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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
三章 心頼

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八話 叫び

「皆!もう反乱はやめてくれ!討伐隊がもう動き出しているんだ!」


俺とフィデルはすぐさま貧民街へ赴き、住民たちの説得を試みる。彼らは広場のような場所に集まり、フィデルの叫びを聞いていた。しかし、その表情には一切の反応がなく、決意が揺らぐ様子もなかった。


「なあ!お前らだって、馬鹿げたことだと思ってるだろ……?」

「ごめんな……フィデル。俺たちの気持ちは変わらない」


三人組に問いかけても、返ってきた答えは否定ではなく、決意を肯定するものだった。


やがて建物の中から、暗闇をかき分けるようにしてグランの姿が現れる。住民たちは自然と道を開け、彼はフィデルの前へ進み出た。

貧民街でも名を知られる兄弟分。二人が見つめ合った瞬間、場は一層の静けさに包まれた。


「もう来るなって言ったよな?」

「そんなんで引けるわけねぇだろ!アニキ!裏の人間に騙されてるんだ……黒の外套を羽織った男を入れてるよな?」

「昨晩、奴と戦った。あいつらは『ペンタグラム』。国を崩壊させようと目論んでいる連中だ。グラン、あんたらは利用されてるんだ」


俺とフィデルは訴えかけるように語り、今の状況とその裏に潜む存在を明かした。

しかし、グランは表情を変えることなく、それを受け流すように言葉を返した。


「知ってるさ。それくらいはな」

「なら――!」

「だが、いずれこうなっていた。あの国王は戦争狂だ。どちらにせよ、このままじゃ未来なんてねぇんだ」

「未来ならある!ルイがいる!知ってるだろ、昔よく一緒に遊んでただろ!」

「どうだか。昔を知っていたとしても、今を知らねぇ。あの父親をずっと野放しにしてきたんだ。信じられるかよ」


フィデルがルイの名を出しても、王国に対する不信感は拭えなかった。グランの覚悟はすでに固まっており、その心は揺るがなかった。

やがてグランはフィデルから目を逸らし、背を向ける。


「まっ――!」


追おうとするフィデルを、住民たちが取り囲んで押さえ込む。その間にグランは建物の中へと消えていった。


フィデルは一旦グランを諦め、住民たちへの説得に力を注ぐ。心が揺れそうな者たちに必死に語りかけていたが、やはり首長であるグランの意志は重く、彼らは頑なに首を縦に振らなかった。

俺は横目で建物を見やる。出入り口には数人の見張りが立ち、フィデルを通さないために警戒しているようだ。さらに、広場の住民は減りつつあり、内部で何らかの準備が進められているようにも見えた。


俺は隙を突き、建物の裏手へ回り込む。空間認識に優れる俺にとって、こうした隠密行動は得意分野だった。

体を屈め、屋上へ跳び移る。欄干を越えて着地すると、そこには眼帯を付けたまま空を見上げるグランの姿があった。


「あんたか……まだ何か用でもあるのか?」


俺の登場に驚いた様子はあったが、彼の表情は揺らぐことなく淡々としていた。


「グラン……どうしてあそこまでフィデルを突き放す?」

「そんなことか。あいつにはもう居場所がねぇからだ」

「嘘を言うな。あんたの目は、フィデルを心配している目だ」


その眼差しは、かつての『師匠』を思わせた。言葉にはしなくても、確かに誰かを思いやる気持ちがそこには宿っていた。俺は幾度もその眼差しに救われてきたからこそ、はっきりとわかる。


