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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
三章 心頼

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五話 亀裂

反乱軍の詳細が掴めたという吉報はあった。だが同時に、それがフィデルに連なる者たちだったということが問題であった。


「まあ仕方ない。反乱軍の方は俺が対応できるってこった。国王は――」

「それは私に任せてください」


そこで名乗りを上げたのは、リレイズ侯爵だった。その言葉に、王子は戸惑いと心配の色を浮かべた。


「本当に大丈夫なのかい?」

「問題ありません。危害を加えられるのは敵対した者だけ。従順なふりをしながら、潜入してみせます」

「そうか……リレイズ伯爵。頼んだよ」

「はい。ルイ王子。お任せください」


こうしてそれぞれの役割が振り分けられ、実際に行動を移すまでの目途が立った。

俺とクラリスはフィデルに同行し、反乱軍の調査と王都での情報収集を担当。

ルイ王子は、街に出れば住民から、城へ向かえば王や「ペンタグラム」の襲撃を受ける可能性があるため、主に私兵を用いた情報収集を行うことになった。


――その日の昼頃。

俺たち三人は、フィデルの背を追うように反乱軍の元を探っていた。


王都の中心から南へ離れていくにつれ、街の活気は失われ、やがて貧しい者たちの姿が目立ち始める。


「フィデル……ここは」

「ここは王都の貧民街。俺の育った街さ」


怪しげな空気を纏う街の中を、フィデルは故郷を闊歩するように堂々と進む。

だが彼の生まれた街は、街と呼ぶにはあまりにずさんな有り様だった。


「なんていうか……暗いね」

「ああ……前よりも活気がない。貧民街でも皆で協力し合ってきたはずなのに。なんでこんな」


フィデルの声には、怒りと困惑が入り混じっていた。この荒廃が以前よりひどくなっていることに、納得がいかない様子だった。


「ここにいる奴らは皆、家族さ。きっと話せばわかってくれる」


確かな自信を口にしながら、フィデルは反乱軍の拠点へと足を速める。

やがて、他の建物より大きく立派な建造物が見えてきた。その前には、多くの住人が群がっていた。


「よー! 皆久しぶりだな!」


駆け寄るフィデル。先ほどまでの険しい顔は晴れ、溢れんばかりの笑顔に変わっていた。


「お! フィデルじゃねぇか!」

「久しぶりだな!」

「やっと帰ってきたのね!」


数十人はいるであろう集団に囲まれ、フィデルは歓迎を受けた。

肩や手を叩き合い、久々の再会を喜ぶその光景に、俺とクラリスは圧倒されて立ち尽くしていた。


やがてフィデルは俺たちの存在を思い出したように振り返り、本来の目的を口にする。


「そうだ。アニキはいるか?」

「グランさんなら中にいるぜ」


住人の一人が答えると、フィデルは建物の中へ案内された。俺たちも視線を集めながら、人波をかき分けて後を追う。


建物の中は薄暗く、窓代わりの穴から差し込むわずかな光が空間を照らしていた。

奥の闇から姿を現したのは、右目に眼帯をつけた三十代ほどの男。年齢以上の風格を漂わせている。


「久しぶりだな、フィデル。元気だったか?」

「ああ。アニキこそ」


二人は不敵な笑みを浮かべ、目を合わせて笑った。だが次の言葉は続かず、妙な沈黙が流れる。

やがて隻眼の男が口を開いた。


「それで、こんな時期になんの用だ?」

「つれねぇな。兄弟だろう」


フィデルが「兄」と呼んだ男。顔も体格も似てはいないが、二人の間には確かな絆があるようだった。


「リオル達は今外してる。しばらくすれば――」

「――反乱軍の活動か?」


フィデルが遮るように返すと、隻眼の男はギラリと目を光らせて睨みつけた。


「やっぱりその件で来たか。なんとなく予想はしてたが」

「どういうことか説明してくれないか、アニキ」

「お前に話すことなんざねぇ。さっさと探索者活動に戻れ。ここはもう、お前の知る場所じゃねぇ」

「なんだと……?」


さきほどの柔らかいやり取りは消え、今にも一触即発の緊張が漂う。二人は睨み合い、視線を外さない。


「ただいまー。グランさん、戻ったぜ」

「今日も成果はなかったね」

「グランさん、聞いてくださいよー」


背後から男女の声が響き、振り返ると三人の若者が現れた。

光から闇へ足を踏み入れるその姿は、先ほど騎士団に追われていた三人組だった。


