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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
二章 自己の先へ

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四話 誰が為に

「そこまで!」


俺とグライスはそれぞれ寸止めしていた剣を収め、拳を下ろして互いに少し距離を取った。


「すごいな……正直、負けると思ったぞ」

「いや、グライスさんも最後に反応してくるとは。お見事です」


完全にとらえたと思っていた攻撃だったが、あの状況下でも防御ではなく攻撃に出てくる。仮に短剣でも持っていたら、俺の剣先よりも先に首へと届いていただろう。

屈強なのは体だけではなく、その心意気でもあった。その強さに素直に尊敬し、俺は礼を取った。


「よせ、ダレン。今回は引き分けだった。俺のことは気安くグライスと呼んでくれ」

「拳と剣だからな。実際はダレンの勝ちじゃないか? 私のこともエドでいい。よろしくな」


二人は俺の実力を実際に見て、本当に認めてくれていたのだろう。これまでは“父の息子”どまりだったものが、ちゃんと“戦友”のような扱いへと上がったような気がした。不思議と懐かしいようなこの空気に、俺の頬は自然と緩んでいた。


「はい。分かりました」

「敬語もいらないさ。五剣として迎え入れたいぐらいだがな、ははっ」

「あ、は、いや……わかった。グライス、エド」


そして周りの若い騎士たちからの興味の視線から逃げるように、二人を連れ立って修練場を出た。


「それでダレンは誕生祭まではどうする?」

「探索者として、もう少し情報を集めてくる」

「了解だ。連絡の際は誰かを寄越しておく。たまに顔を出しに来てくれ。今度は門番に伝えておくからさ」


門までエドとグライスに見送られ、軽く挨拶を交わした後、騎士団駐在所を出た。

そう長くいたわけではなかったが、妙な懐かしさに、早く出なければならないことに口惜しさを覚えた。


まずは誕生祭までに、ある程度の貴族や帝国の情勢を知っておく必要があった。

ただ宿を見つけることから始めるために、探索者協会へと向けて足を運んだ。


――――


あれから翌日。宿で休みを取り、普段通りの鍛錬を行った俺は、帝都に最も近いラウド遺跡に来ていた。


「ずいぶん気味が悪いところだな……」


ある程度探索を進め、中層まで来ていた。そこは情報としても聞いてはいたが、“不死人”と呼ばれる魔物が出る階層だった。

不死人は素材と呼べるようなものはなく、探索者からすれば一切うまみのない魔物である。


「グウアアア……」

「また来たか」


こちらへ寄ってきた二体の不死人に対して、俺は突っ込み、首元めがけて剣を振るう。完全な致命傷を与えなければ動くため、一撃でケリをつける必要があった。

一体の首を切り落とし、そこに間髪いれず突っ込んできたもう一体に対しても、振るわれた腕をよけながら首を切り落とす。

それからこの層から早く離れたいがために、さらに底へと足を進めた。


「きゃあああ!」

「ああ、くそっ!」


すると、奥の方から戦闘の音と人の声が聞こえてきた。そこには緊迫した状態であることが声からでも分かった。今では懐かしいとも思える状況。

だが今の俺なら、多少の力はあった。向かわない手はなかった。

声のする方へと地を力強く踏みしめ、全力で走った。


すると、男が二人、弓を背負った女が一人の集団がいた。さらにその先には不死人が十体近くおり、その中には通常個体より大きいものがいた。


「おい! 大丈夫か!」

「あ!? あんたも探索者か!? 助けてくれ!」


集団のうちの一人の声を聞き、俺は不死人の群れへと突っ込んだ。大きい個体は後ろにいる。まずは手前の通常個体から片づける。

姿勢を低く保ち、振るわれる腕をかわし剣を振るう。さらに手首を返してまとめて三体を倒す。むやみに攻めると囲まれる可能性があるため、一瞬後ろへと体を引き、距離を取りながら残りを倒していった。


