表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
三章 心頼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/108

四話 手がかり

話は終わり、この場はお開きとなった。

すると、リレイズ侯爵がこちらへ歩み寄る。


「ダレン殿とクラリス殿ですね。お噂はかねがね」


その眼差しからは、俺たちを探ろうとする意志が感じられた。王子の傍に置く者として、見極めようとしているのだろう。


「リレイズ侯爵。彼らは信頼できるよ」

「ですが……少なくとも帝国の人間です」

「それでもだ」

「はぁ……ルイ王子は、もう少し人を疑うべきかと」


呆れたように放つが、芯からそう思っているようには見えなかった。


「アレス様のご子息ならば、理解はできますが」

「父を知っているんですか?」

「ええ。あの方が戦場を駆け回る姿を見たことがあります」


意外な接点に、俺は驚きを隠せなかった。それを面白がるように、侯爵は話を続ける。


「あの時は私も当主になったばかりでね。敵ながら、その姿に圧倒されたものです」

「そう……だったんですか」

「『紅影』と呼ばれるダレン殿も、その血を継いでいるようですね。ルイ王子のこと、頼みますよ」


肩に手を置かれ、笑顔を向けられる。牽制の意味もあったのだろうが、疑いは少し晴れたように思えた。


その後、用意された食事を皆で済ませ、それぞれに割り当てられた部屋へと入った。

一人で使うには広すぎるほどの部屋で、むしろ居心地は悪く感じる。


寝台に腰を下ろし、目を閉じる。旅の中でも続けてきた闘気凝縮の鍛錬。

剣を通して広がる世界は、より早く、より正確に把握できるようになっていた。

この領主邸で動く人の気配も、手に取るようにわかる。


すると、俺の部屋へ近づく人影があった。歩き方、息遣いから誰か推測する。


「……クラリスか?」


扉の前に来たところで声をかける。ゆっくりと開いた扉から、予想通りの人物が顔を出した。


「正解。なんでわかったの?」


クラリスは不思議そうに問いかけ、俺のそばへと寄る。詳細を知りたがる顔に、隣へ座るよう促し、剣の能力について説明した。


「根を張るように、辺りが見える……すごいね」

「まだ完全に使いこなせるわけではないがな」

「じゃあ、城の時のあの根みたいな力は?」


クラリスの疑問に、俺も答えを持ち合わせていなかった。空間認識ができる能力は把握していたが、あの時クラリスへ繋がった「根」の力はいまだ理解できない。結局、正直に答える。


