表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
二章 自己の先へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/108

十四話 幕開




俺とクラリスは、腰元の剣を入り口の騎士へ預け、前へと進む。

扉が開かれると、その先の会場は豪奢な光景に包まれていた。

天井から吊るされたシャンデリアは宝石のように輝き、壁面には金糸の装飾が施されている。

華やかな衣装を纏った貴族たちが入り乱れ、談笑と笑い声が響き合い、まさに「貴族たちの祭り」といった様相を呈していた。


俺とクラリスは帯剣していた剣を、入口で待ち受けていた騎士へ預けると、人波の中へと進んでいった。


「すごいな……」


思わず口を開け、呆然とする俺の手をクラリスが軽く引き、先へと促す。

いくつも並べられたテーブルには色とりどりの料理やワインが置かれ、その周りを囲むように貴族たちが立ち、杯を傾けては会話を交わしていた。


「とりあえず、ここでいいかな」


クラリスは人の少ない会場の隅へと移動し、ようやく警戒を解いたように言葉を漏らす。

改めて場を俯瞰してみると、笑みを浮かべて談笑しているように見える貴族たちの目は、どこか冷たく計算高かった。

常に駆け引きが行われる貴族社会。その空気を初めて肌で感じ、俺は思わず息苦しさを覚えた。


「怪しい人物がいれば、それに合わせて動く感じかな」

「正直、誰も彼も何を考えているのか全然わからないな」

「……貴族なんてそんなものだよ。私だって、こういう場所は嫌い」


クラリスの眉間にもわずかな険が刻まれている。彼女も俺と同じ息苦しさを感じているのだろう。

ため息をついたその視線の先から、着飾った二人の若い貴族が歩み寄ってきた。


「これはクラリス様ではありませんか。ご機嫌麗しゅう」

「三年前の任命式以来ですな」


二人はそれぞれ名を名乗り、次々とクラリスへ言葉を投げかける。

クラリスは嫌そうに、俺の背後へ隠れるように一歩下がった。だが、二人は怪訝な顔を見せながらさらに距離を詰めてくる。


「その男は誰です?護衛ですか?」

「クラリス様には不要でしょう。我々と共に、あちらでお話を……」


俺の背中越しに怯むことなく迫る彼らを見て、クラリスの表情が陰る。

その顔を見た瞬間、俺の中でなにかが弾け、前へと一歩踏み出して彼らの前に立ちはだかった。


「悪いが……先約がある。それに俺は護衛じゃない」

「では、どこの家の者だ?」

「……男爵家の長男だが」

「は?男爵風情が調子に乗るな! クラリス様、こんな男放っておいて――」


俺の身分を聞いた途端、彼らは露骨に侮蔑の色を浮かべ、クラリスに取り入ろうとする。

しかし、そのときクラリスが一歩前に出て、きっぱりと声を上げた。


「彼は今日のパートナーよ」

「なっ……! 男爵家ごときが……?」

「彼はダレン・クローヴァン。『五剣』アレス様の息子よ」

「……!? ほ、本当か!?」


クラリスの言葉に、二人の顔色は一瞬で変わり、強張った表情のまま俺へと視線を向けてきた。

俺がうなずいて肯定すると、彼らは観念したように舌打ちをして退散していった。


「……ごめんね。ダレンを利用する形になっちゃって」

「気にするな。ああいう連中もいるんだな」

「上級貴族はね、婚約や家同士の駆け引きも絡んでくるから……」

「大変なんだな。それより、さっき言った“パートナー”って?」


クラリスが申し訳なさそうに視線を逸らす。俺が疑問を口にすると、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべて誤魔化した。

