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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
二章 自己の先へ

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十一話 吐露


クラリスと街を練り歩いた後、俺は騎士の駐屯所へと赴き、騎士の訓練に参加することになった。


「今日から訓練に参加する者を紹介する。騎士ではないが、一級探索者だ」


端で控えていた俺は、グライスに呼ばれ、数十人もの騎士が並ぶ前へと歩み出る。

鎧の擦れる音、整然とした空気。環境は違えど、どこか懐かしい雰囲気があった。自然と頬が緩む。


前に立ち、並ぶ騎士たちを見据える。

興味深そうな視線、無関心を装う視線、敵意すら混じった視線――それぞれの思惑を孕んだ眼差しが俺に注がれていた。


「今日から参加します。ダレン・クローヴァンです」


名乗ると、場の空気は揺れもしない。ただの無反応。

それが逆に心地よかった。

列の中に混じっていたクラリスだけが、笑いを堪えきれないように唇を押さえていた。


「素っ気ないが、よろしくしてやってくれ」


そう言って、グライスは訓練を開始した。

まずは帝国式の剣術型。


俺はグライスがそばにつき、型の動きを体に染み込ませていく。

父から、グライスから、クラリスからも見てきた動きがそこにあった。即興ながら、俺はそれを難なくなぞる。


「次は打ち合いだ。それぞれ組を作れ。ダレンはそうだな……」

「あの僕が組んでもよろしいでしょうか?」


声をかけてきたのは、昨日アガットと一緒にいた騎士――会議にも顔を出していた五剣候補の一人だった。


「ユ、ユリウスか……よし、いいだろう。ダレンも彼と組め」


妙にたどたどしくグライスは、名を挙げたものに答えていた。

しかし願ってもないことだった。俺から誘うにしてもクラリスしか思い浮かばず、内心助かった。


「昨日も今日も会ったね。ユリウスだよ。よろしく」

「ああ、ダレンだ。よろしく」


互いに名乗り合い、距離を取る。

打ち合いは先ほどの型の確認が中心だった。


真っ直ぐに振り下ろされる剣。俺は正面から受け止める。

普段の流剣ではなく、剛剣。体を大岩に見立て、力強く剣を構える。

ユリウスが次の一手へと剣を引いた隙を逃さず、今度は俺が足を踏みしめ、上段から振り下ろした。


息を吸い、インパクトの瞬間に吐き出す。

金属と金属がぶつかる甲高い音が訓練場に響く。

だがユリウスは体幹を揺るがせず、受け止めた。


「す、ごいな……流剣の使い手かと思ったけど、剛剣もここまでできるんだね」

「三剣はある程度、やってきたからな」


打ち合いが続く。

ユリウスの剣は重く、堅牢で、正統派の騎士そのものだった。

アガットの荒さやクラリスの鋭さとも違う――騎士らしい強さ。


「そこまで! 一旦休憩だ」


グライスの号令で稽古を止め、それぞれが水を取りに散っていった。

俺は端に腰を下ろし、汗を拭う。視線の先、クラリスが訓練場を出ていくのが見えた。

思わず一歩踏み出す。


その時、土を踏む音とともにユリウスが近づいた。


「ダレン君。一緒に休憩を取ってもいいかな?」

「いいが……いいのか?」


ユリウスが俺と絡むこと、意味を図りそう尋ねると


「いいよ。大したことじゃないだろう?」


俺は訓練場の出口を気にしつつ、隣に座ったユリウスと会話を続けた。


「ダレン君は五剣になる気はないんだろう?」

「ああ。騎士にすらなるつもりはない」

「ははっ。潔いや。そりゃアガット君は怒るよ」


そのまま五剣候補について話が広がる。

クラリス、アガット、ユリウス、そして遠征に出ているガイウス・ブラウン。

中でもガイウスが一歩抜きん出ているらしい。


「実力面ではどうなんだ?」

「大差ないかな。ただ、使用している遺物によるところが大きい。でも五剣になれば宝物庫の特級遺物が使えるからね。最後は結局、素の実力で決まるだろう」


そう言いつつも、ユリウスの顔には妙に自信が浮かんでいた。


「そういえばクラリスはどういう立ち位置なんだ?」

「あまり人と交流しないかな。派閥があってね……」


ユリウスの視線の先には、集団ごとに固まる騎士たち。

アガットを中心とした上級貴族の集まり。

その下に中級、下級貴族。

さらに成り上がり組。

わかりやすい分断だった。


「僕とクラリス嬢は中立だよ。そういうものに興味はないからね」