「ん? フィデルか! 来てくれたんだな」

「さっきは助かったよ、ありがとう」

「唐突であまり話せなかったしね」


三人はフィデルを囲み、再会を喜ぶ。背の高い大男、優しげな顔をした青年、身軽そうな布の少ない装いの女性。


その様子を見た隻眼の男は、深くため息をつき、険しい空気を解いた。


「仕方ない……少し話そうか、フィデル」


そう言うと彼は立ち上がり、俺たちを階段の方へ促した。

俺たちは警戒しつつも後を追い、三人組も隻眼の男の背中を追って階上へと向かった。


「そんな警戒しなくて大丈夫だ。ダレン、クラリス」

「その根拠はなんなんだ?とういうか誰なんだ?」


階段を登りながら、俺は前を進むフィデルに問いかけた。彼は背を向けながら、答えた。


「アニキ....グランとは血は繋がってねぇ。たがここでは一緒に育ってきた仲なんだ」

「前の三人もか?」

「ああ。皆兄弟みたいなものだ」


表情は見えないが、確かな信頼と家族とのつながりを感じることができた。だが、先ほどの会話からはその関係はこじれ始めているように見えた。

階段を登り終えると、屋上のような場所へたどり着いた。

簡素な欄干があり、貧民街を一望することができていた。

隻眼の男は、欄干に手をかけながら、こちらへ振り返る。


「.....フィデル。お前が外に出てから、ここは変わったんだ。もうお前の知る場所ではねぇ」

「そうは見えなかったがな」

「国王の野郎は、無謀にも他国に戦争を仕掛けようとしている。国民を兵としてな」


グランというものが言うには、それによる国の疲弊が貧民街にも及んでいると言った。流れ者達によって荒らされ、貧民街は危険にさらされる。さらに貧民街の完全排除を目的とした、住民の徴兵がなされるようだった。


「そんな話聞いたことないぞ」

「俺はある伝手で知りえた内容でな。だからこそ.....戦わなきゃならねぇんだよ。お前にもう用はねぇ。とっととここを出て、探索者でも続けな」

「ここは俺の故郷だ。見捨てられるわけないだろ」

「お前からしたら、無謀と思うかもしれないがな。やるしかねぇんだ」


話し合っても平行線であった。フィデルが何を言おうとも、グランは戦うことを選ぶようだった。他の三人も真剣な表情でフィデルを見つめている。彼らも意思は同じのようだった。


「それをどうにかするために、俺は来たんだ」

「お前の出番はない。フィデル」


何と言おうと、隻眼から感じる意志は変えられるようなものではなかった。沈黙が流れ、風の吹く音だけが響いていた。


「ま、まあ!とりあえず久しぶりの再会なわけだしさ!少し皆で話そうよ!」

「そ、そうだね!」


三人組はこの空気をなくすため、そう言いフィデルの肩を掴み、下へと連れて行こうとする。


「お、お前ら」

「フィデル。今日限りでここには来るなよ」


グランはそう言い、フィデルは三人に連れられて行った。この場にはグランと、俺、クラリスという異様な面々だけがここに残った。


「それで?あんたらは誰だ?フィデルの仲間か?」

「ああ。俺はダレン、こっちはクラリスだ」

「よろしくね。隻眼の人」


先ほどとは異なり、俺らの名を聞いた途端、険しい顔を崩し笑みを浮かべた。


「はっ。『紅影』か。女の方も相当やるようだな」

「よく....知ってるな」

「貧民街にも流れてきてるぜ。帝国の英雄の話はよ。そんな大物を連れてきたか、フィデルは」

「過大評価だがな」


今のグランの表情は、フィデルを思い浮かべ、笑っているように思えた。フィデルへの態度との違いに俺は違和感を覚えた。


「それでも反乱はやめないがな」

「どうしてだ?兄弟分なんだろう?少しぐらい話を聞いてやったらどうだ?」

「余計なお世話だ。あんたらには関係ないことだ」

「私たちはフィデルに頼まれてここに来たんだよ。関係なくはないよ」

「それでもだ。早くここを去れ」


そう追い返され、俺たちも屋上を出て階段を下りた。


「結構難航しそうだね。説得」

「ああ。フィデルが頼んでもあれだ。外の俺たちが何を言おうと、厳しいだろうな」


その後、歓迎されていたフィデルと合流し、一旦この場は去ることにした。


「また来る。またな」


フィデルは貧民街の住人達にそう言い残し、その場から俺たちは離れた。

まだ昼間だというのに、妙に薄暗い貧民街。

フィデルの説得にも頑ななグラン。強硬に走る国王。

そこに潜む闇は、今この瞬間も広がり続けている。




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