 懺悔と赦し

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三話 逢魔

「お待ちしていました。ダレン様御一行ですね」


俺たちはアドル共和国を離れ、一路ルミナス神聖王国を目指した。

途中の街では宿を借り、それ以外の夜は焚き火を囲んで野宿をした。

長い旅路を経て、ようやく辿り着いたのがこの地――聖都シトロエン。


「にしても、すごいな……」

「これが聖堂なんだね……」

「大聖堂は初めてですか?」


案内人の司祭に問われ、俺たちは揃ってうなずいた。

高い天井の先、いくつも並ぶ天窓から柔らかな陽光が降り注ぎ、

空気は静謐で、まるで時間が止まったかのようだった。

壁には壮麗なステンドグラスが並び、そこに描かれた女神の姿が

神秘的な光に照らされている。


「それでは、少しご案内しましょうか」


司祭の言葉に頷き、俺たちは後を追った。

聖堂の一番奥、女神の像が祀られている場所で、司祭は静かに膝をつき、

両手を組んで祈りを捧げる。

俺たちも倣い、そっと頭を垂れた。

慣れない儀式に戸惑いながらも、俺はわずかに目を開けて前を見た。


すると――正面から何かの視線を感じた。


だが横を見ると、クラリスもフィデルも真剣に祈っている。

司祭も女神像も、ただ静かにそこにあるだけだった。


「……まさか、な」


小さく呟き、俺は再び目を閉じて祈りに戻った。

司祭が立ち上がる音が聞こえると、俺たちも祈りを終えた。


「エイム様は、いつでも貴方方を見守っておられます」


司祭は再び目を閉じ、俺たちに向かって祈りを捧げる。

俺たちは慣れぬ所作にぎこちなく頭を下げた。


「それでは、向かいましょうか。かの件ですね」

「どこへ向かうんだ?」

「神殿騎士様方のもとでございます」


案内され、聖堂の外に出る。

その奥にある質素な石造りの建物――神殿騎士団本部へと通された。


「ダレン様御一行、到着いたしました」

「ご苦労だった。下がっていいぞ」


司祭が頭を下げて退室すると、部屋の奥から落ち着いた声が響いた。


「待っていたぞ、『紅影』のダレン」


現れたのは、長い金髪を後ろで束ねた男。

白と金を基調とした神聖騎士の装束を纏い、その立ち姿は威厳に満ちていた。


「私はルミナス神聖王国、神殿騎士団団長ロイスだ。よろしくな」

「ダレン・クローヴァンだ。それと、クラリス、フィデルだ」

「よろしくお願いします」

「ど、ども……」


促されて席に着く。ロイスは俺たちの正面に座り、真剣な眼差しを向けた。


「まず、君たちをわざわざ呼んだ理由から話そうか」


ロイスの表情は厳しかった。

この神聖王国には、いくつかの特級遺物が保管されており、

国家間の争いを避けるため、厳重な管理体制が敷かれているという。

だが――最近になって、その均衡が崩れ始めていた。


「帝都では、死者を操る遺物が使われたようだね」

「ああ。確か『墓石』と言っていた」

「あれは……かなり危険な遺物だよね」


クラリスが眉を寄せ、俺も無言で頷く。

ロイスの顔にも苦渋の色が浮かんだ。


「あれは、もともと我が国で保管していたものだ。

 それがある襲撃によって奪われた……。

 帝都での事件は、その結果でもある。すまなかった」


そう言ってロイスは深く頭を下げた。

俺とクラリスは顔を上げるよう促す。

ロイスは静かに息を整え、再び口を開いた。


「だからこそ、我々は帝国と手を取り合い、

 『ペンタグラム』を止める算段を取っている。

 君の父――アレス殿を通じてね」

「それで、ここへ向かえと言われたわけか」

「ああ。アレス殿は『頼るなら君だ』とおっしゃっていた。

 それに、君はすでに二度も奴らを退けている。期待しているよ」


ロイスの言葉に、俺は静かにうなずいた。

この任務の重さは理解している。逃げるつもりはなかった。


そして、ロイスは今回の本題を語る。

狙われているのは、特級遺物『爆槍ばくそう』。

その名の通り、指定の地点に巨大な爆発を起こし、

街ひとつを火の海に変える力を持つという。


「これはかつて、今のダムナ紛争地になる前に使われたものだ。

 一夜にして国を滅ぼした。恐るべき力だよ」