言葉の最中、上級貴族の集団が訓練場を出ていった。


「多分、行った方がいいよ。ろくなことにはならないだろうし」

「ああ、教えてくれてありがとう」


俺はユリウスの忠告に従い、足を向けた。

物陰から様子を窺うと、案の定クラリスを取り囲む騎士たちの姿があった。その後ろにはアガット。


「あんな半端者と絡んでんじゃねぇぞ」

「それでも伯爵家の娘か?」

「五剣の息子だからって媚び売ってんじゃないぞ」


彼らの言葉の矛先は俺に向けられていた。

だがクラリスは毅然と立ち、前を見据えている。


「それで私に何を求めてるの?」

「あのダレンって野郎と絡むなと言っているんだ」

「アガット・ジールス。ダレンに負けたからってこんなことしてるの?」


挑発的な言葉に、アガットの顔が真っ赤になる。


「何だと!あいつは特級遺物でも使っていたに違いない!それに五剣の息子といっても男爵家だ、格が足りん!」


彼は認めることをせず、言い訳を並べ立てる。


「それにあいつは自分で言っていただろう。騎士に向いていないと。俺たちのように崇高な目標も持たず、ただ探索者としてほっつき歩く半端者だ」


その言葉に、俺は足を止めた。

胸が軋む。自覚はしていても、人に突きつけられるのは別物だ。


「あなたにダレンの何がわかるの?」


クラリスの声が響いた。


「短い付き合いだけど、知ってる。ダレンは悩みながらも、前へ進もうとしてる。あなたたちの尺度で彼を測らないで」


彼女の言葉は、まっすぐ俺の胸を貫いた。

気づけば目を見開いていた。

芯の通ったその姿――揺るがぬ自己を持つ彼女。

凛とした碧眼が光を宿し、まるで夜空に浮かぶ星のように俺には見えた。


強く、美しい。

あの瞬間、ただの憧れ以上の何かが俺を襲ったような気がした。


「それにしても半端者には変わりないだろ!お前も五剣候補だからって調子に乗るな!」

「それ以上はやめてくれ」


気づけば、俺は前に出ていた。

動かずにはいられなかった。


クラリスが目を見開く。その顔を見て、心臓が高鳴る。


「確かにお前らから見たら俺は半端者かもしれない。だが……剣を振るう理由や重さを、否定はするな」


俺の声に、彼らは一歩退いた。

アガットはなおも剣を抜こうとする。


「それに……俺の大事な人を馬鹿にするな。癪に障る」


自然と闘気が漏れた。だが心は軽い。


「ふ、ふざけるなよ――!」

「何をしているお前たち!」


アガットが叫んだ瞬間、横合いから怒声が飛ぶ。


「グ、グライス副団長……」

「多勢に無勢。騎士にあるまじき行為だ。恥を知れ」


駆け寄ったグライスの一喝に、騎士たちは恐れをなして去っていく。

アガットだけは最後まで俺を睨み、鬼の形相で背を向けた。


「大丈夫か?クラリス、ダレン」

「ああ……助かった」

「ありがとうございます、副団長」


グライスは俺に謝罪を残し、訓練場へ戻っていった。


「.....ダレン、聞いてたんだ?」

「すまなかった……」

「いいよ」


言葉を交わすが、沈黙が重く落ちた。

だが、その沈黙の中で、クラリスの姿はなぜか一層まぶしく見えた。

金の髪が揺れ、碧眼が光を宿し、ただそこに立つだけで美しかった。


「そ、そろそろ行こっか?」

「あ、ああ」


気まずい空気を抱えたまま、俺たちは並んで歩き出す。


訓練場に戻ると、まず対人格闘が行われ、俺は師匠から習っていたこともあり無難にこなすことができた。

最後には闘気の修練があり、それぞれがただ地に座り集中する地味なものでもあった。

俺は剣を通し、闘気凝縮を使い、他のものの状態を見る。

範囲を限定すれば、過度な集中力は必要なくなっていた。

この感覚で見るに、やはり五剣候補の三人はずば抜けて闘気の制御がうまかった。

クラリスに至っては、俺の闘気凝縮を試そうと四苦八苦しているように見えた。


それから、闘気の修練も終了し、訓練は終わりを告げた。

修練中もその後もアガットらの動きもなく、俺は何やらかしこまりながら話すグライスとユリウスに挨拶を済ませ、待っていたクラリスの元へ駆け寄った。


「悪い。待たせたな」

「ユリウス....と仲良くなったんだね」

「仲良くなれたかはわからないがな」

「悪い人ではないと思うよ」


そう笑う彼女に、胸がまた高鳴った。

まるで日常の一幕のように、俺たちは喫茶コメールへと足を向ける。

歩幅は違えど、不思議と歩調は揃っていた。

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