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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
二章 自己の先へ

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十三話 何者

それからミゲルたち四人から浴びせられる質問攻めを、何とかかわしつつ、探索者協会を後にした。


「また、顔出してくれよ」


去り際、ミゲルはそう言った。

決着がつかなかったことに悔しさをにじませながらも、その顔にはどこか清々しい表情が浮かんでいた。


そこからは前回と同じく、クラリスを寮まで送り届ける帰路についた。

クラリスがあえて提案したのは、人通りの少ない道だった。帝都にしては珍しい閑静な小路を並んで歩く。

ふと横目に映ったクラリスの端正な横顔は、喧騒から離れた静けさの中でいっそう際立って見えた。


俺の視線に気づくこともなく、クラリスは口を開いた。


「ダレン、あの時……本気出してなかったよね」

「見せるようなものでもないだろう」

「それに……五剣の息子って言われるのは嫌?」

「嫌……ではないさ。ただ、父様の息子だからって、自分が何者かになれるわけではないだろう」

「ふーん。そっか」


クラリスはそれ以上追及することなく、静かにうなずいた。

その姿に俺は、胸の奥で安堵を覚えてしまった。


その後はたどたどしい会話を続けながら、やがて騎士寮へと辿り着いた。

振り返れば、この道のりは長かったようで、けれどあっという間でもあったように思える。


「これからも騎士団に顔を出すんでしょ?」

「ああ。誕生祭まではな」

「うん。じゃあ……また喫茶でも行こうよ」


妙な寂しさを抱えながらも、俺たちは次の約束を交わした。


「またね」


クラリスの言葉を脳裏に焼きつけ、別れを告げた俺は再び夜道へと歩き出す。


「またね……か」


俺の呟きは、暮れゆく空の暗がりに溶け、吹き抜ける風にかき消されていった。


―――――


それからの日々は、騎士団での修練、探索者協会での任務、そしてクラリスとの喫茶。

帝都に来てからの生活は、大きな変化もなく淡々と続いていった。


そして迎えた誕生祭当日。帝都はいつも以上の賑わいを見せ、祭の熱気で溢れかえっていた。

俺は準備を整え、群衆を掻き分けながら城へと向かった。


厳重な警備が敷かれた城門に到着すると、そこには見慣れた顔があった。


「お、ダレンか。今日は頼んだぞ」

「ああ、お前たちもな」


ここ数日の修練を通じ、下級貴族や成り上がりの騎士たちとある程度言葉を交わすようになっていた。

その知り合いの騎士に門を通してもらい、俺は城内へと足を踏み入れる。


複数の騎士が警戒に立つ城の廊下を抜け、指定された部屋へ向かった。

さらに扉の前で名を告げると、通されることが叶った。


「やあ、ダレン。よく来たね」

「ユリウス……? なぜここに?」

「僕が手配したんだ。クラリス嬢も来てるよ」


今回の任務では、俺とクラリスが貴族の参加者に紛れ、会場内で遊撃として動く。

そのための礼服が用意されていると聞いていたが、それを段取りしたのがユリウスだとは意外だった。


「クラリス嬢はあの仕切りの向こうにいる。君はこっちだ。あとはよろしく」


ユリウスに案内された先には、数人の使用人が待っていた。

仕切りが閉じられるや否や、俺は服を脱がされ、礼服へと着替えさせられる。


鏡に映る姿は、黒を基調とした礼装に身を包んだ紳士然とした男。

自分には似合わないと思いつつも、背筋が自然と伸びる。


「とてもお似合いです。クラリス様が終わるまで、こちらでお待ちください」


言われるまま椅子に腰を下ろし、しばらく待つ。

やがて仕切りの向こうからクラリスの小さな悲鳴が漏れ聞こえ、胸が妙に落ち着かなくなる。


そしてついに仕切りが開かれた。


視線を上げた瞬間、俺の目は自然と釘付けになった。

透き通るようなブロンドの髪は結い上げられ、絹のごとき肌を引き立てる純白のドレス。

そして、伏せられていた顔が上がり、真っ直ぐにこちらを見据える碧眼が輝いた。


