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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
最終章 歩みの果てに

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十話 続

ついに最終話です。

ヴォイドの消えゆく姿を見届け、俺は静かに剣を鞘へと納めた。


もう、確かめる必要はなかった。


振り返ることなく、そのまま外へ出る。

その先で、夜風が頬を撫でた。


見上げた夜空には、無数の星が瞬いていた。

闇に沈むはずの夜を、否定するかのように。

一つ一つは小さく、けれど確かに、そこに在った。


——消えずに、輝いている。


俺はただ黙って、その星空を眺める。

何も願わず、何も恐れず、目を逸らすことなく。


それだけで、十分だった。



ーーーー


いつも通り、ただゆっくりと目を開け、目を覚ました。


それはここ数年、すでに慣れきった日常だった。

顔を洗い、外へ出て、修練を積む。


汗をかき、家へ戻ると、その中にもいつも通りの日常があった。


「今日もこれ読むー!」

「また? もう飽きたんじゃない?」

「帝国の英雄譚、面白いもん」

「はいはい」


その様子を、俺はただ穏やかに、汗を拭いながら見つめている。

揃って揺れる金髪が目に入り、その光景に自然と心が和んだ。


「ダレン、今日はどっか出かけるの?」

「ちょっと外に出てくる」

「そう。気をつけてねー」


少し大人びた印象になったクラリスが、俺にそう言った。


「どこまで行くんですか? ダレンさん」


さらに横合いから声をかけられる。

昔とは違い、まっすぐに伸びた長い白髪が揺れていた。


「海岸の方までだな」

「でしたら、これを持って行ってください」


差し出されたバケットを、慣れた手つきで受け取る。


「いつもありがとな、ルシア」

「いえ。これも務めですので」


そう言って微笑みながら、ルシアは俺を送り出した。


俺は釣り竿を肩にかけ、海岸へ向かう。

道中、見慣れた二人の姿を見つけた。


「おい、ダレン! 一杯やらねぇか」

「お前ら……また昼から飲んでるのか……」

「家庭のあるやつは、付き合い悪いな、おい」


フィデルは無精ひげを生やし、酒瓶を片手に俺の肩を掴んだ。

その様子を、酒をちびちびと口にしながら、師匠は眺めていた。


「師匠も、そんなんじゃ道場の子供たちに笑われますよ」

「ダレンにそんな心配はされたくねぇな。酒のつまみ、頼んだぜ」


そう言われて解放された俺は、そのまま海へ向かって歩き出す。

潮風が髪を揺らし、目に染みた。


その一瞬の瞬きを越えて、俺のいつもの場所に一つの影があった。

俺は岩肌をゆっくりと進み、近づいていく。


「ダレンか……」

「父様は、ここで何を?」

「少し、海の様子をな」

「もう隠居したんだから、もう少しゆっくりしていればいいのに」


前よりも少し小さく感じる父様の背に、俺はそう言った。


「落ち着かなくてな。今度、また剣に付き合ってくれ」

「いいですけど……なんですか?」


問い返す俺を、父様は目を細めて見つめる。


「いや……大きくなったな、と思ってな」

「いくつだと思ってるんですか」

「親にとっては、子はいつまでも子供だ」


そう言って笑い、背を向けて去っていく父様の背中を見送る。

これまで多くを背負ってきたであろうその背を、俺は見えなくなるまで見つめていた。


やがて、海岸に一人残される。

俺はいつも通り、釣り竿を大きく振りかぶり、糸を垂らした。


ただ、待つ。


波音が響く中、俺は岩肌に腰を下ろし、広大な海を眺めた。


記憶は、ゆっくりと更けていく。


あの日から、もう何年も経った。

時と共に、記憶は薄れていくようにも感じていた。

けれど俺の心には、今もなお、一人の男の生き様が深く刻まれている。


記憶に沈み、熱を帯びる心を冷ますように、潮風を浴びる。


きっと俺も、あのままなら歩んでいたであろう道があった。

それを踏み外さずに進めたのは、仲間たちがいたからだ。


血に塗れた中で、それでも輝いていた、あの夜空の星が、俺に選ぶ機会を与えてくれた。


何者でもなかった俺が、自分を信じ、人を信じることができた。


抗えぬ定められた運命と、逃げられない罪から目を逸らさず、向き合うことができた。


生きる意味と、その意義に出会えた。


数えきれぬ痛みを超え、その先に、確かにそれはあった。


「――救いは、自分の中に……」


一人ごちた言葉は、潮風と共に消えていく。

けれど、その答えは言葉にせずとも、すでに俺の中にあった。


救いは、与えられるものではなかった。

傷つき、迷い、足掻いた末に、それでも生きると選び続けた、その積み重ねの中にあった。


どれだけ劇的で、壮大な物語であったとしても――


これは一つの生であり、人生だ。


物語の主人公は、いつだって自分自身。


終わりはなく、ただこれからも――


この生は、続いていく。

これにて物語は終了です。

それは物語としてだけであり、知らない先で続いているかもしれません。


やっとここまで書き上げた自分をほめたやりたいと共に、溢れる思いが止まりません。

あとがきも書きますので、次回も楽しみにしていてください。

この物語の裏話、全て明かします。

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