「なんでそれを、神聖王国が持っているんだ?」

「ダムナは我が国の隣にある。

 介入の際に、封印という形で回収したのだ」


テドスから聞いたあの地獄のような戦場――。

それを生み出したのが、この遺物だったのか。

胸の奥が鈍く疼くのを感じながら、話を聞き続けた。


「そして今回、奴らから襲撃予告が届いた」

「襲撃予告……?」

「次の満月の夜、『爆槍』を奪いに来ると書かれていた」

「今まではそんなことなかったのに……どういうことだろう」


クラリスが首を傾げる。俺も同意だった。

これまで『ペンタグラム』の動きは不意打ちばかり。

わざわざ予告するなど、あり得ないことだ。


沈黙の中、フィデルが口を開いた。


「遊び感覚……なんじゃねぇか?」

「どういう意味だい?」とロイスが問う。

「俺は王国で奴らを見ただけだが……

 あいつらは、人の生死すら娯楽にしてるように見えた」

「……なるほどな」


ロイスは短く呟き、沈痛な表情を浮かべた。

理由がどうであれ、奴らの行為が許されることはない。

俺たちは気持ちを切り替え、ロイスに向き直った。


「それで――君たちには向かってほしい場所がある」


「場所?」

俺たちは首を傾げる。聖都が目的地ではなかったのか。


ロイスは立ち上がり、窓の外の青空を見上げた。


「『爆槍』が眠る――水のヴェネトだ」


静かな声で、しかし確信をもって告げられたその名が、

部屋の空気を一気に張りつめさせた。


ーーーー


「襲撃はおよそ三週間後。それまでヴェネトで待機していてくれ。我々神殿騎士団も、すぐに人員を派遣する」


ロイスはそう言い残し、一時の別れを告げた。

俺たちは用意された馬車へと乗り込み、目的地であるヴェネトを目指す。

かかる時間はおよそ三時間。夕刻には到着する見込みだった。


馬車が石畳を軋ませながら進む中、俺は顎に手を当て、思考に沈んでいた。


「何か気になることでもあるの?」

「予告が気になってな。……何か裏があるような気がする」

「確かに。今まで何の動きもなかったのに。まるで、ここから何かが動き出すみたいだよね」


クラリスの言葉に、俺は小さく頷く。

その指摘はまさに的を射ていた。

ここにきて、より強力な特級遺物を狙う——組織が本格的に動き始めた気配があった。

しかも、それが“神の信仰”が厚い神聖王国で起こるというのだから、嫌な胸騒ぎが収まらない。


背筋に微かな寒気が走る。


「……考えても仕方ねぇさ。今回も、やるべきことをやるだけだろ?」

「……それも、そうだな」


フィデルの飄々とした言葉に、思わず口元が緩む。

張り詰めた思考が少しほどけ、自然と笑みがこぼれた。

その後は三人で軽い冗談を交えながら談笑し、馬車に揺られること数時間。

日が西に傾き始めた頃、車輪がゆっくりと止まった。


「到着しましたよ、皆さま」


御者席に座る男が、穏やかな声で告げる。

それを合図に、長時間座っていた腰を伸ばし、外へと出た。

冷えた風が頬を撫で、固まった体に心地よい刺激を与える。

三人で外へ足を踏み出すと、そこに広がっていたのは——


夕日が差し掛かり、黄金色に染まった水面が一面に広がる湖。

その湖面には街全体が映し出され、揺れる光とともに幻想的な輝きを放っていた。

水面に反射した建造物は、まるで空と地が逆転したようで、

燃えるような橙と、穏やかな青が混じり合い、神秘的な風景を作り出していた。


「わぁ……」

「これは……」

「綺麗だな……」


それぞれの言葉が自然と漏れ、三人はしばし無言でその光景に見入った。

御者はそんな様子に満足げな笑みを浮かべ、横に並んで言った。


「ここが水の都——パラディーゾ湖に掛かる《ヴェネト》でございます」


その言葉に、俺は小さく息を呑む。

かつて見たリオルの丘の景色とはまた違う、穏やかで、それでいて荘厳な光。

街全体が沈みゆく太陽に包まれ、まるで世界ごと祈りの中にあるようだった。


燃えるような夕日は、俺たち自身の影も赤く染めながら、ゆっくりと沈んでいく。

その陰りが、まるで新たな物語の幕開けを告げるかのように——

静かに、俺たちを迎えていた。


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