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救いを貴方へ ~痛みの先に~  作者: 湘南乃炎
最終章 歩みの果てに

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四話 鳴動

メリークリスマス!

それから、タナトスの案内に従い、俺たちは城内を進んでいた。

曲がりくねった回廊も、崩れかけた通路も、彼は一切迷うことなく進んでいく。


まるで、行き先が最初から決まっているかのように。


ヴォイドのもとへ――

あの異様な力の中心へ近づいていることを、俺たちは言葉よりも先に肌で感じ取っていた。

空気が重く、粘つき、呼吸のたびに肺の奥へ沈殿していく。


「……ここです……」


俺たちよりも距離を取って先を進んでいたタナトスが、低く告げた。


立ち止まった先にあったのは、

巨人ですら通るのかと思うほど巨大な扉。


その隙間から漏れ出す禍々しい気配は、

この先で待つ存在の“格”を、否応なく理解させてきた。


並んだ仲間たちも皆、無意識に喉を鳴らし、冷や汗を滲ませている。

ここから先は、引き返せない。


「――開けます」


タナトスが扉に手をかける。


俺たちは互いに横へ並び、短く視線を交わした。

言葉は要らない。皆、覚悟の決まった、いい目をしている。


その瞳に映る俺の姿も、同じであってほしいと願いながら。


余計な思考を振り払い、正面を見据えた。


「――皆、行くぞ」

「「ああ」」

「「はい」」


重々しい音を立てて扉が開き、

俺たちはその虚無の闇へと足を踏み入れた。


――――


「――よく来たね。『抗う者』と、その仲間たちよ」


闇をかき分けるように現れたのは、

玉座に腰掛けたヴォイド。


ペンタグラムの首魁。

そして、この世界に積み重なった因縁の中心にいる存在。


ついに――

終止符を打つ時が来た。


俺たちは反射的に剣を構え、戦闘態勢を取る。


「それに、タナトス。

君がいないのを見て、ある程度は察していたよ。……やはり君も――裏切るのか」


そう言ったヴォイドは、僅かに顔を伏せ、手を強く握りしめた。


その刹那――


底のない闇のような力が、爆発的に広がった。


部屋全体が塗り潰される感覚。

俺たちはその圧に呑まれ、呼吸を忘れ、意識が遠のきかける。


「あっ……ヴォ、ヴォイド様……お許し、を……」


「いいんだよ」


ヴォイドは、静かに――あまりにも静かに言った。


「結局、私のすべきことは変わらない。

ただ……少し、話をしようか」


とても、邪神に完全に飲まれているとは思えないほど、饒舌で穏やかな口調。

それが逆に、不気味だった。


そして――

その底知れない眼が、まっすぐ俺を捉える。


虚無を孕んだその視線に、俺は思わず息を飲んだ。


「随分、変わった目をしてしまったね。

最初はもっと……濁っていながらも、綺麗な目をしていたというのに」


「知ったようなことを言うな。

……お前も、ずいぶん変わり果てたじゃないか。

前以上に、その闇は深くなっている」


俺の言葉に、ヴォイドは一瞬、言葉を失った。


そして――

何かに引きずり込まれるように、僅かに挙動を乱す。


「……言うようになったものだね。

だが、これは進化さ。

私を裏切ったこの世界を、壊すための」


「お前が何を抱えてるのかは知らない。

だがな……そんなやり方で、救いが訪れるはずがない」


「言葉を返すよ」


ヴォイドは、ゆっくりと顔を上げた。


「君は、私たちと戦って、

今までの全てを帳消しにして――


本気で、救われると思っているのか?」


その虚無を含んだ眼を、俺は真正面から見た。


引きずり込まれる。

否定される。

存在そのものを、空っぽにされる感覚。


息が詰まり、思考が凍りつく。


この戦いが終われば――

その先に、本当に未来はあるのか。

今までの自分を、肯定できる日は来るのか。


何度も考えた問いが、一斉に押し寄せ、心を圧し潰そうとした。


――だが。


「――危ないじゃないか」


その声で、世界が弾けた。


「ダレン……!」


