十話 紡ぐ思い
投稿遅れてすみません(;_;)
これからはこういった遅い時間になるかもしれません
「それで反乱軍はどうするんだ?フィデル」
「やっぱ一人で説得なんて馬鹿げてたわ。頼りになるやつを呼んでるさ」
フィデルに歩きながら程度の作戦を聞き、俺はうなずいて了承した。
そうして俺たちは、貧民街の中央にある広間へと進んでいった。
夜はすでに更け、月明かりだけが暗闇を切り取っている。にもかかわらず、住民たちは慌ただしく動き回っていた。誰もが張り詰めた顔をして、怒りや不安を抱えた空気が漂っている。
「皆、集まってくれ!」
フィデルが声を張り上げる。しかし住民たちは足を止め、ちらりとこちらに視線を投げるだけで、集まろうとはしなかった。疑念と警戒がそのまま形になっていた。
俺とクラリスは目を合わせ、打ち合わせ通りに動き始める。
クラリスが夜空に向けて光閃を放つ。白い光が空を裂き、星々の隙間で大輪の花火のように弾ける。
次に俺は紅い閃光を纏い、空へと舞った。白と紅の二つの輝きが絡み合い、闇に覆われた空を鮮やかに彩る。
その光景に、人々は思わず手を止め、空を見上げる。やがて驚きと困惑を浮かべながらも、広場に集まり始めた。
「……あれは……」
「紅影……と、光剣……」
ざわめきの中で、ついに人混みを割ってグランが姿を現した。隻眼に強い光を宿し、俺たちを試すように見据えていた。
その時、広間に面した建物の屋根から新たな影が現れた。月明かりに浮かぶその姿を見た瞬間、場が静まり返る。
「皆の者!この御方を見よ!」
傍らにいた者が叫び、広間全体に響き渡る。俺とクラリスは動きを止め、その人物の側へと降り立つ。人々は一斉に屋根の上へ注目し、その姿を見極めようとした。
「私の名は、ルイ・ヴィ・エイドリア!この国の王子だ!皆……久しぶりだね」
王子は堂々と名を告げ、幼い頃に出会った者たちへ親しげに声をかける。だが、住民たちの顔は険しくなっていく。王国への不信がそのまま表情に滲み出ていた。
「この騒動は私が抑える。だから……反乱をやめてくれないか」
「何寝ぼけたことを言ってやがる!これまでも何もしてこなかったくせに、今になって現れやがって!」
真っ先に声を荒げたのはグランだった。その声に触発され、周囲からも非難が飛び交う。広間は嵐のような怒号で満ちていく。
だが、王子の瞳は揺れなかった。以前の弱々しさはそこにはなく、真っ直ぐに前を見据えていた。彼は大きく息を吸い込むと、堂々と声を張り上げた。
「私は!確かに覚悟が足りなかった!だが、この状況を見て覚悟が決まった。この国を、私が変えてみせる!」
「なら……ルイよぁ。あんたは何をしてくれる?何を俺たちに見せてくれるんだ?」
静まり返った広間に、グランの低い声が響く。隻眼が王子を刺すように捉え、その覚悟を試す。
「父を押しのけ、王座に就く。そして国を新たな姿へと変える」
「何を信じろって言うんだ。世迷言を言ってんじゃねぇぞ」
「私を信じてくれ。いや……私だけじゃない。『紅影』のダレンを、君たちの知る『蒼穹』のフィデルを、『光剣』のクラリスを。そして王となる私を」
その言葉と共に、人々の視線が俺たちに注がれた。先ほど夜空に描いた光景を思い出したのだろう。屋根の上に並ぶフィデルの姿にも視線が集まり、ざわつきが広がる。
「俺は今まで、一緒に生きてきた皆を信じてる。だから皆も俺を、俺の信じる仲間たちを信じてほしい!」
フィデルが胸を張って叫ぶ。その声は熱を帯び、広間に響き渡った。
「……本当にできるのか?」
「ああ。できる。俺たちならば」
グランは迷いを含んだ声で問いかけたが、フィデルは一切の迷いなく答える。その強さに、グランの隻眼が静かに伏せられた。長く背負い続けた住民の重荷を、少しずつ降ろすように。
「……ふっ、ははっ。敵わねぇな。お前らには。昔からな。本当に託していいんだな?」
「任せてほしい。共に手を取り、国を守ろう」
王子の言葉に、グランはついに頷いた。その瞬間、住民たちは驚きと喜びをあらわにした。わずかながらでも、国の希望が目に見える形となったのだ。
「お前らぁああ!新たな王の誕生だ!盛大に祝え!」