「俺も……分からない」

「まだ謎が多いね、その黒い剣。そういえば名前はないの?」

「名? なんだそれは」


クラリスは体を俺の方へ向けながら説明する。遺物の武器には名を与えることがよくあるらしい。その力を示すためでもあり、また愛着を込める意味もあるという。


「ずっと使い続けてるんでしょ。付けてあげなきゃ」

「名前……か」

「私のはそのまま『光剣』だけどね。今度一緒に考えよっか」


そう言われ、傍らにある剣を眺める。十の頃から使い、ここまで共に戦ってきた。心強さに、思わず笑みが零れた。


その後、クラリスに闘気制御の訓練を頼まれ、付き合うことになった。

目を閉じて集中するクラリス。長いまつ毛が目に入り、思わず目を逸らす。


「これ、できてる?」

「あ、ああ。ちょっと待ってくれ」


気にしないようにクラリスの肩へ手を置き、闘気の流れを探る。全身へ巡らせるよう指示し、それをさらに細かく制御するよう伝える。


すると、再びこの部屋へ近づく人影が見えた。俺は先ほどと同じように予想し、その名を告げる。


「フィデルか。入っていいぞ」


声にわずかに驚き、扉をゆっくりと開けたフィデルの姿があった。奇妙なものを見たような顔を浮かべている。


「なんで分かったんだ……ん? お邪魔だったか?」


フィデルは表情を変え、からかうような笑みを浮かべて去ろうとする。俺は今の状況を思い出し、クラリスの肩から手を離した。


「そういうんじゃない。からかうな。それで用は?」

「へいへい。大した話じゃないがな」

「はぁ! 疲れたー。休憩」


フィデルは椅子を引き寄せ、俺たちの目の前に座る。クラリスも集中を切らし、姿勢を崩した。


「クラリスも邪魔したな」

「フィデルのせいじゃないよ。私の鍛錬不足かな」

「それで? 話ってのは?」


単刀直入に問うと、フィデルは肩をすくめる。表情からして重い話ではないことはわかる。


「まあ……なんだ。今回は助けてもらう立場だからな。何かあれば頼ってくれって話さ」

「そんなことを言うためにわざわざ?」

「結構大事なことだぜ。人は一人じゃ生きていけない。何事も助け合いさ」


そう言い残し、すぐに部屋を出て行ってしまった。俺は首を傾げ、言葉の余韻を思う。


「フィデルの言う通りだよ。ダレンは頼るのが苦手そうだから」

「そう……見えるか」

「見えるよ。フィデルも自然に感じ取ったんだろうね。ま、私も同じ気持ちだよ」


そう言ってクラリスは立ち上がり、「おやすみ」と残して部屋を出て行った。


急に訪れた静かな空間。俺の息遣いだけが響く。

妙な思いを抱えたまま、寝台に体を預けた。


ーーーー


それから二日。王子や侯爵が忙しく準備を進めている中、やることのなかった俺たちは日がな一日、暇を持て余していた。しかし、ついに時は満ちたようで、全員が集められ、出発の時がやってきた。

王都には馬車一台で赴く。侯爵の私兵という立場で王都へ入り込む――それが今回の作戦だった。


再び馬車に揺られる時間を過ごし、やがて王都へたどり着く。侯爵領へ向かっていた時とは違い、王子の顔には緊張の色が浮かんでいた。それをフィデルが軽口を交わして和らげていく。そのやり取りのまま検問に臨むと、侯爵の馬車とあって大した詮索もなく、あっさりと通された。


荒れているはずの王国へ入るというのに、このあまりの軽さ。それがかえって奇妙に映り、胸騒ぎがした。

そんな心配をよそに、馬車は王都の奥へと進んでいく。だが、王都とは思えぬほど寂れた光景に、俺たちは思わず顔色を変えた。


すると、進む道の奥から大勢の人影が駆けてくるのが見えた。


「殺せ!」

「逆賊め!逃げられんぞ!」


数十人の騎士に追われる三人の男女。その姿をよく見ようと身を乗り出した瞬間――


「まさか!?」


フィデルが突如声を上げ、立ち上がった。その眼には明らかな動揺が浮かんでいた。


「どうしたんだ、フィデル」

「すまない!また後で合流する!」


そう言い残し、フィデルは馬車から飛び降りる。俺も迷いながらその背を追おうとしたが、王子に袖をつかまれ阻止された。


「フィデルなら大丈夫だ。きっと戻ってくるさ」


王子は心配する様子もなく、ただ走り去るフィデルの姿を眺めていた。仕方なく俺も体を下ろし、落ち着いて様子を見守る。フィデルが三人に追いつくと、そのまま路地へと誘導し、姿を消した。


「フィデルは、なんか忙しないね」

「そう……だな」

「昔からそうなんだ。今じゃ驚かないよ」


王子はまるで日常の一幕のように言った。その芯から信頼しあう二人の姿が、俺の目には眩しく映った。


――――


「今戻ったぞー」


王都の侯爵別邸に到着してしばらくすると、フィデルが帰ってきた。戦闘の痕跡もなく、まるで何事もなかったかのように笑みを浮かべている。その姿に、王子も当然のように笑顔で迎えた。


「それで、あの後どうなったの?」

「それがな……」


フィデルは一瞬口を噤んだが、やがて話し始めた。追われていた三人は、どうやら彼の知り合いだったらしい。追手を振り切った後に詳しく事情を聞いたところ――


「……あいつら、反乱軍にいるみたいだ」


目的の一つである反乱軍に、思いがけず早く接触したことに驚きを隠せなかった。しかし王子は別のことを気にかけているのか、頭を抱えた。


「もしかして……あの皆もかい?」

「ああ……おそらくな」


二人は顔を見合わせ、険しい表情になる。


「皆って、なんのこと?」


クラリスが問いかける。自然と二人だけで話を進めていたため、聞き流されていた部分を疑問に思ったのだ。


フィデルは険しさをわずかに崩し、遠くを見るような目で答えた。


「あいつらは……家族だ。」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