気づけば俺は、

師範から預かった『黒曜の剣』を、無心でヴォイドへと投げつけていた。


「……そうか。

君も、同じだと思っていたんだが。残念だよ」


「悪かっ……たな。

お前と、同じにされちゃ困る」


「なら――

もう、いいさ」


諦めたように、ヴォイドはゆっくりと玉座から立ち上がった。


両腕を広げ、

体の内側から“闇そのもの”を吐き出すように放つ。


それは、黒く禍々しい触手となり、

背後に幾重にも蠢きながら形を成す。


空間が歪み、

希望という概念そのものが、削り取られていく。


「壊そう」


静かに、しかし確実に。


「――全てを」


次の瞬間、

黒い触手が、逃げ場のない速度で俺たちへ襲いかかった。


ーーーー


「来るぞ!」


俺たちは迫りくる触手をかわしながら、ヴォイドへ向かって距離を詰めていく。


「なんだよ……この数はよ」


師匠の呟きが、戦場に掻き消されそうになりながら耳に届いた。


おびただしい闇の触手。

天井から、壁から、床から――空間そのものが敵意を持って蠢いている。

クラーケンなど、比べものにならない。


避け続けるにも限界がある。


迫りくる一本の触手へ向け、俺は剣を振りかざした。


「なっ――!?」


確かに、斬り込んだ。

だが、斬れない。


全力ではなかったとはいえ、刃は肉に沈み込むだけで、決定的な断裂には至らなかった。

想像を遥かに超える硬さに、思わず息を呑む。


その一瞬の動揺を突かれた。


横合いから伸びた別の触手が、容赦なく俺の体を打ち据えた。


「がっ――!?」


吹き飛ばされ、床を転がる。

それでも反射的に受け身を取り、なんとか立ち上がるが――


肋骨のあたりに、鈍く、重い痛みが走った。


歯を食いしばり顔を上げると、

仲間たちも同様に、次々と弾き飛ばされていた。


床に叩きつけられ、膝をつき、痛みに顔を歪める。

誰一人、まともに前へ進めていない。


――圧倒的だった。


そんな中――


夥しい闇が彷徨う戦場に、

一筋の光が舞い降りた。


「皆さん! 背中は私に任せてください!」


戦闘が始まると同時に、後方へ下がっていたルシアが、光を纏いながら声を張り上げる。


その瞬間、

体を縛っていた痛みが和らぎ、重さが嘘のように消えた。


呼吸が整い、力が戻ってくる。


「……っ!」


皆、一斉に立ち上がり、即座に戦闘態勢へと戻った。


「君、邪魔だね」


ヴォイドの低い声が、戦場を貫いた。


その視線が、明確に――

ルシアを捉えているのがわかった。


「父様! 師匠! ルシアを守ってくれ!」


俺は即座に叫んだ。


「もちろんだ!」

「とは言ってもよ! あの黒いの、硬すぎて話にならねぇぞ!」


悪態をつきながらも、師匠と父様は正面から受けることを避け、

触手をいなし、弾き、どうにかルシアへの攻撃を遮っていた。


……確かに、問題はそこだ。


あの夥しい闇を突破しなければ、

俺たちはヴォイドに辿り着けない。


それにしても――

この世のものとは思えない異常な硬さ。


一体、何が正体なんだ。


俺も触手を受け流しながら、必死に思考を巡らせる。


「ダレン……殿!」


その時、聞き慣れない呼び方と共に、叫び声が響いた。


声の主はタナトスだった。

霧のように体を揺らし、実体を曖昧にしながら、触手の攻撃をかわしている。


「闇の神性です!

少なくとも、神の力を宿しています!」


「そういうことは、もっと早く説明してよ!」


クラリスが剣で触手を弾きながら、思わず怒鳴り返す。


――神の力。


その言葉が、胸の奥で重く響いた。


神性を帯びた闇。

常識的な方法では、斬れない、壊せない存在。


なら――

それに対抗できるのは。


俺は一瞬、光の中心に立つルシアを見た。


「――ルシア!」


思い付いた考えを確信に変え、

喉が裂けるほどの声で叫んだ。


こんな日でも読んでくれる読者様ありがとうござます!


もはや同志同然です!


何があっても私だけは、あなた方の味方です

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