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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
三章 心頼

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二話 鍵

「ここだ。フィデルだ。入るぞー」


フィデルが声を掛けながら、扉に手をかけた。その声に応じて「どうぞ」と返事が返ってくる。


それに合わせて扉を開けると、その先には三人の者がいた。そのうち一人の男は、平民らしい装いであるにもかかわらず、溢れる気品をまとい、違和感を覚えるほどだった。

真ん中で分けられた金髪に、紺碧の瞳。貴族ですら滅多に見ない風格に、俺は思わず驚かされた。


他の二人も同じく平民の格好をしていたが、腰に添えた剣に手をかけ、警戒を露わにしていた。護衛のようなその構えに、俺とクラリスは思わず身を固くした。


「大丈夫だ。ルイ、敵じゃない」

「そうかい?……お前たち、剣を下げろ」


ルイと呼ばれた男の声に、二人の護衛は静かに剣を下げた。しかし、その鋭い視線から警戒が解けることはなかった。だが、ルイと呼ばれた男は気丈に振る舞い、その瞳には確かな力が宿っていた。


「ダレン、クラリス。紹介しよう。こちらは――ルイ・ヴィ・エイドリア。エイドリア王国第一王子だ」


突然の事実に、俺とクラリスはまるで風に打たれたように呆然と口を開けた。感じていた威厳が王族の血筋から来ていたことには納得できたが、それでも疑問は残っていた。


「ルイ、こっちはダレン・クローヴァンだ。帝国『五剣』の息子であり、先の騒動で名を馳せた英雄『紅影』だ。それからこちらがクラリス」

「よろしく、ダレン、クラリス。フィデルが連れてきたのなら信用できるだろう」


差し出された手に戸惑いながらも、その手を握り返す。クラリスも同じように握ったが、護衛たちの視線はなお固いままだった。


「とりあえず、座って話そうか」


王子の提案に従い、丸テーブルを囲んで四人――護衛を除いて腰を下ろした。


「まずは現状を話そう」


王子は口を開き、フィデルに匿われてここに至るまでの経緯を語り始めた。


父である現国王は、決して賢王と呼べる人物ではなかった。帝国や神聖王国に張り合うため、時に悪政を敷いてきた。だが愚か者ではなかった。国内外の情勢を見極め、判断する力は備えていた。

けれど、ここ最近でそれは一変したという。国王が黒装束を纏う女を傍に置くようになってから、瞳は虚ろとなり、まるで傀儡のようになった。臣下の言葉にも耳を貸さず、他国との戦争へと突き進むばかり。結果、貴族たちも二派に分かれ、国内は荒れ始めていた。


「その事態を察した私は、密かに国を抜け出し、機会を伺っているわけだ」

「大体の事態は把握できた。それで……」

「フィデルは王子様とどういう関係なの?」


俺が気になっていたことを、クラリスがそのまま口にした。王子を匿う探索者――あまりにも異様な関係に疑問を抱かざるを得なかった。


「俺はただの平民だ。だがルイとは幼馴染みたいなもんだ」

「幼馴染……?」

「私は子供の頃、よく城を抜け出しては街に出ていた。その時からの知り合いでね」


王子は遠くを懐かしむような目で語った。王族と平民の友情――身分を超えた信頼関係が、俺には少し羨ましく思えた。


「話を戻そう。私の父、現国王を救い、反乱を阻止する。それが私たちの目的だ」

「そこでだ、実力の確かなダレン。あんたに手を貸してほしい」


王子とフィデルの目に、揺るぎない覚悟が宿り、俺へと向けられる。

最終目標は「ペンタグラム」だ。だが、その道のりで国王との衝突は避けられない。ならば、王子という存在は大義名分を与え、障害をも取り除いてくれる。


俺は一呼吸を置き、クラリスを見る。彼女は選択を俺に委ねるように、ただ静かに待っていた。


「……いいだろう。ルイ王子、是非お手伝いさせていただきます」

「ありがとう。帝国の英雄が力を貸してくれるなら心強い」

「よし、最低限の戦力は整ったな。ルイ、勝負はこれからだ」

「ああ」


こうして、第一王子とその友人との協力関係が結ばれた。


――――


「今日は助かった、ダレン、クラリス」

「いや、こっちの目的とも合致していたからな」

「それでもだ」


フィデルは、緊張から解放されたように弾ける笑顔を見せた。――これが「人たらし」というものなのだろう。全面的な信頼を向けてくるその眼差しが、眩しく映る。王子から信を置かれるのも納得だった。