「残るは、通常が二体……とでかいのか」


俺が距離を取り、間合いを確保していると、まとめて三体が攻め込んできた。

所詮は魔物。知能はなく、ただ俺を殺すことだけを考えている。師匠や父、グライスに比べればなんてことはない。


正面からくる二体をまず、一振りでまとめて切り伏せた。だがそこに、まるで木のような太い腕が振るわれる。俺は直前でしゃがみこんだ。その威力は風切り音が耳をかすめるほど。

闘気でちゃんと強化していなければ、致命傷にもなりうるものだった。


しかし、巨体ゆえか動きはのろい。ふたたび俺に対して低めに腕が振るわれるが、それを跳躍し一気に首元へと近づき、剣を振るった。

切り伏せた巨体の不死人はそのまま、地鳴りのような音を立て、地面へと倒れていった。


「ふう……こんなものか」

「あ、ありがとう……ございます」

「いや、礼はいいさ」

「あ! そうだ! ガストン! 大丈夫か?」


一人の爽やかそうな男に礼を言われるが、そのまま仲間の元へとすぐに駆けていった。俺もその背を追うと、もう一人の体の大きい男は不死人の攻撃を受けたのか、うずくまり立てなくなっていた。


「あ、あの、どうにかなりませんか!?」


女の一人にそう言われ、けが人のもとにしゃがみ込み、負傷した部位へと手を伸ばした。


「ああ!」

「ここが痛いのか?」


俺の問いに怪我をした男は、痛みからか声ではなく、全力でうなづいていた。


「肋骨が折れているな……臓器に刺さっているならかなり危険な状態だ」

「ならどうすればいいんですか?」

「祝福を使える者はいないのか?」


それに対し二人は、ただ目を伏せ、首を振るだけだった。これは時間との勝負。遺跡内で祝福を使える者に出会えればいいが、危険も多い。


「このまま帝都の教会へと向かうぞ。そこの……」

「俺はザックです。こっちがエリーとガストンです」

「ならザックはガストンを背負え。俺が道を開く。エリーは後ろから援護をしてくれ」

「は、はい!」

「よし、急ぐぞ!」


そして俺が先頭となって出口に向かって進みだす。途中で遭遇した魔物も、できるだけ時間をかけず一振りで片を付け、速度は落とさない。


「すごっ!」

「はぁ、はぁ……ありゃ相当等級も高いん、じゃないか……」


二人もなんとかといったところでついてきている。あとはガストン次第。果たして持つだろうか。

そして一人を背負い、三人で全力で出口へと息を切らすこともいとわず走り続けた。


かなり走った先に、出口とみられる光が見えた。もう魔物の危険はなく、このまま走り去りたい。

しかしザックの体力は限界のように思えた。ほとんどを気力で走り、今にも蒸発しそうな様子だった。

そして、そのまま出口を出ると、俺たちを迎え入れるかのように外の明るさが照らされた。


「はぁぁあ、やった出口だよ!」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「ザック、まだ行けるか?」


それにザックは首を縦に振ったが、話す余裕すらも残されていなかった。


「ここからは俺が背負って帝都まで行く。あとは任せろ」

「でも……」

「いいから。もう限界だろう」


それに対し、二人は悔しそうにしながらも、俺の言っていることが間違いでないことを理解していた。


「くっ……あとはお願い……します」

「お願いします……!」

「ああ」


そして俺はザックの代わりにガストンを背負い、闘気を全力で練り、走り出した。


走りながら考える。俺はいつからあんな言葉を吐くようになったのだろうと。

自分すら救えていないのに、他人を助けようとしているのか。――ただ憧れていたのだ。

民を、俺を守る父に。意地を通す師匠に。

俺は彼らのようになれるわけがないというのに。


「考えても……仕方ないことか」


ガストンの小さくなっていく息遣いを感じ取り、無意味な考え事をやめる。

目線の先にそびえ立つ城壁へ向かい、地を蹴り無心で走った。


彼が助かることを。俺のこのわがままが少しでも誰かのためにと。

ただ願って――。


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