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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
三章 心頼

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九話 影を祓う

俺は闇夜の貧民街を練り歩く。

胸の鼓動を頼りに、あの影を探す。

簡素な住居の屋根に佇む黒い影。

月明かりに照らされ、その影はより濃く、強く見えた。


「よくここにいることがわかったな」


ほとんど勘でここまで来たが、奴の姿を見つけられたことに、自分自身でも驚く。

昼間は一切見つけられなかったというのに、この闇夜が俺を導いたように感じた。


「結局、一人で来たか……やはりお前はそういう奴だと思っていたよ」

「……どういう意味だ」

「誰にも頼ることができず、苦しみながら孤独に生きる。らしいな、お前の“歪み”は」


濁った眼が俺を捉える。

それは鏡のように、俺の姿を映し出していた。

男は静かに、影を纏った剣を抜き放つ。


「俺はお前が嫌いだ。頭で理解していても足掻こうとするその姿が、見るに耐えん。ここで死んでいけ」


そう言い放つと、奴は俺のもとへ突っ込んでくる。

影を纏うその姿は朧となり、捉えきれず、避けるしかできない。

振るわれる剣は、徐々に俺の体に傷を増やしていく。

致命傷こそないが、体に刻まれ、服は血で赤く染まっていった。


「やはりそんなものだよな! お前は!」

「ちっ! 知ったように言うなぁ!」


俺は激昂し、反撃に出る。

赤い閃光を放ちながら、奴を上回る速さで剣を振るう。

視界が狭まっていくように、奴の影はより大きく膨らんでいった。


「お前の闇は、俺の力になっていく。このまま死ね」


目の前に差し掛かる剣。

時が止まったかのように、それは迫ってくる。

しかし俺の頭に、前世のこと、今世のことがよぎった。

こんな所で死ぬわけにはいかなかった。


「うっ! ああああぁ!」


無理矢理に腕へ闘気を凝縮させ、思い切り剣を弾く。

体は耐え切れず悲鳴を上げるが、気にしている場合ではなかった。


「その姿だ。その足掻きが、どれだけ無意味か教えてやろう」


奴は一度下がり、影の剣を上へと掲げる。

闇夜にかかる影を吸収するように、より強大なものとなっていく。

俺は空間認識を通して警鐘を鳴らし続けるが、対処法などなかった。

そのまま影は渦を作り出し、俺を呑み込もうと迫る。


「影剣・渦巻」


男の言葉と共に、影の塊が俺へ襲い掛かる。

全てを呑み込もうとするその存在に、足は止まり、俺は立ち尽くす。

――これまで、か。

二度目の死は、怖いものではなかった。

諦め、受け入れるように目を瞑った。


その刹那、瞼を通して光が差し込む。

闇夜を照らすように、明るく煌めいた。


「光剣!」


後ろから声が響き、影の渦を晴らしていく。

俺の前に立ち塞がったブロンドの髪は揺らめき、それは救いを与える女神のように見えた。

その姿は後ろを振り向き、碧眼が俺を捉える。


「光の女か……忌まわしい」


そう言い放った男があの遺物を取り出した途端、一筋の矢が放たれ、それを破壊する。

男は驚き、矢の放たれた先を見る。

同時に、俺もその姿を捉えた。


「助けに来たぞ! ダレン!」


フィデルは住居の屋根に立ち、弓を構えていた。


「こんな奴を助けて何になる! 邪魔をするなぁ!」


男は激昂し、俺たちへ突っ込んでくる。

俺の体は未だに固まり、動くことはできなかった。


「ダレン! 立って!」


その叫びに俺の体は震える。

指が少しずつ動き、体は軽くなる。

どれだけ惨めな姿であっても、今は戦うしかなかった。

クラリスの放った光を男がかわした瞬間、俺は紅い閃光を纏い、その影を晴らす。


「ぐっ! まだだぁ!」


腹へかすり傷を与えるも、男は怯まず剣を振るう。

振るおうとした腕に、再び一筋の矢が放たれた。

肩口を穿ち、男は動きを止める。

しかし剣は離さずにいた。