「ひとつ聞いてもいい?フィデル」

「なんだ?クラリス」

「なんで私たちを頼ったの?帝国の人間なら警戒すべきじゃない?」


クラリスは純粋な疑問を投げかけた。確かに今日出会ったばかりの俺たちに対して、フィデルも王子も疑いを見せなかったのは不思議だった。


「人を見る目は昔からあるんだ。あんたらは頼れる――そう思った。その目を信じたのが、ルイなんだろうさ」


まっすぐな視線に、俺は思わず目を逸らしたくなる。クラリスもその姿勢に感心したように唸った。


「そんな大げさなもんじゃないさ」


本当にそう思っているのだろう。謙遜ではなく、それが彼の芯に根付いている。照れたような笑みが、やはり眩しく見えた。


「そういや、明日予定はあるか?」

「いや、特には」

「なら、三人で遺跡にでも潜ろう。連携も確認しておきたいしな」


フィデルの提案に、クラリスと視線を交わして頷く。それを見たフィデルは満足げに笑い、手を振って俺たちを見送った。


沈みかける太陽に照らされる道を歩きながら、俺はクラリスに問う。


「どうだった?クラリス」

「あの二人のこと?信頼できると思うよ。私も貴族社会で育った身。多少の裏は見えるからね」

「そう……か」

「何か気になるの?」


クラリスが下から顔を覗き込む。言葉にしづらい思いを、どうにか絞り出そうとする。俺は建物の影に入ると、足を止めた。


「クラリスは……俺に選択を委ねただろう?なんでだ?」

「うーん……それこそ、あの二人と一緒。ダレンを信頼してるからだよ」


夕日に照らされたクラリスの目に、俺は目を細める。不意に作った拳をじっと見下ろした。


「そうか……」

「ダレンの選んだ道を、一緒に進むって決めたからね」


胸の奥の痛みを抑え込み、無理やり顔を上げる。その影から抜け出すように、俺たちは宿へと戻った。 


ーーーー


俺たちは一晩で旅の疲れを取り、翌日を迎えた。揃って探索者協会へと向かい、フィデルと合流した。


「おはよう。お二人さん」

「ああ。おはよう」

「おはよー」


挨拶を済ませ、最も近い遺跡へとフィデルに案内される。

昇った太陽に照らされ、静かな風が吹く中を歩いていくと、やがてピラミッド状の遺跡が姿を現した。


「ここは多様な種類の魔物が出る遺跡でな。腕慣らしには丁度いいだろう」


そう説明しながら、フィデルは連携を取るために、それぞれができることを確認していく。

俺とクラリスは主に剣を使い、クラリスに至っては「光剣」による遠距離攻撃も可能だ。俺は一級探索者、クラリスは遺跡の経験こそ少ないが一級騎士として名を馳せた実力者である。


「ダレンは一級だったのか。てっきり特級かと思ったぞ」

「探索者は成り行きで始めたからな」

「それにクラリスも只者じゃないと思ったがな」

「ダレンには負けるかなー」


そうは言うが、クラリスは「五剣候補」に名を連ねていた存在だ。探索者でいえば一級以上の力を持つのは間違いなかった。


「それで、フィデルは?」

「俺は一級だが、基本は後衛だ。弓を使う。それと索敵、罠の解除とか裏方は任せてくれ」


正に探索者としての技能を備えた援護役。仲間と共にあってこそ力を発揮する存在だと感じた。だが、気になる点があり、俺は目を細める。


「ああ、弓か。ほら」


フィデルが背負っていた棒を一本取り出すと、それは弓の形へと変形し、さらに矢が生成される。今すぐにでも射られる状態だった。


「遺物か……」

「すごいね。初めて見たよ」

「ははっ。これでも『蒼穹』って二つ名をもらったくらいだからな」


胸を張り、自慢げに言うフィデル。弓を持つ姿勢が妙に様になっている。二つ名を与えられるほどの実力に納得した。


「ま、それじゃあ入るか」

「ああ」


フィデルの声に応じ、俺たち三人は遺跡の中へと足を踏み入れる。

薄暗くも、淡く光を放つ妙な石に照らされながら、先へ進む。

奥へ行くほど、岩に囲まれた道は広がっていった。


「そろそろ出てくると思うから、警戒してくれ」


フィデルの声が洞窟に響きわたる。俺たちも腰の剣に手をかけ、戦闘態勢を取った。

その時、奥からキシキシと不気味な音が聞こえてくる。

やがて現れたのは、蟻型の魔物が五体。視界に捉えた瞬間、俺とクラリスは前に出た。


突っ込んでくる魔物に向け、剣を振るう。膝元ほどの低さのため、身を屈めて対応する必要があった。

クラリスも魔物の経験は少ないはずだが、すぐに順応して応戦してみせる。


さらに奥から迫る二体に対しては、後ろから風を切る音と共に矢が放たれ、正確に眉間を射抜いた。矢は刺さるのではなく、そのまま貫通していく。遺物の力で威力が増しているのだろう。

蟻型の魔物は即座に絶命した。


「よし、二人とも仕事が早くて頼りになるな」

「フィデルも弓の腕前は流石だね」

「確かにそうだな。……素材の回収をしよう」


フィデルに教わりながら、蟻型魔物の背の殻を剥ぎ取る。上からの攻撃に備えた殻は、かなりの硬さだった。


「ダレンたち、また来るよ」


見張りをしていたクラリスが声を上げ、再び戦闘態勢に入る。

姿を現したのは、カマキリのような魔物が二体。両腕に備えた鎌は、僅かな光に照らされ、不気味に輝いていた。


「よし、やるぞ」


俺たちはその後も、連携を確かめながら魔物を次々と倒していった。



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