七話 彷徨う道筋
俺はその後、グライスに言われクラリスの後を追い、駐屯所を回っていた。
歩いている中で、騎士から送られる妙な視線を気にしないようにクラリスを探す。
結局施設内では見つからず諦めて外へと出ると、建物の入口にあるベンチに座るブロンド髪の女性が座っていた。
俺は近寄り、俺が目の前に立ち、影が刺さったことに顔を上げたクラリスはこちらを見た。
「隣....いいだろうか」
「あ、うん。いいよ」
クラリスから許可を貰い、少し間を空けて座った。
しばらく沈黙が流れ、騎士たちの話し声が微かに聞こえるだけだった。しかし、クラリスがついに口を開いた。
「ダレンはさ、何のために強くなるの?」
開いた口から放たれた言葉は強さの本質を問うようなものだった。夢を持ち、貪欲に進む彼女に対して、俺は正直に答えなければならない気がした。
「強くなれば.....何も失わない。人から認められ、頼られる。それに....他人に依存せずに済む」
「私とは全然違うね」
「クラリスみたいな立派な目標も目的もない。俺のは...ただのわがままさ」
俺の場合は、ただ強くなる。それが目的だった。その先など考えず、先の見えない闇にただ突っ込んでいるだけだ。
それと比べクラリスは、光に向かいどんな壁が邪魔しようと、進み抜けられる意思を感じる。
「私は、誰かのために守るために剣を振るうよ。それが私の決めた生き方。何があろうと曲げることはないよ」
「ああ....立派だな俺と違って....」
「ダレンはさ、強いよ。守られる必要がないくらいに」
クラリスは、澄んだ空を見上げそう言った。その言葉に俺は認められた嬉しさや、ただ孤立したような寂しさも感じた。
「でもさ、自分で自分を縛ってるよ。人に依存しない分、自分で背負いすぎてる。その強さは悲しいよ」
クラリスは空から俺へと視線を移しそう言った。まるで心の奥底を見透かしたような碧眼から俺は目を背けた。
「強くなっても....俺が本当はどうしたいのか見えないんだ。どこまで行っても見つけられる気はしない....」
「きっとダレンのその強さは弱さの裏返しだと思うよ。じゃあさ....」
そしてクラリスは眩しいばかりの笑顔を作った。それは母ににていたずら心も混ざりながらも、優しさと強さがあり俺には輝いて見えた。
「一緒に見つけよ?」
その言葉に胸が締め付けられる。人に依存しないといいながらも、こういった優しが胸にしみて痛むが同時に、温かかった。
「俺の方が慰められてしまったな」
「ははっ。確かにそうだね。でも一人で抱え込まないでね」
「ああ....善処するさ」
俺はその言葉を完全には肯定できなかったからこそ、曖昧な言葉で返してしまった。
しかし、クラリスはそれを気にしない笑顔で、修練場で見せた顔はなく晴れやかだった。
「気分転換にシュワーゼでも飲みに行こうよ」
「そうだな」
そして二人して立ち上がり、陽があたり明るく照らされた先へと歩いていった。
ーーーーーーーーーー
「あ、探索者協会に寄っていってもいいか?」
「うん。いいよ」
街を二人で歩いて以前の店へと向かっていた矢先、昨日のことを思い出し、探索者協会へと向かった。
「あ、兄貴!」
「あ、ダレンさん!昨日はありがとうございました!」
到着すると早々、エリーとザックに出くわした。
恐ろしい勢いで顔を近づけ、感謝を述べる。そレを恥ずかしいと感じながらも嬉しさを感じた。
「それよりガストンの調子はどうだ?」
「今日の朝目を覚ましてご飯もきっちりと食べてましたよ」
「兄貴もどうせなら顔だしてやってください」
「そう...だな。クラリス、少しいいか?」
「大丈夫だよ」
俺は共に来ていたクラリスに聞き、問題は無さそうにクラリスはうなづいた。すると、二人は俺の横にいたクラリスに気付き、俺とクラリスの交互に見ていた。
「その人は?ダレンさんの?」
「兄貴も隅に置けないすね」
「そういうんじゃない。彼女は俺の.....友人?」
確かに言われてみれば、俺とクラリスの関係性は何か疑問に思った。昨日会ったばかりで友人もあれだが、今日はかなり繊細な話をしたので、知り合いとも言い難い。
「なんで疑問形なのダレン。友達よ」
俺が回答に悩み、黙り込んでいるのを少し笑いながら、クラリスは答えた。
それを面白く思わなかったのか、二人は少々ふてくされた様子で俺たちをガストンの元へと案内した。
「入るぞガストン」
