十話 罪と罰
そして父と共に馬に乗り、街へと向かった。
道中は父に言われるままに怪我の手当を行った。
痛みはあったが、ただ今はそれを噛み締めていたかった。
「怪我は大丈夫か」
「大丈夫....です」
怪我などどうでもよかった。
それよりも激しく動き続ける心臓が痛かった。
この胸の奥からくる何かが。
全力疾走する馬に揺られながらついに街へと到着した。
その先に広がっていた街の姿は、いつもの賑やかさとはほど遠く、業火に燃えていた。
「これは……」
父の声も耳に入らず、俺の目には揺れる炎しか映らなかった。前世のトラウマが蘇り、吐き気を必死に抑えようとするが叶わない。
「ぐうぅ……おええええ……」
――こんなことばかりだ。
これまでも、これからも、俺を縛り続ける。
あと何度自分自身を苦しめれば、本当の俺にたどり着けるのだろうか。
罪を背負いすぎてしまった。
「ダレン! 今は気を強く持て。奴らが先だ!」
父の言う通り、業火の中には俺たちを襲った黒いローブの集団がいた。
俺は胃の中のものをすべて吐き出し、ただ剣を握るしかなかった。
今は無心に剣を振るい、戦うしか俺にはできなかった。
「あああああああああ!」
俺は火の海へと駆け出し、自分を見つめる暇もなく戦い続けた。
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敵を倒していく中で、俺は光景に絶句していた。
燃える家、殺され倒れた村人。その中には見知った者の姿もあった。
「今は目を逸らしていい。向き合うのはその後だ」
父の言葉に従うしかなかった。
そして俺たちは師匠と合流すべく、道場のある場所へと向かった。
「あ……お、お前ら……」
道場近くの家で倒れていたのはカイルとミルだった。そしてその傍らには、彼らを庇うように親たちが命を落としていた。
これを見て、キールの生存にも希望はほとんど残されていないと悟った。
あいつらの夢は、炎の中で燃えて散っていってしまった。
その時、剣戟の音が響いてきた。
「行くぞ、ダレン」
「は、はい、父様」
――すまない。守ってやれなくて。夢を追うことすらさせてやれずに。
そのままの姿で残してしまって。
俺にできたのは、心の中で謝ることだけだった。
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「なんなんだこいつら!」
そこには師匠の姿があり、黒いローブの男五人を相手に同時に戦っていた。
「加勢するぞ!」
「おお、兄貴にダレン! いいところに来た!」
師匠は敵と距離を取りながら、こちらへと合流してきた。
「ちっ、ノクスとモルスはしくじったか……」
リーダー格と思われるローブの男が吐き捨てるように言う。
「あの使用人を使っても失敗するとはな....」
「使用人とはテドスのことだな....?」
その男の発言に父が問いかけた。父にはあの状況についてはある程度は話してあった。
男は嘲笑うかのような笑みを浮かべた。
「ダムナの犠牲者であったことは同情するがな....あれを作り出したのは我々ペンタグラムだというのも知らずに。哀れなものだ」
「お前ら.....!貴様らが国を滅ぼしたというのか.....?」
「使用人には別の組織による仕業だと言ったがな。まんまと信じたようだ」
父は紛争地の惨状を知っているのもあって、声を荒げ言及した。
しかし男の回答はかなり淡白なものだった。
テドスは俺たちを裏切った。しかし、彼も最初から裏切られていたのか。
全てはこいつらが元凶だったのだ。
「五剣の息子の処理に使えると思ったんだがな」
男は俺の眼を見てそう言った。
その眼は、暗く淀んでいるように見えた。
まるで俺を映しているかのようだった。
「だが兄貴。紛争地になったのは30年以上前の話だぞ....?そんな前から組織が動くのか?」
「陛下から聞いていたんだ.....ペンタグラムは首領は変わっていないが、幹部は代替わりしていると」
師匠の問いに父が答えた。
俺が八歳ごろから、状況がきな臭いとは言っていたが、そんな前から動きがあったことは予想していなかった。
「さすがにこれでは分が悪いか.....退散するぞ」
「させるか、てめぇら!」
「もう遅い。転送石、起動」
そう言った瞬間、ローブの男たちは光に包まれた。
「また会おう。次は殺す」
そう言い残しその場から消えていった。
「なんじゃありゃ……瞬間移動できる遺物か。相当な代物だぜ、あれは」
「それよりアルケ、状況はどうなっている」
「兄貴たちも見ただろう。あの有様だ。夜襲を仕掛けられ、村はほぼ全滅だ」
父は敵を追うことはこの場では諦め、現状の把握に努めようとした。
しかし、師匠の回答は決して良い知らせではなかった。
俺自身もここに来るまで見てきた。だがそれを現実として受け止めることはできなかった。
「俺は騎士団へ救援要請を出した。遺物を使ってな。来るまでに生存者を確認する」
「おうよ。それよりダレン、大丈夫か? 顔色が悪いどころじゃねぇ。死人みてぇだぞ」
「はは……そうかもしれないな」
その後、俺たちは街を回り、生存者を探した。だが見つかったのはわずか七名。
街のほとんどの者は、すでに息絶えていた。