俺はそこへ袈裟斬りを放つ。

奴の濁った眼を捉えながら、その体を切り裂く。

闇を祓うように、俺の剣は輝きを放っていた。


ーーー


しかし突如、俺たちの間で爆発が起こり、吹き飛ばされながらも受け身を取る。

煙が晴れた先には、男を抱えるもう一人の姿があった。


「キール……」

「テネブリスさん。ここまでのようですね」

「ま、まだ、だ……」


キールはただ黙り込んで俺を見下ろす。再び現れた刺客に、皆が身構えた。


「今日のところは退散かな。また会おうか、ダレン君」


そう言い残し、キールは闇夜を駆け、その場を飛び去っていった。

残された俺たちは静寂に包まれ、余韻を残したまま立ち尽くしていた。


「うっ……」

「大丈夫!? ダレン!」

「大丈夫か!?」


膝をつく俺の元に二人が駆け寄る。だが、体にできた傷よりも深いものが心に刻まれていた。


「どうして……来たんだ」

「毎度一人で突っ走りやがって。もっと頼れって言っただろうが」

「全部俺の責任なんだ……。俺がなんとかしないと、期待に応えないと」

「はぁ。奴らの言ったことを気にしてんのか? だからって、生きるのを諦めるような姿を見せるんじゃねぇよ」

「俺にとって、お前たちは大事なんだ……。だから――」


話しながらも、自分がさらに惨めになっていく姿に、俺は呆れた。

過去は変えられない。だからこそ今、自分にできることを――せめて手の届く者たちを助けたいと思っていたというのに。


「――そんなに辛いなら、生きるのをやめるってか? ふざけんじゃねぇぞ」


膝をつき下を向く俺を、フィデルは胸倉をつかみ上げ、無理やり顔を上げさせる。

真っ直ぐに捉えるその目から顔を背けるも、その先には俺を見つめるクラリスの姿があった。

フィデルはそんな俺を見つめ続ける。


「なら、この場で終わりにしてやろうか! 俺たちに頼らないで、孤独にばっか怯えてよぉ」

「俺はただ……――」

「言い訳は聞きたくねぇ。そうやって逃げてばっかでいるのか?」

「なら! 俺はどうすればいい!? 頼って人を傷つけて!」

「やめちまえ! そんな生き方をよぉ!」


胸を掴む力がより強くなる。ぶつけられるその思いに、俺はその眼をまっすぐに捉え続けた。

瞳に映る自分の姿から、目を逸らさないように。


「希望を捨てるのを、やめちまえ。そんで、生きてみろ。這いつくばってもな。守りたいもののために」

「迷惑……じゃないのか……?」

「迷惑上等。だから生きてみろ。辛くてもお前の傍には人がいる」


フィデルの目には、確かな優しさと信頼が込められていた。

横目に捉えたクラリスも、同じ目をしていた。

今になって気づくなんて。俺は自分や罪と向き合うことに必死で、その眼から逃げ続けていたのだ。


俺は今までも、過酷な道を一人で歩んできたわけじゃない。

気付かぬうちに、多くの人たちに助けられてきたのだと、今になって悟る。

そんな間違いばかりだったこれまでの人生。思い上がっていた。


俺は埃を振り払うように、静かに――だがこれまでよりも力強く立ち上がる。

同時にフィデルも胸から手を離し、俺に手を差し出した。

その手を取り、俺は真っ直ぐに立ち上がり前を向いた。

二人は待っていたかのように息を吐き、俺の姿をしっかりと捉えていた。


「ありがとうな。フィデル、クラリス……」

「今更だな」

「ほんとそうだよ」

「これからも多く頼るかもしれない……迷惑をかけるかもしれない……それでもいいか?」


俺の言葉に、二人は口角を上げ、笑顔で迎えていた。


俺は静かに、闇夜の乾いた空を見上げる。

いくつも輝く星々を眺め、俺は一人ではないことをやっと実感することができた。

暗闇を皆が灯してくれた。その道を真っ直ぐに歩む。


「二人とも、力を借りる」

「うん。らしくなったね」

「ああ。為すべきことを為すために、行こうか」


俺たちは歩みを揃え、待ち受ける戦いへと赴いていった。

その背は軽く、何でもできるような気がした。

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