ザックが扉を開け、療養所らしき場所へと入っていった。他にも何人かいる中で、一番奥のところに昨日よりも一回り大きくなったガストンらしき人物がいた。
「ザックじゃねぇか。見舞いに来たのか」
「あ、ミゲルさんじゃないですか」
「エリーも来てくれたのか。ん、その二人は?」
すると、それはガストンではなく彼に似た人物であった。灰色髪に、左目には眼帯。明らかに多くの戦いを乗り越えてきた戦士そのものであった。
ガストン自体は、その目の前の寝台でいびきをかき、元気そうな様子で寝ていた。
「ミゲルさん、この男の人がガストンを助けてくれたんですよ」
「そうです。ダレンさんです」
「おお!あんたか俺の弟を助けてくれたのは!礼を言う。ありがとう」
ミゲルと呼ばれる人物は、ガストンの兄のようだった。そして彼は力強く俺の肩を叩き、豪快に笑いながら礼をいった。
「まあ....成り行きだ。あまり気にするな」
「そうもいかねぇさ。これでも特級。多少は稼いでるんだぜ。何かおごらせてくれ」
「それはありがたいが、この後は予定があってな。また今度にしてくれ」
「そうか.....なら仕方ないか。まあいつでも声をかけてくれ!」
それからこの話声が聞こえる中でも、いびきをかき続け眠るガストンの傍で、ザックが昨日の状況をまるで英雄譚のように語っていた。
「ほんと兄貴はすごかったぜ!」
「確かに並みの動きじゃなさそうだな。ダレン、おめぇ等級と年は?」
「等級は一級。年は十七だ」
俺がそう答えると、クラリスも含め四人が驚き、場に沈黙が生まれた。何かまずいことを言ったのかと思い、俺は困惑した。
「ザックたちと同い年じゃねぇか.....しかもその年で一級?」
「まじかすごいな兄貴!」
「すごいですねダレンさん!」
俺は三人の反応の度合いがわからず、クラリスへと助けを求め視線を送った。するとクラリスは少しあきれたような顔で答えた。
「私も探索者はあまり詳しくないけどーーーーー」
クラリス曰く、基本二十までは四、五級が当たり前。その先は三級でくすぶり、引退していくのが大半だという。二、一級まで行けば猛者の一人として数えられ、特級ともなれば並みのものでは到底たどり着けない域だという。
「だが師匠は二十一で特級になったから、まだ序の口だと言っていたが.....」
「どこのどいつだそりゃ?いや待て二十一で特級だと......まさか『虚剣』のアルケか?」
「そうだが.....それがどうかしたのか?」
俺の発言にミゲルは、一瞬驚きを見せたあと、怒りのような感情を見せた。
「あいつか....そしてその弟子か......」
「やべぇよ。エリー。ミゲルさんがキレてるよ.....」
「『虚剣』の話は禁句だったもんね.....」
そのミゲルの怒りの表情と二人の反応から、師匠とかつて何かあったことは予想できた。
「『虚剣』は俺がガキの頃、村に来てな。村一番の俺を才能がないと言って帰っていきやがったんだ。それを見返したくて、俺は特級を目指した」
師匠は、基本嘘偽りは言わない。だからこそ正直すぎて人の心をかき乱す。師匠を知っているからこそ、同情心も少し沸いた。
「だが確かに剣の才能がないことに気付いた。それは奴の言う通りだった。だからこそこの斧と出会えたんだがな」
「それは.....ずいぶん大きい斧だな」
ミゲルの背に担がれた斧は、成人男性ほどの長さを持ち、その刃もその半分ほどの長さを持っていた。
「これは特級遺物だ。最初は普通の斧を使っていたがな。俺はこれで『虚剣』と戦いたかったが.....だがその弟子と出会えたのは僥倖だ。いつか会わせてはくれないか」
ミゲルは、怒りを顔に出しながらも申し訳なさも含まれていた。師匠本人ではなく、その弟子へと頼みごとをすることに。
「正直乗り気ではない。あの人が一つの場所にとどまっている気がしないからな」
「それでもいい。いつか頼む」
「ああ」
こうして俺を介したミゲルと師匠の約束が決まった。勝手なことだろうが、師匠が原因でもある。会ったときには仕方ないことだと割り切ってもらうことにした。
「んんん。兄ちゃんうるさいぞ」
「うるさいのはお前のいびきだ。ほら恩人にお礼は言え」
そこについに目を覚ましたガストンは、俺に気付きあの時の状況はおぼろげながらも覚えていたらしい。
「あ、あの時はありがとうございます!ダレンさん」
その礼に俺は、軽く返した。その後、少し会話をしたのち、俺はクラリスを連れて治療院を出た。