俺が言葉もなく見つめていると、クラリスは耳を赤らめ、慌ててそっぽを向いた。


「な、何か言ってよ」

「あ、ああ……綺麗、だな」


不器用な言葉に、クラリスはさらに顔を染めた。純白の衣装がその赤みをいっそう際立たせていた。


だがクラリスも負けじと、背を向けて呼吸を整えたのち、再びこちらに振り向く。


「……ダレンも、かっこいいよ」

「そうか。ありがとう」


その素直なやり取りに、口元が自然と緩む。


「準備は済んだようだね」


部屋に顔を出したユリウスは、満足げに頷いた。

俺たちは隣室へ移り、三人並んで腰を下ろす。


「それじゃあ、今回の任務の詳細を確認しておこう」


ユリウスの声に合わせ、誕生祭当日の流れが語られていく。

俺とクラリスは、会場に集まる貴族の中に紛れ、怪しい人物や行動を探る。

そのために、こうして礼服を着て臨むのだ。


しかし、俺には一つ疑問が残っていた。


「だがクラリスは伯爵家の令嬢だろう? 顔を知られているんじゃないか?」

「まあね。『女でありながら五剣を目指す気狂い』みたいな扱いをされてるけど」


淡々と答えるクラリス。その強がりの奥にある思いを、俺は掴みきれなかった。


「それに……お父さんも今日来てるから、会うことになるかもね」

「クラリスのお父さんが?」

「騎士になるのをずっと反対してるから、最近は顔も合わせてないんだ」


彼女の言葉にどう返すべきか迷っていると、ユリウスの咳払いで話題は切り替えられた。


「帝城には『裁きの雷剣』がある。だからこそ内側の警備は徹底してるんだ。二人の任務は重要だよ」


『裁きの雷剣』。初代皇帝が手にした特級遺物。

その性質は二つ――帝城全体を覆う結界の維持、そして雷による殲滅。

帝国の覇権を確立した根幹たる力だった。


「そういえば、二人は実物を見たことはあるかい?」

「いや、ない」

「私は任命式の時に一度だけ」

「そうか。じゃあ見に行こう」


気楽な調子でユリウスが提案し、俺とクラリスは思わず顔を見合わせた。

だが「大丈夫」と言い切る彼に押され、ついていくことになった。


やがて辿り着いたのは巨大な扉。


「ユ、ユリウス様!? ご用件は……」

「ちょっと二人に見せたいものがあってね。通してくれるかな」


騎士は恐縮しつつ、すぐに扉を開けた。その様子に俺は思わずユリウスへ問う。


「ユリウス……お前、相当な立場なのか?」

「まあ、多少ね」


クラリスは堪えきれぬように口元を押さえ、笑みを漏らしていた。


やがて扉が開かれ、薄暗く堅牢な空間が現れる。

中央に突き立てられた一本の剣が、眩い金色の輝きを放っていた。


「これが……」

「帝国の守護剣、『裁きの雷剣』だ」


空気そのものを震わせるような威圧感。

俺は思わず自らの剣を通してその威容を見た。


「ここにある限り、帝都を護る結界を張り続ける。だが抜けば、一つの街を滅ぼす兵器にもなる。建国以来、使われたことはないけどね」


その説明に、俺の胸に不安が広がる。

『ペンタグラム』が狙うとされる中、この剣は格好の標的だ。


それを見抜いたように、ユリウスが笑みを浮かべた。


「心配いらない。ここを護るのは、帝国に尽くしてきた古参の騎士たちだ」

「私たちと同じ一級騎士で、遺物の所持者でもあるからね」


クラリスの言葉にも支えられ、胸の不安は少し和らいだ。

その圧倒的な威容を目に焼き付け、俺たちは部屋を後にした。


ユリウスは仕事へ戻ると言い、俺とクラリスは任務へ。

手を軽く握り合い、それぞれの役割へと向かう。


煌びやかな衣装をまとった貴族の群れに紛れ、俺たちは会場前の大扉へと辿り着いた。

胸の鼓動が早まる俺は、クラリスへと顔を向ける。


「……何か変じゃないか?」

「大丈夫。いつも通りでいいんだよ」


そう言って微笑むクラリス。その余裕に、己との違いを痛感する。


「さあ、行こ」

「……ああ」


そして騎士の確認を済ませ、扉が開かれた。

華やかな世界が広がる会場へ。

――だがその光が、やがて暗き影に染まるとも知らずに。


俺たちは、一歩を踏み出した。

ここから物語は一気に進み始めます


次回ご期待を

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