「はぁ……あいつはもう、ここじゃなくても生きていける。だが他の奴らはここしかねぇ。だから俺たちは戦うしかねぇんだ」

「それでフィデルを突き放しているってわけか?」

「あいつは頼られたら断れねぇ奴だ。そんなあいつを巻き込みたくはねぇんだ」


片目に宿る思いを、グランは静かに吐露する。互いに思いやりながらも、心がすれ違い、こじれてしまっている。俺はそれがどうしても見過ごせなかった。


一歩踏み出し、彼に迫る。


「家族なんだろ?そんなもの抜きにして、頼るべきなんじゃないのか?」

「あんたに言われたくねぇよ。自分すら信じられねぇ奴に」


グランの隻眼が俺を捉える。その眼差しは、真実を突き付けるかのようにまっすぐだった。


「昨日から思ってたが、あんたの目は歪んでる。誰も信じられず、貧民街に堕ちてきた奴らと同じ目だ」

「そう……か。まるで師匠みたいなことを言うんだな」

「あんたはもう少し、人と向き合うべきだな。今のあんたと話すことはもうねぇ」


そう言い放つと、グランは背を向けて去っていった。


「歪み」――かつて自分も言われた言葉。俺はそれを思い出し、ただ腰の剣を眺めながら立ち尽くしていた。


ーーーー


それからフィデルは貧民街を駆け回り、説得を続けていた。

王子は討伐隊を瓦解させるために奔走し、ひたすら動き続けていた。

対する俺はというと、グランの言葉を聞いて以来、ただ無心に『ペンタグラム』の姿を追い続けていた。

だが結果は空しく、何も得ることはできなかった。


そのまま時は過ぎ、夜を迎える。次に日が昇れば事が起こる。

そこからは国を懸けた熾烈な争いが始まり、犠牲者が絶えないことになるだろう。

夜の闇が焦燥を煽り、心臓の鼓動をいや増しに速めていく。

そして――何を思ったのか、俺が向かったのはクラリスのもとだった。


教会に入り、クラリスの休む部屋へ向かう。

扉をノックすると、中から返事があった。

開けた先で目にしたのは、寝台に身を預け、窓から夜空を眺めるクラリスの姿だった。

風に揺れるブロンドの髪は、この部屋で唯一の光を纏っているかのように見えた。


「クラリス……」

「どうしたの? そんな顔して」


俺は彼女の隣に椅子を置き、腰を下ろす。

クラリスは余計な言葉をかけず、ただ俺が話すのを待っていた。


「俺はさ――」


そこから俺は、すべてを語り出した。

過去の罪、人を信じられず堕ちてきた人生。

――ただし、転生のことだけは触れずに。


自分のせいで母も友も失ったこと。

家族から逃げ続けてきたこと。

話せる限りのすべてを口にした。


「……俺はこういう人間なんだ。帝都で変われたと思ったが、人間ってのはそう簡単に変われないらしい」

「それがダレンの抱えてきたものなんだね……話してくれてありがとう」


俺のすべてを聞き終えても、クラリスはただ穏やかに微笑み、礼を言った。

その優しさに甘える自分が嫌で、視線は床から上げられなかった。


「でもね、あなたは確かに変わろうとしてるんだよ。その苦しみだって、その証なんだ」

「……だが頼った結果、クラリスを傷つけた。クラリスに何かあったら、俺にはもう償える気がしない……」

「信頼関係ってね、償いなんて必要ないんだよ。私だって相応の覚悟を持ってダレンについてきてるんだから」


彼女の見返りを求めないその姿勢は、俺の胸を締めつけた。

これまでの生き方がすべて崩れ落ち、空っぽにされていくようで。


「こうして話してくれたのも、私を信頼してくれてるからでしょ?」

「どう……だろうな。ただ逃げ道が欲しかっただけかもしれない……」


自分だけでなんとかしようとしてきた。

期待されるように、強くあろうとしてきた。

だが、そんなものはただの驕りだったのだ。


「その弱さを見せてくれた。それだけで私は嬉しいよ」


――「弱さを曝け出せ」。

かつて師匠が言った言葉が頭をよぎる。


俺は本当に成長できているのか。

今、父や師匠と面と向かって会えるかと問われれば、そうは思えなかった。


「俺は……これから戦いに出る」

「それは一人で?」

「……」

「本当は、人を信じたいんだよね。いいんだよ。あなたはもう、一人じゃない」


クラリスの言葉に、立ち上がろうとした足が止まる。

だが俺は歯を食いしばり、無理やり身体を起こすと戦場へ向かおうとした。


クラリスは追いかけようとしたが、未だ重い身体は思うように動かず、結局その場に残された。

そんな彼女を置き去りにして、俺は月明かりに照らされながら闇夜を駆ける。


変われない自分に鞭を打ち、その怒りを力へと変えて。


――さあ、行くぞ。茨の道を。


俺の思い上がった我儘を、貫き通すために。

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