その微妙な間を埋めるように、さらに別の人物がこちらへと近づいてきた。


「クラリス! さっきのはどういうことだ」


低い声とともに現れたのは、金髪に白いものが混じる壮年の男性。口ひげを整え、威圧感のある気配を纏っている。


「あ……お父さん……」


クラリスが消え入るように呟く。その人物こそ、セルフィリス伯爵家当主。クラリスの父か。


「この者がパートナーとは、どういうことだ」

「それは……」


言葉を詰まらせるクラリスに、カールの鋭い視線が俺へと突き刺さる。


「君の名は?」

「ダ、ダレン・クローヴァンと申します」

「クローヴァン……」


名を聞いたカールはわずかに目を細め、確認するように問いを重ねる。

俺がそれに頷くと、彼は目を閉じ、深い吐息をついて気持ちを落ち着けた。


「……そうか。私はカール・セルフィリス。この馬鹿娘の父だ」


重々しい口調で名乗ったのち、彼はクラリスへと向き直る。

クラリスも意を決したように、父へ任務の経緯を説明し、俺がただの同伴者ではなく任務の仲間だと伝えた。


「……それは理解した。だが、騎士をやめる件はどうなった?」

「わ、私は……やめる気はありません。これは私の選んだ道。誰に言われても変えるつもりはない。たとえお父さんであっても」


その強い意志の籠った瞳に、俺の胸は熱くなる。

家族の問題に首を突っ込むべきではない。だが、彼女の姿を見て、気づけば言葉が口をついていた。


「カールさん。この場では冷静な話はできません。後日に、落ち着ける場所で改めて話し合ってはいかがでしょう」

「……なるほど。確かに一理あるな。ここは君に免じて引こう。だが」


そう言って彼はクラリスへ視線を戻す。


「これは婚約問題。家の将来にも関わる。後日、帝都の別邸へ来なさい」

「……はい、お父様」


踵を返しかけたカールは、ふと立ち止まり、首だけを横に向けた。


「それと、ダレン君。君も来てもらう」

「え……?」


俺の返事を待つこともなく、カールは背を向け、そのまま去って行った。

唐突に投げられた言葉の意味を測りかね、俺は硬直したまま立ち尽くす。


「ごめんね……それと、さっきはありがとう」

「……ああ。それよりも……」

「なんか巻き込んじゃったみたいだね」


クラリスは緊張の糸を切るように笑みを見せる。その顔を見た瞬間、胸の中の不安はすっと消えていった。


やがて会場にはさらに人が集まり始め、俺たちは任務に意識を戻して警戒を続けた。

誕生祭開始の時刻が迫ると、会場奥の扉が開かれ、騎士たちが整列して道を作る。


「それでは――皇帝陛下のご入場です!」


高らかな声が響き、堂々とした足取りで皇帝が現れた。

赤い大きなマントを肩に羽織り、その威厳は場の空気を一変させる。

傍らにはエドが控え、鋭い眼差しで周囲を警戒していた。


歓声と拍手が巻き起こり、会場中の視線が皇帝に注がれる。

そのなかで俺はなおも警戒を怠らず、周囲の動きを観察していた。


――と、視線の先で騎士の一人と目が合う。


アガット。


以前と同じ憎悪の視線ではない。今度はあざ笑うような冷笑を浮かべ、こちらを見据えていた。

背筋に寒気が走り、腰へと手を伸ばす。だが、そこにはいつもの剣はなかった。


「どうしたの?」

「いや……気のせいかもしれない」


クラリスの問いを誤魔化すと、彼女は訝しげに俺を見つめたが、やがて視線を皇帝へと戻した。


壇上に上がった皇帝の姿に、会場は静まり返る。


「皆の者、よく集まってくれた。私の五十の誕生祭、存分に楽しんでくれ」


力強い声が響き渡り、その後、皇帝は国の現状と政治について語り始めた。


「……そして、昨年から五剣の一人は暗殺され、さらに一人は行方不明となっている」


衝撃的な言葉に会場はざわつき、動揺が広がる。だが皇帝は動じず、さらに声を張った。


「今まさに帝国は転機にある。今こそ団結の時だ」


その言葉に、真剣な表情で聞き入る者と、嘲るように鼻で笑う者がはっきりと分かれる。

皇帝派と反皇帝派――すでに会場には二つの勢力の色が浮き彫りとなっていた。


やがて皇帝は話を切り替え、壇上の袖へ視線を向ける。


「未来を切り開くのは我々ではなく若者たちだ。では――ユリウス、前へ」


不意に呼ばれた名に、俺は耳を疑った。

壇上の脇から姿を現したユリウスは、力強く一歩を踏み出し、皇帝の隣に立った。


「……なぜユリウスが?」


俺の呟きをかき消すように、ユリウスの口から衝撃の言葉が告げられた。


「ご紹介にあずかりました。ユリウス・クーリン第一皇子。次期皇帝候補として、ここに立たせていただきます」


会場は息を呑んだように静まり返る。


グライスやクラリスとの距離感、城での立ち居振る舞い、周囲の反応――

今まで散りばめられていた数々の違和感が、一気に線となって繋がる。


壇上のユリウスは一瞬だけ俺を見やり、悪戯めいた笑みを浮かべた。

すぐに表情を引き締め、正面を見据えて演説を始める。


「次期皇帝候補として、私は今の帝国を憂いています。貴族同士の争いは絶えず、他勢力に押される現状……。

私は騎士として戦い、五剣候補としても名を連ねています。だが、優秀な人材は他にもいる。

――今こそ帝国は立ち上がるべきだ。皆、私についてきてほしい!」


その言葉に、皇帝派からは怒涛の歓声が巻き起こり、反皇帝派の中にも動揺を隠せずざわめく者が現れた。


「以上だ。皆、陛下の誕生祭を――存分に楽しんでくれ」


盛大な拍手が湧き起こり、こうして帝都を揺るがす誕生祭の幕が開けたのだった。

ユリウスの事実。

皆さん気づけましたでしょうか。

ちょっと雑すぎたかもしれません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