「「「うおおおおおおお!」」」
広場は歓声に包まれた。鬱屈した暗闇を突き破るように、喜びと熱狂が渦を巻く。星々の下で、光と声が交じり合い、まるで祭りの夜のように広場全体が揺れていた。
「すごいね、ダレン」
「ああ、本当に」
俺はクラリスと目を合わせ、この光景を深く心に刻んだ。
「やったな!ルイ!」
「ああ。だが、これは皆のおかげだ」
「そうだろ。皆で勝ち取ったんだ」
王子とフィデルは肩を叩き合い、笑みを交わす。その眼差しには確かな信頼が宿っていた。
フィデルはこちらを向き、俺に笑顔を投げかける。もう、その眼からは逃げることはなかった。
「ダレン!これが信頼し合うってことだ。そうすれば、こんな奇跡だって起こせるんだ」
「ああ。……改めて実感したさ」
俺たちの心はひとつに重なった。
だが、まだ終わりではない。
「それで、ルイ新国王様よ。討伐隊はどうするんだ?」
祭りの熱が少し収まった頃、グランが問うた。住民たちも期待と不安を込めた眼差しを向ける。
「討伐隊の半数以上は無力化した。残るは父王のもとへ向かうだけだ」
思わぬ吉報に、広場がどよめいた。住民たちの顔に驚きと歓喜が広がり、俺たち仲間さえも目を見開いていた。
「ほ、本当か!?ルイ、どうやったんだ」
「討伐隊反対派の有力貴族を集めただけだよ。あとはそこから数珠つなぎに」
さらりと言い放つ王子。だがその姿にはもはや幼さはなく、確かな風格が宿っていた。まぎれもなく「王の器」だった。
王子は俺たちの顔を順に見渡し、覚悟を込めて言った。
「少数精鋭で城へ突入する。皆、私を連れて行ってくれるか?」
「任せろ」
「もちろんだ」
「最後の仕上げだね」
護衛二人もうなずき、空気がさらに引き締まる。全員の覚悟がひとつにまとまった。
「よし、それじゃあ皆の者!行くぞ!」
王子は剣を高々と掲げ、最後の戦いへの狼煙を上げた。
住民たちの歓声が轟く中、俺たちは夜の貧民街を駆け抜けていく。
――この先に待つのは決戦。だが今、確かに背には光があった。
ーーー
「ルイ!ここから城までの最短道を覚えてるかぁ!」
「もちろんだ!昔よく使っていたからねぇ!」
フィデルに先導され、俺たちは街の裏路地や廃墟を抜ける。到底「道」とは呼べないような獣道に近い通りを駆け抜けていく。だが彼曰く、これが最短ルートらしい。
俺とクラリスは殿を務め、後方を固めながら必死に走る。隣を駆ける彼女の横顔をふと見た。
「どうしたの?」
「いや……体は大丈夫なのか?」
「そんなこと気にしてたんだ。優しいね」
「茶化すな……それでどうなんだ?」
「私は一級騎士でもあったんだよ。これくらい余裕だよ」
口調は軽やかでも、僅かに硬い呼吸の乱れが耳に届く。重い体を無理やり動かしているのがわかる。だが彼女が「大丈夫」と言ったのなら、それを信じるしかない。――仮に何かあれば、その時は俺が助ければいい。クラリスが、かつて俺にしてくれたように。
やがて、長く続く闇の中から、城の影が姿を現す。
街路を抜け、全員で駆け抜けるその先に、黒々とした城門がそびえ立っていた。闇夜の中に浮かぶその姿は、まるで黒曜石の塊のように不気味な光を反射し、ただそこにあるだけで異様な威圧感を放っている。
近づくにつれ、重苦しい気配が肌を刺すようにまとわりつく。胸を圧迫するほどの空気に、皆が互いの気力を確かめるように足を速めた。
「城内の敵は!?」
「おそらく近衛騎士も父に取り込まれているはずだ。それに……『ペンタグラム』の勢力も潜んでいるだろう」
「苦戦、しそうだな!?」
「大丈夫だ。私たちなら――ね」
王子ルイの表情には、もはや一片の迷いもなかった。その瞳には確かな覚悟と王としての誇りが宿っている。彼の姿を見たフィデルは、口角を上げて城を見据えた。
圧倒的な城の威容。待ち構えるであろう強大な敵。
それでも、もう恐怖はなかった。
――なぜなら、俺は一人じゃないからだ。
クラリスと目を合わせ、互いに小さく頷く。
不思議と体が軽く、力が湧き上がっていく。
これから始まる最後の戦いに、俺たちは確かな覚悟を持って足を踏み入れた。




